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二十五 男色の心得(後編) ※R18
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顎を指で掴んで、唇を開けさせる。
その先に百夜の柔らかい舌を見つけ、唾液を絡め、輪郭をなぞり、軽く吸った。
「くち、もっとあけて」
「ふ、あ……」
普段の低い声からは想像もつかないような、甘い吐息が漏れた。
すでに大きく開いていた衿の隙間から手を入れ、脇腹を指でそっとくすぐる。
畳の上に押し倒すと、もうほとんど腕に引っかかっているだけとなっていた着物が、蝶の羽のように床に広がった。
腰から胸のあたりに五本の指を移動し、肌の表面をさするたび、細身の体がびくっと跳ねた。
ふたたび口腔内を舌で満たし、ひとしきり味わったあと、耳と首筋に幾つものくちづけを落とした。
鎖骨に歯をたて、桜色に滲む突起を舌先で転がす。
「し……しち……まっ、て……」
触れられることに過敏なのはわかっている。
気持ちよくさせる方法など知らないから、ひたすらに百夜の反応を追っていった。
本のとおりにしなくてもいい。もっと自然に湧き起こる欲情に身をまかせればいい。
もっとも嬌声があがる部分を何度も攻める。
そして、ただ志千が触れたい場所に触れて、口をつけたい場所につけた。
一度体を起こすと、百夜は自身の手のひらで顔を覆って、浅く息をしていた。
「隠すなよ。ちゃんと見せて」
強引に両手首を引きあげ、頭上に拘束する恰好で床に押しつける。
もともと肌が白いせいで、頬も、体も、内側から上気して桃色に染まっていた。
口の片端から唾液を伝わせ、眉根を寄せて、蕩けた涙目で志千を見あげる。
こんな顔、するのか。
これはまずい。非常に。
「──理性、ぶっ飛びそう」
この表情、細い体、絶対に他の奴になど見せない。絶対に離さない。
自分の強すぎる独占欲に対し、多少は残っていた罪悪感が、鎖が切れるみたいに消えていった。
腿の内側を撫で、先端が濡れて硬くなったものをそっと握りしめる。
「なぁ、ここ、自分で触ったりする?」
「っあ、ときどき……うずい、て……」
「どんなこと考えながらしてんの?」
「さ……最初はべつに、なにも……ただ、なんとなく、気持ちよかっただけで……でも、このまえは……」
「このまえ?」
「一緒に……出かけた日の、夜は……しちのこと、想いながら……」
「出かけた日って……」
十二階にのぼった日のことだろうが、あの夜はたしか、この部屋で抱き合って眠っていたはず。
「俺のすぐ隣で? 隠れてそんなことしてたんだ。すっげえ悪い子じゃん」
とろとろと溢れていた液を絡め、先端から根本まで強く摺りあげる。
「ふあっ……!」
まだ達しないようにときどき力を緩めながら、もう片方の手で、薄く開いていた唇に長い指を二本突っ込み、口内を掻き回した。
指先で舌や口蓋をすりすりと小刻みに撫でると、声にならない悲鳴とともに唾液がこぼれた。
「後ろも触っていい?」
百夜が必死に見あげていた瞼をきつく閉じた。
それを肯定と受け取り、両脚を開いて膝を立てさせる。
糸を引いている指を口から抜きだして舐めとり、自分の唾液を絡ませて、脚の付け根の深くに滑り込ませた。
「んっ、あぁっ……! そこ、変……!」
触れるか触れないかの力加減で、窪みの周縁をなぞる。
あきらかに反応が変わり、嬌声が高くなった。
「ふうん、百夜はこっちのほうがいいんだ」
「ちがっ……ぁ……!!」
少しずつ、少しずつ時間をかけて解して。
ようやく指が第二関節まで一本入ったところで、百夜の白濁の液体がほとばしった。
荒い息で上半身は大きく上下し、腰から膝は痙攣して震えている。
初めてなのに、少々理性が飛びすぎたかもしれない。
怪我だけはさせたくない。なんとか情動を抑え、平静を装った。
「今日はここまでにしとくか。まだ全然入らねえし、ちゃんと時間かけるから」
なるべく優しい声をかけると、百夜は仰向けのまま、なぜか不満そうな顔を向けてきた。
「え、もしかして下手だった?」
「ちがう。なに自分だけ、我慢しようとしているんだ?」
体を起こして四つん這いの姿勢で志千に迫りながら、熱く膨張した箇所に手を置いてきた。
「こんなになっているくせに。おれにもやらせろ」
