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奥田すみれ編①中身はヴァイオレット

事故のキス

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「ハクシュン!!」

「あららー。38度、退院したばかりなのに、しばらくは家で過ごそうか。私もね、仕事を自宅でリモートできるよう会社にお願いしてみから」

風邪を引いてしまったわ‥‥それもあのハルマのせいね。

「さ、ベッドに寝て。あとでおかゆを作ってあげるからね」

そう、サヨコというスミレのお母様は私の額に手を当てて優しくベッドへと移してくれた。
お母様がいたら‥‥こんな感じなのかしら。
小さい頃にしかない薄れた記憶‥‥。

私のお母様は悲しんでいる姿と、そして‥‥大量の薬を飲んで亡くなったあの姿しか記憶にないのだから。

「‥‥熱が上がってきたわ」

少しボーとするけれど冷たいタオルが程良くて気持ちいいわ。

目を瞑ると、お母様よりセシリスの姿が思い浮かんでいた。

『ヴァイオレット、あ、あのさ、これ綺麗な花なんだよ』

『汚い手だこと』

そう小さな白い花を私に渡そうとするのを、私は受け取らなかった。そんな私の態度に、お父様は気にいらず、折檻をし始める。

『お前は!兄であるセシリスを敬え!』

バシッ!と鞭を打つお父様に、泣く姿を見せたくなくてグッと堪えた。その日、疲れたのか高い熱を出してしまった私に、お父様は見舞いなど来ない。そんな日が続いていた。

ピタと、冷たいタオルを私の額に置いて心配そうに見つめる、兄のセシリスだけだった‥‥。

何故、貴方が泣きそうな顔をしているのよ。

自分が全て私から奪った人間なくせに‥‥

どうして‥‥

フと息苦しかったのが、冷たく気持ちいい感覚になる。そっと目を開けると誰かがそばにいてくれた。

「‥‥セシリス‥‥お兄様‥‥?」

「誰、それ」

パッと目を覚ますともう夕方になっていた。私‥‥ずっと寝てたのかしら‥‥。

薄暗い部屋の中、制服姿で私の様子を見に来たようだった。

「紗代子さん、少し買い物に行ってる」

「‥‥そう」

ベッドのそばには、朝作ったであろう、オカユという白い塊が置いてあった。

「それ、食べさせてちょうだい」

「え、あぁ、まって。温める」

オカユを温め、私は一口食べる。
‥‥知らない異国の味だわ。だけど‥‥お肉より美味しいわね。黙々と食べている私に、何故か罰が悪そうな顔をするハルマ。

「‥‥あの、すみれさん、悪かった。風邪を引かせたのは俺のせいだわ」

「あら、すぐに己の過ちに気づくのは良い事ね」

「なんか急に謝る気失せるな。そんなに元気になったなら、野菜も食えよ。ずっと残してるぞ」

「嫌よ。野菜を食べろなんて」

「あんたな、何子供みたいなこと言ってるんだよ?」

何故か私にお説教をし始めるハルマ‥‥小姑だわ。私はハルマを無視してまたベッドへと潜り込む。



真夜中の12時、手鏡が光る。手鏡からは、スミレの声が聞こえる。

『やっぱり、真夜中じゃないと私達会話できないみたいですね!』

そう話を聞くと、スミレの話ではあのレオンと仲良くしているという話だわ。
ありえない!!風邪が治りかけているのに、頭が痛くなるわ。


「レオンは笑顔で何を考えているかわからない奴よ。腹黒いのだけはわかるわ、私よりなんでも早くできて腹が立つもの!私が何か言えば、突っかかってくる嫌な奴よ!」

そう私は昔からのレオンの腹黒いところを説明をしていても、スミレはあまり信じてないようだった。レオンが優しい人なわけないのに。あの男はメリットがないと付き合わない、そんな男よ。

なんだか疲れてしまい、その夜私達はすぐに眠りについた。

朝になると、何やら香りがしてきた。

「なんだ起きたのか」

何故ハルマがここで料理をして、その父であるトシヒコと、お母様は食べているわ。
テーブルが小さいのによく食べれるわね‥‥

「すみれちゃん、おはよう!調子はどうだい?」

「まあまあよ」

「すみれ、お母さんさ、今日は会社に行かなきゃならないから家でジッとしててね!まだあんたを学校に行かせていいかわからないしね!」

そうお母様達はバタバタと騒がしく「行ってきます」と出ていった。奇妙な箱の中に人が、今日の天気の予言をしていた。この薄い箱?はどういう仕組みなのかしら‥‥

「おい、朝ごはん作ったから‥‥何してんの」

「この薄い箱、不思議だわ」

「‥‥まじで言ってるのか」

何故かハルマは頭を抱えている。

「今日、午前中だけだから昼には帰ってくるけど‥‥外に出るなよ」

「何故そう警戒するのかしら」

「今のあんた、危なっかしいから。‥‥まあ、来年家族になるわけだし、父さんや紗代子さんに心配させたくないだろ」

「待ちなさい。私の朝食は?カモミールティーに高級食パンにお肉よ」

「そこの安いベーコンでも黙って食えよ」

「この私が薄いベーコンを!?貴方馬鹿にしているのかしら!!」

ハルマの服を捕まえようとした時、グキッと足首を捻らせてしまう。

「きゃっーー」

「わっ、馬鹿ーー」

バタン!と倒れると‥‥

何故か私の唇とハルマの唇が重なっていた。

薄く安いベーコンは、私の頭に乗っていた。

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