はじまりはガシャポンで!

米と麦

文字の大きさ
上 下
54 / 58

23.反省-1

しおりを挟む

 やってしまったーー

 ビアは、城で自室としてあてがわれた部屋で、ベッドに顔を埋めさせながら一人静かに反省していた。理由はただ一つ。昨日、再会したテオドアに、半ば八つ当たりのような逆ギレを起こしてそのまま帰ってきてしまったことだ。

 久しぶりにテオドアに会えて嬉しかったはずなのに、五体満足で動く彼の姿を見てほっとしたはずなのに、その気持ちは一周回って怒りにかたちを変えていた。
 その上、あのさも何事もなかったかのような彼の態度だ。テオドアなりの優しさや気遣いであることは重々承知の上で、それがビアの怒りにさらなる拍車をかけた。
 ここ数日のビアの気持ちを、あの男は軽んじ過ぎだ。

(……とはいえ、実際私がノイマン副隊長だったとしても、おんなじことするだろうなあ……)

 テオドアは彼が城に運ばれてきた時の姿を、ビアが目撃していることを知らない。だったら、わざわざ不要な心配を招く事実など、言わぬほうが良いと考えるのが普通だろう。実際彼が軽んじたのは彼自身の身体であって、その事実になぜかビアが、勝手に裏切られた気持ちになっているだけなのだ。つまりは単なる八つ当たりだ。だから今、こんなに自己嫌悪に陥っている。

(結局昨日は、自分が泣いてるのに気づいた途端、なんだか恥ずかしくなって逃げるように帰っちゃったのよね――)

 あの時のテオドアの凍りついた表情が忘れられない。可愛いブラックシェパードは、あのあと困ったようにひたすらオロオロととまどっていた。逃げるように去る間際、その姿さえかわいいとて思ってしまった自分が憎い。
 今頃、騎士団寮で項垂れているのではなかろうか。それとも美味しいご飯をもらって悩みなど吹き飛んでいる頃だろうか。いずれにせよ、本来のテオドアではなくブラックシェパードの姿で想像してしまったので、自分の頭はもう手が負えないのかもしれなかった。


「失礼。ビア様、今、よろしいでしょうか?」

 顔を枕にぐりぐり擦り付け自己嫌悪に悶絶していたところで、ドアの向こうからノックの音とメイドの声が聞こえた。

「は、はいっ!少々お待ちください!」

 すぐさま起き上がりさっと髪と服を整える。最後に鏡で軽くチェックを終えると、ビアは自室のドアに手をかける。一礼して部屋に入ってきた。

「急ですが、フェリクス様より言伝があり、十六時からお茶でもいかがかとのことです。なんでも話したいことがあるそうで……」

 メイドの言葉に一瞬首を傾げる。十六時まであと二時間ほど。フェリクスが急な誘いとは珍しい。――とはいえ今日は予定は入っていないので問題はなかろう。ビアが軽やかに返事をすると、お茶会に向けて身支度を始めることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。 結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに 「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

処理中です...