騎士学生と教官の百合物語

第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ

第131話 引き金は

ーー幕間ーー

辺り一面の闇景色。黒の世界。

ただ見ていた。アタシは、ただ見ていただけだった。

アタシの最愛な人がボロボロにされていくのを。

命の炎が消されようとするのを。アタシは無力だ。

思えば最初からそうだった。

ギランバルトにより汚染された王国騎士団を正そうと頑張ってきたが、一体何が変えられたんだ。

不正は蔓延し、命は金で替われ、市民は無下に扱われ、女は奴らの派閥に情婦として飼われる現実は、今も変わっていない。

力が必要だ。結局、何かを変えるには力が要るのだ。

世間では、地獄の沙汰も金次第と呟かれるように。

誰にも負けない、圧倒的な力が必要なのだ。


「いと慈悲深き人間、魔王の器。結局のところ、どうしてアンタが動く必要があるんだ。

今回のことで理解出来たはずだろ。アンタじゃ、リーゼに勝てないどころか、愛するものを無惨にも取り零してたよ。弱い弱い…かわいそうに。

結局、オーレリアを助けてやったのは『私』だ。私が身体を動かしてやったから、アイツは助かった

今のアンタのままじゃ無理だよ、キール=ゴールドウィン。」

眼前には『もう1人のアタシ』がいた。ひどく口角を吊り上げた不気味な笑いを浮かべる、アタシが。


「なあ、ちょっとだけ私を受け入れてみろ。悪いことは言わないからさ。今度またオーレリアが消されそうなことがあったらどうする？耐えられないだろ。

心配すんなよもう1人の『私』。お前がすぐに魔王になるわけじゃない。何しろ忌々しい封印があるしさ。

私とアンタが溶け合えば…まあ、ちょっとだけ考えは変わるかもしれないけど。

……私たちはオーレリアを守る力と、この腐った世界を、人間どもを変革するだけの力をじわじわ手に入れれるぜ。

新しい考え方と視界もな♪」

日々聞こえてくる、もう1人のアタシ自身の声には耳を貸さないつもりだった。

だけど結果は出てしまった。このままじゃ、オーレリアを守れない、民を、部下を、皆を守れない。

…………………………。

「ひひっ♪わかったよ、それなら手を出しな…♪私の手のひらに、アンタの手のひらを重ねな。それで私らは１つになるんだ♪」