華と毒薬

アザミユメコ

文字の大きさ
上 下
36 / 45

二十七 願い ※R18

しおりを挟む
 すでに深夜。桜蒔おうじが勇んで帰ったあと、志千しちたちも牡丹荘に戻った。

 寝支度をして床につく前に、百夜ももやの部屋に向かった。
 さきほどの話し合いのとき、一言も喋らなかったのが気になっていたのだ。

「おーい、百夜、平気か?」
「志千……」
「ひどい顔色だな。ほら、もう布団はいれ」

 椅子に座って、蒼白な顔で志千を見あげる。

「母を捜すのを、みなが協力してくれているのはわかっている。でも、相手は刃物まで持っていた。また誰かに危険が及ぶかもしれないと思うと……怖くなってしまった」
「まずは、体力なしの桜蒔先生を一番に心配してやらねえとなぁ」

 そう笑っても、百夜は深刻な表情を崩さない。

「あの男が志千に刃を振るった映像が、頭に焼きついて離れないんだ。なあ、志千、ちゃんとそこにいるか?」
「いるよ」
「ほんとうに? 目が覚めて、夢だったらどうする」
「朝までここにいる。おまえが眠って、起きるまでいるから」

 そういうと、ようやく体を起こして布団にはいってくれた。

 胸の中で抱きしめて、細く整った鼻梁にくちづける。
 唇を塞いで口内を満たすと、百夜は背に手をまわしてしがみついてきた。
 暗闇で存在を確かめるみたいに、必死で志千の肩や背中の輪郭をたどっている。 

「志千、志千……。お願い、ぜんぶしてほしい」

 はじめて体の奥深くに触れた日から、何度か繰り返して慣らしてはいる。
 だが、百夜の負担を考えてまだ繋がってはいなかった。

「志千がちゃんとここにいるって、感じさせてほしい」

 返事のかわりに、組み敷くように覆いかぶさる。

 薄い色の髪が床に広がり、反射して光っている。不思議な模様を描く瞳が揺れる。
 月明かりに照らされた青年の姿が、闇に浮かびあがって見えた。

 初めてこの部屋で出会ったときのような夢うつつではなく、確かな実感をともなって自分の腕にいる。
 充満する花の色や香りさえ、妙に生々しく感じられた。

 首筋の盛りあがった部分を軽くむ。血管がどくどくと動いているのを唇で感じる。
 そのまま舌を這わせて鎖骨に移動し、さらに胸の突起に歯を立てた。

「んっ……!」

 もとから敏感だったが、甘く漏れる声に、より深い快感が混じるようになった。

 もてあそぶように転がすと、身をよじって悦ぶ。
 何度も、何度もしつこくねぶって、震える細い腰を両手で捕まえたとき、志千も歯止めの効かない昂ぶりに襲われた。

 小瓶に移していたふのり糊を指で掬い、手のひらで温める。
 百夜の両膝を割って脚のあいだに入り、すでに膨らんでいた二人のものを、まとめて握りしめた。
 擦り合わせれば、潤滑剤と鈴口から漏れでる液体が混ざって、くちゅくちゅと音を立てる。

「んっ、んあっ……」

 敷布を懸命に捕まえ、空いたほうの手で口元を押さえて──顎に唾液を伝わせながら嬌声を殺している百夜を見下ろしているだけで、すぐにでも熱を放ってしまいそうだった。

 百夜が一度達したのを確認し、片脚をあげさせる。膝の裏側を掴んで足首を自身の肩に乗せた。

 露わになった最奥に潤滑剤を塗り込め、一本、二本と順に指を沈める。
 何度目かで発見した、上壁の弾力がある箇所に触れる。指の腹でし潰し、くすぐるように小刻みに擦ると、あきらかに百夜の反応がとろけた。

