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36】春が近づいた頃【完結】
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36】春が近づいた頃
今年の冬は、例年以上に寒かった。
マフラーをグルグル巻きにして、園に向かい。いつもと変わらず、僕は先生として過ごした。百合ちゃんも、あれから顔を出さなくなった。疲れて帰って、テレビをつけて晩御飯の準備をしていると、耳に「受験シーズン到来!」と聞こえていたのはいつだったか。
(久保君と百合ちゃんは、試験を無事に終えたんだろうか)
僕も短い正月休みの中。ぼんやりと考えたのは、そんなことだった。実家に顔を出せば、また結婚は? だとか、恋人は? だとか。独身には耳が痛い質問が続く。適当にかわしながら、親戚の子供たちにお年玉を配り終えたら、早々に撤退してきた。
受験シーズンが終わったかと思えば、少しずつ春の気配が近づいてくる。僕たちも卒園と入園の準備で忙しくなり始めていた。
(忙しいと、何も考える余裕が無くなってくるから良いな)
そんなことを考えながら、変わりの無い毎日を過ごす日々。
もう半年以上、久保君と連絡も取っていないし、たまに百合ちゃんから写真を見せてもらうことはあったけれど、直接会うことは無かった。
(もう二人とも、卒業したんだろうか)
園にある桜のつぼみが花開いて、ヒラヒラと風が強く吹けば桜の花が散る様子を窓から見ながら、静かになったグラウンドを見つめた。
(子供の成長って、本当に早いなぁ)
しみじみと思う。
しみじみと思いながら、同時に一度自覚してしまった自身の気持ちを捨てきれないことに頭を抱えてしまっていた。もしかしたら、また久保君が会いに来てくれるかもしれないと思っている僕がいる。本当に都合が良すぎる。
(こんなことなら、逆に僕の方が告白してフラれれば良かった)
はぁ……と一人、溜息をつく。それから、窓を見たところで、皆帰ったあとだ。誰も来ることはないと、クルリと後ろを向きなおす。
(いい加減、忘れるんだ……!)
ブンブンと頭を振って、目の前のことの集中だと作業に映ろうとした時だった。
「先生」
「……?」
(嫌だな。忘れようと思ったばかりなのに、幻聴まで聞こえてきている)
「久保君はいないのに、僕も馬鹿だなぁ」
はぁ……と溜息をつけば、もう一度「先生」と聞こえた。
「先生。水野先生」
「…………!?」
二度目は、確実に背後から聞こえた。急いで後ろを振り返れば、一年前の最後には見えたなった顔が、そこにはあった。
「久保君……?」
「正解」
「本当に久保君なの……?」
「そうですよ」
「……そう……なんだ……また、会いに来てくれたんだね……」
嬉しい。素直にそう思った。嬉しくて、ポカンと空いていた口が締まって、一気に視界がにじんでくる。
「……嬉しい……」
小さく呟けば、久保君が急いで窓際で靴を脱いで教室へ入って来た。
「先に園長先生たちには、挨拶してるんで! お邪魔します!」
その姿は制服姿ではなくて、私服姿。何となく大人っぽく見えるのは、久しぶりに会ったからだろうか。格好良かった姿が、一層格好良くなっていて直視出来ない。
「先生、何で泣いてるんですか? 俺が会わないって言ったから? ごめんなさい、泣かないで下さい」
「嬉しくて泣いてるんだよ」
ははっ、と笑って久保君を見れば、あの時のように顔が近づいていた。
「先生」
「ぇ、あ……久保君……?」
「先生。俺、受験勉強に集中してたんだ。どうやったら、先生に子供じゃないって思われるかなって思って。成人式まで待てないし、なら将来を考えているところを見せたらいいのかなって思って、受験に集中してたんだ」
「そう……なんだ……」
久保君の目は真剣で、嘘は無いのだろう。それよりも至近距離でドキドキする。
「もう僕に会いに来ても大丈夫なの……?」
駄目だと思っているのに、気持ちが抑えられない。意味ありげな言葉を選らんで、久保君に聞いてみた。
「大丈夫だから会いに来たんです。無事に志望校受かりました」
「おめでとう、本当に良かったね」
「ええ。なんで、先生。また懲りずにやってきたんですが、俺ね。やっぱり先生が好きなんです。待つのは得意なんで、先生が俺のこと好きになってくれるまで待ちますよ。諦めきれない。ねぇ、キスしてもいいですか?」
「…………────いいよ。僕も、久保君が好き」
「え゛!?!?!?」
言葉通り、目を丸くした久保君。その隙に今度は僕の方から、触れるだけのキスを一つ。一瞬の感触のあと、チラリと久保君を見る。
「まだ僕のことを好きでいてくれるの?」
「…‥っ、当たり前じゃないですか!」
その言葉一つで、会えなかった時間が嘘のように満たされていく気がした。
