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お風呂上がり姿はずるい

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あれから義弟の真斗とは会話が増えてきた。相変わらず、ぶっきらぼうだけれど少しずつ打ち解けたような気がして嬉しいわね。

「……学校…ですか?」

お父様とお母様は私に、明日から学校へ行くよう勧めてきた。ただ今回私は事故にあい、記憶喪失という事で明日の放課後、学園長と担任の先生に挨拶をするだけらしい。

「ようやく、車!バス!タクシー!とか理解してくれたしな。飲み込みも早いし、大丈夫だろう」

「そうね!信号も渡れるようになったし!お金の使い方も理解してるし」

両親二人は嬉しそうに話しているけれど、真斗だけは腕を組み納得のいかない様子だった。

「……俺は反対。色々と騒ぎになる、知ってるだろう、コイツの評判が悪いのは。更に事故で記憶喪失なんて……大丈夫かよ」

「大丈夫さ!学校の事は真斗!お前しっかりと見てやってくれな」

「…結局俺だよな?!面倒をみるのって!」

あまり弟には迷惑かけてしまうのはよろしくないわね。
自分の事は自分でしっかりとしないと!それにこれから通う学校の授業内容は興味があるし、何より平民も貴族も関係なく、友人となり学び合える場所とは、とても素晴らしいもの。

「迷惑かけないようにするわ、真斗」

私は大丈夫よと、ニッコリ微笑むと真斗は何故かプイッと顔を向いて目を合わせてもらえなかった。

「……いや…別に…」

「…真斗、顔が赤いわ。風邪?セバスチャン、お薬あるかしら」

近くに控えていたセバスチャンにそう聞いたら、セバスチャンは頭を下げながら答えてくれた。

「紫苑お嬢様が真斗様から少し離れれば治るかと思います」

…私は疫病とでもいいたいのかしら?そう顔に出たのかセバスチャンは《思春期なので》とかなんとか言っていた。

私はお風呂に入った後、自分で髪を乾かしとかしていた。こちらの世界のメイドは基本的に料理や掃除とかなので、服を着替える、髪をとかす、などは自分でやらなければならない。私は改めて鏡に映っている、少し半渇きの髪の今の自分の姿を見つめる。

「はぁ……今の私の姿を、ルイ様とリオンが見たらビックリするわね」

そう呟いてると、コンコンとドアを叩く音がした。メイドの方かしら?

「…俺なんだけど」

真斗の声で私はドアを開けた。

「どうしたの?」

そう私が真斗に質問すると、何故かまた固まっている真斗…やっぱり風邪を引いてるんだわ。

「……や…わるい。風呂上がりだったみたいだからまた後でにする」

「別に大丈夫よ?話しがあるからきたのよね。とりあえず部屋にと言いたいけれど、流石に義理の姉弟とはいえ、結婚前の男女が一つの部屋で話すのは駄目よね」

そう私は部屋から出る。真斗は何故か遠く離れる。話をしに来た割には、遠く話すのね。

「……学校へ通って大丈夫なのか?」

「やっぱりその事ね。えぇ、大丈夫よ。勉強しなければならないし」

「あー……。…面倒臭いけど、学年は違うけど、…なんかあったら俺にいえよ」

「あらっ、真斗は姉想いのいいこね」

本当にぶっきらぼうだけど、真斗は優しい。私は前も今も、弟に恵まれてるわね。遠くにいた真斗の方へと私は近寄り彼の頭を撫でようとしたら、意外と背が高くて、背伸びをしたら真斗に手首を掴まれた。

「…あー……そーいうのはダメだから」

子供扱いをしないで欲しいみたいだったので、私はコクンと頷いた。

「ふふ、真斗は心配症なのは意外だったわ。おやすみなさい」

「……おやすみ」

バタンとドアを閉める紫苑を見送り、真斗は自分の部屋へ戻ろうと階段の方へと降りたが途中座りこむ。


「……アレは、ズルいだろうっ」


そう真っ赤な顔をしながらため息をしていた。
その時スッと、自分の目の前に水が入ってるコップと薬が出てきた。

「紫苑お嬢様は無自覚のようですから。でも真斗様、一つ屋根の下だからとはいって理性を失ってはいけませんよ」

「……いや、長峰いつからいたの」

「最初からでごさいますが?それと、このお薬は紫苑お嬢様からです。夕飯の時に頼まれていたので。では」


セバスチャン、いや、長峰はスッと影のように消えていった。


「………忍者かよ…」

そう真斗は呟いていた。



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