「んぁ……そこ……気持ちぃ……」

 声が我慢できなくなって、小さく喘ぎだした。
 指を三本に増やして入り口で円を描き、柔らかくほぐす。
 腰が細かく痙攣していたが、もう一度気をやる前に指を抜いた。

「百夜、入るよ。いい?」

 こくこくと目をきつくつむって頷く。
 志千はすでにはち切れそうになっていた自身の先端をあてがった。
 百夜の呼吸は浅く、身を縮めて強張こわばっている。

「力、抜いて。大丈夫だから」

 髪を撫で、触れるだけのくちづけをする。少し脱力したところで切っ先を押し入れた。

「いっ……!」

 肩に爪が立てられる。
 痛がる声に反応して、動きを止める。

「痛い? 中断するか?」

 力を込めてしがみつき、志千を見あげて涙目で懇願した。

「いやだ、やめないで」
「煽るなよ……。この先で止めろっていっても、もう知らねえからな」

 じゅうぶんに解された百夜のなかは、ぬちっとした水音を立てて志千のものを飲み込んでいく。

「う……ん……」
「ほら、ちゃんと息吐いて」

 できるだけ優しくしたかったが、自分も余裕がなくなってきた。
 百夜の背が浮くほど掻き抱いて、押し拡げながら進んでいった。

「すご……百夜のなか、すげえ気持ちいい。狭いのにやわらかくて、あたたかい」
「っ、いわなくていい……」

 最奥にたどり着いて、ゆっくりと腰を打ちつけながら、唇を塞いで舌を絡め、繋がっている歓びを丹念に味わった。

「百夜、好きだよ」

 耳元で名を呼ぶと、内壁が震えて締めつけてくる。

「し、ちぃ……、しち、おれも、すきだ」

 泣き濡れた声で呼び返しながら、志千の腕の中で昇りつめて、二人の体のあいだに生温かい液体を吐きだした。

「悪い、もうちょっと付き合って」

 体勢を変え、今度は志千が下になる。
 床に膝をつく恰好で、百夜を自分の上にまたがらせた。

 挿れてみて、と優しく命じれば、戸惑いながらも志千のものを導いて、奥深くで包みこんだ。

「いい眺め」

 銀色の光に照らされた月下の妖女が、いまは自分の手中にいる。

「あ……ん、はぁ……」

 ぎこちなく腰を動かしている胴体を掴み、親指の腹で胸の突起を同時に愛撫し、刺激する。

「っ!! ふあっ──!!」

 なかがさらに狭まった。緩やかな百夜の動きが、だんだんもどかしくなってきた。
 細腰を捕らえて、下から突き立てる。

「あっ、んっ! 待っ、それ、激し……だめぇ、また、でる……ああっ!!」

 声が上擦って言葉になっていない訴えを、無視して揺さぶりつづけた。
 仰け反って逃げる百夜の腰を押さえて──

「……はっ、もう、俺もむりそ……。百夜のなか、だしていい?」
「ん……っうん──」

 何度も最奥を責め立て、深くに熱い白濁を吐きだした。


 ***


 体を清め終え、ふたたび横になって腕に抱いたた。

「大丈夫? つらくないか?」
「──明日は腰が立たなそうだな。撮影が昨日で終わっていてよかった」
「ご、ごめん」

 いきなり激しくしすぎたかもしれない。
 つい夢中になってしまった。

「百夜は、どうだった?」
「どうって……」

 と、口をつぐみ、しばしの沈黙がおとずれた。

「えっ、回答なし!?」
「なぜ不安そうな顔をする」
「いや、だって、男に抱かれて違和感がなかったかとか、嫌じゃなかったか気になったんだよ。おまえも前に訊いてきただろ」
「ああ、なんだ。そういう意味か」

 いまさら気にするとは思わなかった、と百夜はなんでもないことのようにいった。

「どういう意味だと思ったんだよ」
「気持ちよかったかと、訊かれたのかと思った」
「じゃあ、そっちの意味なら、どうだった?」
「……教えない」
「いいよ、今度は最中に訊くから。ああいうときのおまえは、素直で可愛いもんな?」
「うるさい、馬鹿」

 頬を赤くして拗ね、志千の胸に顔を埋めた。
 無防備に力の抜けた体をゆっくりと撫で、手の甲に自分の手のひらを重ねた。

「百夜、俺はどこにも行かないから。ずっと隣にいる。それでいい?」
「……いい。他はなにもいらない」

 なにをしてやれるか、どうしたら責任が取れるか。
 どうしてあんなに悩んでいたのだろうと可笑しくなるほど、行き着いた答えは簡潔だった。

 抱いたらなにかが変わるのかもしれないとも思っていたが、ただ愛しさが増しただけだ。

 百夜との不思議な縁を繋いでくれた失踪事件が、どのような結末になるのかまだわからない。
 願わくは、この大切な青年が、また歩みを止めてしまうほど傷つきませんように。

 やがて、静かな寝息が聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

後輩の甘い支配

ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)  「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」 退職する直前に爪痕を残していった後輩に、再会後甘く支配される… 商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。 そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。 その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げる。 2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず… 後半甘々です。 すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

処理中です...