着物をまさぐられ、百夜の鼻先に勢いよく志千のものが飛びだす。
百夜は一瞬言葉を失い、唾を飲み込んでから訊いてきた。
「……これ、標準の大きさか?」
「いやー、たぶんでかいほう、かも」
「こんなのが挿入るのか、ほんとうに?」
まじまじと観察しながら、真顔でつぶやく。
「俺もそう思う」
どれだけ慣らしても狭いままだった指の感触を思いだし、壊してしまいそうだと怖くなった。
「ま、挿れてみればなんとかなるんだろう」
「なんでおまえのほうが思い切りがいいんだよ……」
話している途中に不意打ちで、滾ったものをいきなり握りしめられた。
自分でするのとはまったく違う、白くて華奢な指がなまめかしく動く。
両手で包み込まれ、ゆっくりとした動作で上下に擦られて、思わず声が漏れそうになった。
まるで子どもが玩具で遊んでいるみたいに、先端を爪でつついたり、裏筋を指の腹で撫でたり、好き放題されている。
それだけでも達してしまいそうだったのに、ひととおり弄んだあと、小さな舌で液の漏れでている先っぽをちろちろと舐められた。
「うっ……」
我慢できずに息を吐き、体を仰け反らせたところで、鈴口にかぶりつき、ちゅっと吸って、下まで口に含む。
ぬらっと全体を舐めあげられ、今までに味わったことのない落雷のような快感が走った。
「ちょっ……と、百夜、おまえにそんなことさせるつもりは……」
「うるはい」
いいから黙って舐められろ。
おそらくそのような意味合いの言葉を喋って、長い髪を耳にかけながら、上目遣いに志千のほうを見つめてきた。
見てくれだけで好きになったわけじゃないといったことはあるが、実際のところ、百夜の顔面にはすこぶる弱いのだ。
この顔が自分のものを咥え、あろうことかじっと見あげてくる。
あり得ないはずの景色を前にして、脳が破裂しそうだった。
何度か頬張ってからようやく口を離し、悔しそうにいった。
「男だからいいところはわかるが、案外難しいな。うまくできない」
「これ以上気持ちよくなったら、もう持たねえよ」
断じて志千が早漏なのではなく、この顔で煽情的に攻められたら耐えられるわけがない。
「さっきの本に口淫の章があったろう。読みあげてくれ」
「うそだろ……!? その行為はちょっと、上級者向けすぎやしねえか」
「初心者だからこそ、指南書のとおりにするんだが?」
至って真面目に問い返され、志千は考えるのをやめて本を手に取った。
「えー……空気と唾を含ませながら柔らかく口で包み、冠と溝を舌先でなぞって──」
自分で朗読しながら、同じ手順で行われる営み。
なんとか耐えようとするも、押し寄せる快感にあえなく敗北する。
「もっ、百夜、もう無理……くち、はなして」
下腹部から切っ先に熱が込みあげてくるが、百夜を自分の放ったもので汚したくはない。
でも、離そうとしてくれなかった。
「う、あ、でる……」
白濁液を口腔内に放出し、いっぱいになっても収まらず、唇をようやく離した百夜の端正な顔に飛んだ。
口の端からも、含みきれなかった分がぽたぽたとこぼれている。
「うわ、ごめん!」
慌てて周囲に拭くものがないか探し、手拭いを見つけた。
頬と口元を拭きながら、残りを吐かせようとする。
「ほら、だしな」
「もう飲んだ」
「えぇ」
舌をだして見せた口内には、本当になにも残っていない。
「俺は、俺の百夜になんてことを……」
「なにをいっているんだ?」
両手で顔を覆って大袈裟に嘆いていると、真っ白な胸元に刻まれた吸い跡や歯型を見せつけられた。
「こんなにしておいて、いまさら」
と、蠱惑的に微笑む。
「悪い、夢中で気づかなかった。撮影は大丈夫?」
「もうそろそろ終わるし、問題ない。見られるとしても衣装部くらいだ」
それはそれで、局所的な大事件になりそうである。
松柏キネマの衣装部はいずれもうら若き女子たちであり、スタッフ特権で二代目残菊の正体を知っている。
近頃はしょっちゅう迎えに来たり、百夜に色目を使ってくる俳優を牽制したりする志千との関係を怪しまれている様子なのだ。
湯を絞った布で互いの体を拭いていると、百夜がいった。
「違和感とか、なかったか」
「なにが?」
「その、おれたちは男同士だから。女じゃなくて、男を相手にするのに、抵抗は感じなかったのか」
「感じてたら、あんなに余裕なくがっつくわけねえだろ」
「……そうか」
ふわっと笑った顔は、とても幸せそうだった。
「俺はおまえがいいんだよ。百夜だけが可愛い」
また何度も体にくちづけを落として、赤く染まる刻印を増やしていった。
その先に百夜の柔らかい舌を見つけ、唾液を絡め、輪郭をなぞり、軽く吸った。
「くち、もっとあけて」
「ふ、あ……」
普段の低い声からは想像もつかないような、甘い吐息が漏れた。
すでに大きく開いていた衿の隙間から手を入れ、脇腹を指でそっとくすぐる。
畳の上に押し倒すと、もうほとんど腕に引っかかっているだけとなっていた着物が、蝶の羽のように床に広がった。
腰から胸のあたりに五本の指を移動し、肌の表面をさするたび、細身の体がびくっと跳ねた。
ふたたび口腔内を舌で満たし、ひとしきり味わったあと、耳と首筋に幾つものくちづけを落とした。
鎖骨に歯をたて、桜色に滲む突起を舌先で転がす。
「し……しち……まっ、て……」
触れられることに過敏なのはわかっている。
気持ちよくさせる方法など知らないから、ひたすらに百夜の反応を追っていった。
本のとおりにしなくてもいい。もっと自然に湧き起こる欲情に身をまかせればいい。
もっとも嬌声があがる部分を何度も攻める。
そして、ただ志千が触れたい場所に触れて、口をつけたい場所につけた。
一度体を起こすと、百夜は自身の手のひらで顔を覆って、浅く息をしていた。
「隠すなよ。ちゃんと見せて」
強引に両手首を引きあげ、頭上に拘束する恰好で床に押しつける。
もともと肌が白いせいで、頬も、体も、内側から上気して桃色に染まっていた。
口の片端から唾液を伝わせ、眉根を寄せて、蕩けた涙目で志千を見あげる。
こんな顔、するのか。
これはまずい。非常に。
「──理性、ぶっ飛びそう」
この表情、細い体、絶対に他の奴になど見せない。絶対に離さない。
自分の強すぎる独占欲に対し、多少は残っていた罪悪感が、鎖が切れるみたいに消えていった。
腿の内側を撫で、先端が濡れて硬くなったものをそっと握りしめる。
「なぁ、ここ、自分で触ったりする?」
「っあ、ときどき……うずい、て……」
「どんなこと考えながらしてんの?」
「さ……最初はべつに、なにも……ただ、なんとなく、気持ちよかっただけで……でも、このまえは……」
「このまえ?」
「一緒に……出かけた日の、夜は……しちのこと、想いながら……」
「出かけた日って……」
十二階にのぼった日のことだろうが、あの夜はたしか、この部屋で抱き合って眠っていたはず。
「俺のすぐ隣で? 隠れてそんなことしてたんだ。すっげえ悪い子じゃん」
とろとろと溢れていた液を絡め、先端から根本まで強く摺りあげる。
「ふあっ……!」
まだ達しないようにときどき力を緩めながら、もう片方の手で、薄く開いていた唇に長い指を二本突っ込み、口内を掻き回した。
指先で舌や口蓋をすりすりと小刻みに撫でると、声にならない悲鳴とともに唾液がこぼれた。
「後ろも触っていい?」
百夜が必死に見あげていた瞼をきつく閉じた。
それを肯定と受け取り、両脚を開いて膝を立てさせる。
糸を引いている指を口から抜きだして舐めとり、自分の唾液を絡ませて、脚の付け根の深くに滑り込ませた。
「んっ、あぁっ……! そこ、変……!」
触れるか触れないかの力加減で、窪みの周縁をなぞる。
あきらかに反応が変わり、嬌声が高くなった。
「ふうん、百夜はこっちのほうがいいんだ」
「ちがっ……ぁ……!!」
少しずつ、少しずつ時間をかけて解して。
ようやく指が第二関節まで一本入ったところで、百夜の白濁の液体がほとばしった。
荒い息で上半身は大きく上下し、腰から膝は痙攣して震えている。
初めてなのに、少々理性が飛びすぎたかもしれない。
怪我だけはさせたくない。なんとか情動を抑え、平静を装った。
「今日はここまでにしとくか。まだ全然入らねえし、ちゃんと時間かけるから」
なるべく優しい声をかけると、百夜は仰向けのまま、なぜか不満そうな顔を向けてきた。
「え、もしかして下手だった?」
「ちがう。なに自分だけ、我慢しようとしているんだ?」
体を起こして四つん這いの姿勢で志千に迫りながら、熱く膨張した箇所に手を置いてきた。
「こんなになっているくせに。おれにもやらせろ」
着物をまさぐられ、百夜の鼻先に勢いよく志千のものが飛びだす。
百夜は一瞬言葉を失い、唾を飲み込んでから訊いてきた。
「……これ、標準の大きさか?」
「いやー、たぶんでかいほう、かも」
「こんなのが挿入るのか、ほんとうに?」
まじまじと観察しながら、真顔でつぶやく。
「俺もそう思う」
どれだけ慣らしても狭いままだった指の感触を思いだし、壊してしまいそうだと怖くなった。
「ま、挿れてみればなんとかなるんだろう」
「なんでおまえのほうが思い切りがいいんだよ……」
話している途中に不意打ちで、滾ったものをいきなり握りしめられた。
自分でするのとはまったく違う、白くて華奢な指がなまめかしく動く。
両手で包み込まれ、ゆっくりとした動作で上下に擦られて、思わず声が漏れそうになった。
まるで子どもが玩具で遊んでいるみたいに、先端を爪でつついたり、裏筋を指の腹で撫でたり、好き放題されている。
それだけでも達してしまいそうだったのに、ひととおり弄んだあと、小さな舌で液の漏れでている先っぽをちろちろと舐められた。
「うっ……」
我慢できずに息を吐き、体を仰け反らせたところで、鈴口にかぶりつき、ちゅっと吸って、下まで口に含む。
ぬらっと全体を舐めあげられ、今までに味わったことのない落雷のような快感が走った。
「ちょっ……と、百夜、おまえにそんなことさせるつもりは……」
「うるはい」
いいから黙って舐められろ。
おそらくそのような意味合いの言葉を喋って、長い髪を耳にかけながら、上目遣いに志千のほうを見つめてきた。
見てくれだけで好きになったわけじゃないといったことはあるが、実際のところ、百夜の顔面にはすこぶる弱いのだ。
この顔が自分のものを咥え、あろうことかじっと見あげてくる。
あり得ないはずの景色を前にして、脳が破裂しそうだった。
何度か頬張ってからようやく口を離し、悔しそうにいった。
「男だからいいところはわかるが、案外難しいな。うまくできない」
「これ以上気持ちよくなったら、もう持たねえよ」
断じて志千が早漏なのではなく、この顔で煽情的に攻められたら耐えられるわけがない。
「さっきの本に口淫の章があったろう。読みあげてくれ」
「うそだろ……!? その行為はちょっと、上級者向けすぎやしねえか」
「初心者だからこそ、指南書のとおりにするんだが?」
至って真面目に問い返され、志千は考えるのをやめて本を手に取った。
「えー……空気と唾を含ませながら柔らかく口で包み、冠と溝を舌先でなぞって──」
自分で朗読しながら、同じ手順で行われる営み。
なんとか耐えようとするも、押し寄せる快感にあえなく敗北する。
「もっ、百夜、もう無理……くち、はなして」
下腹部から切っ先に熱が込みあげてくるが、百夜を自分の放ったもので汚したくはない。
でも、離そうとしてくれなかった。
「う、あ、でる……」
白濁液を口腔内に放出し、いっぱいになっても収まらず、唇をようやく離した百夜の端正な顔に飛んだ。
口の端からも、含みきれなかった分がぽたぽたとこぼれている。
「うわ、ごめん!」
慌てて周囲に拭くものがないか探し、手拭いを見つけた。
頬と口元を拭きながら、残りを吐かせようとする。
「ほら、だしな」
「もう飲んだ」
「えぇ」
舌をだして見せた口内には、本当になにも残っていない。
「俺は、俺の百夜になんてことを……」
「なにをいっているんだ?」
両手で顔を覆って大袈裟に嘆いていると、真っ白な胸元に刻まれた吸い跡や歯型を見せつけられた。
「こんなにしておいて、いまさら」
と、蠱惑的に微笑む。
「悪い、夢中で気づかなかった。撮影は大丈夫?」
「もうそろそろ終わるし、問題ない。見られるとしても衣装部くらいだ」
それはそれで、局所的な大事件になりそうである。
松柏キネマの衣装部はいずれもうら若き女子たちであり、スタッフ特権で二代目残菊の正体を知っている。
近頃はしょっちゅう迎えに来たり、百夜に色目を使ってくる俳優を牽制したりする志千との関係を怪しまれている様子なのだ。
湯を絞った布で互いの体を拭いていると、百夜がいった。
「違和感とか、なかったか」
「なにが?」
「その、おれたちは男同士だから。女じゃなくて、男を相手にするのに、抵抗は感じなかったのか」
「感じてたら、あんなに余裕なくがっつくわけねえだろ」
「……そうか」
ふわっと笑った顔は、とても幸せそうだった。
「俺はおまえがいいんだよ。百夜だけが可愛い」
また何度も体にくちづけを落として、赤く染まる刻印を増やしていった。
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