■12年前の教え子が、僕に交際を申し込んできたのですが!?■
その交際を、今度は受け入れたのだった。
*******
更新。取り急ぎ終わらせました
伸び悩みや諸々で…orz
また何か次の小話投稿を始めましたら、お目にとめ頂けますと幸いです
有難うございました
宣伝】新しく別の話を始めました!良かったら読んで頂けますと幸いです
今年の冬は、例年以上に寒かった。
マフラーをグルグル巻きにして、園に向かい。いつもと変わらず、僕は先生として過ごした。百合ちゃんも、あれから顔を出さなくなった。疲れて帰って、テレビをつけて晩御飯の準備をしていると、耳に「受験シーズン到来!」と聞こえていたのはいつだったか。
(久保君と百合ちゃんは、試験を無事に終えたんだろうか)
僕も短い正月休みの中。ぼんやりと考えたのは、そんなことだった。実家に顔を出せば、また結婚は? だとか、恋人は? だとか。独身には耳が痛い質問が続く。適当にかわしながら、親戚の子供たちにお年玉を配り終えたら、早々に撤退してきた。
受験シーズンが終わったかと思えば、少しずつ春の気配が近づいてくる。僕たちも卒園と入園の準備で忙しくなり始めていた。
(忙しいと、何も考える余裕が無くなってくるから良いな)
そんなことを考えながら、変わりの無い毎日を過ごす日々。
もう半年以上、久保君と連絡も取っていないし、たまに百合ちゃんから写真を見せてもらうことはあったけれど、直接会うことは無かった。
(もう二人とも、卒業したんだろうか)
園にある桜のつぼみが花開いて、ヒラヒラと風が強く吹けば桜の花が散る様子を窓から見ながら、静かになったグラウンドを見つめた。
(子供の成長って、本当に早いなぁ)
しみじみと思う。
しみじみと思いながら、同時に一度自覚してしまった自身の気持ちを捨てきれないことに頭を抱えてしまっていた。もしかしたら、また久保君が会いに来てくれるかもしれないと思っている僕がいる。本当に都合が良すぎる。
(こんなことなら、逆に僕の方が告白してフラれれば良かった)
はぁ……と一人、溜息をつく。それから、窓を見たところで、皆帰ったあとだ。誰も来ることはないと、クルリと後ろを向きなおす。
(いい加減、忘れるんだ……!)
ブンブンと頭を振って、目の前のことの集中だと作業に映ろうとした時だった。
「先生」
「……?」
(嫌だな。忘れようと思ったばかりなのに、幻聴まで聞こえてきている)
「久保君はいないのに、僕も馬鹿だなぁ」
はぁ……と溜息をつけば、もう一度「先生」と聞こえた。
「先生。水野先生」
「…………!?」
二度目は、確実に背後から聞こえた。急いで後ろを振り返れば、一年前の最後には見えたなった顔が、そこにはあった。
「久保君……?」
「正解」
「本当に久保君なの……?」
「そうですよ」
「……そう……なんだ……また、会いに来てくれたんだね……」
嬉しい。素直にそう思った。嬉しくて、ポカンと空いていた口が締まって、一気に視界がにじんでくる。
「……嬉しい……」
小さく呟けば、久保君が急いで窓際で靴を脱いで教室へ入って来た。
「先に園長先生たちには、挨拶してるんで! お邪魔します!」
その姿は制服姿ではなくて、私服姿。何となく大人っぽく見えるのは、久しぶりに会ったからだろうか。格好良かった姿が、一層格好良くなっていて直視出来ない。
「先生、何で泣いてるんですか? 俺が会わないって言ったから? ごめんなさい、泣かないで下さい」
「嬉しくて泣いてるんだよ」
ははっ、と笑って久保君を見れば、あの時のように顔が近づいていた。
「先生」
「ぇ、あ……久保君……?」
「先生。俺、受験勉強に集中してたんだ。どうやったら、先生に子供じゃないって思われるかなって思って。成人式まで待てないし、なら将来を考えているところを見せたらいいのかなって思って、受験に集中してたんだ」
「そう……なんだ……」
久保君の目は真剣で、嘘は無いのだろう。それよりも至近距離でドキドキする。
「もう僕に会いに来ても大丈夫なの……?」
駄目だと思っているのに、気持ちが抑えられない。意味ありげな言葉を選らんで、久保君に聞いてみた。
「大丈夫だから会いに来たんです。無事に志望校受かりました」
「おめでとう、本当に良かったね」
「ええ。なんで、先生。また懲りずにやってきたんですが、俺ね。やっぱり先生が好きなんです。待つのは得意なんで、先生が俺のこと好きになってくれるまで待ちますよ。諦めきれない。ねぇ、キスしてもいいですか?」
「…………────いいよ。僕も、久保君が好き」
「え゛!?!?!?」
言葉通り、目を丸くした久保君。その隙に今度は僕の方から、触れるだけのキスを一つ。一瞬の感触のあと、チラリと久保君を見る。
「まだ僕のことを好きでいてくれるの?」
「…‥っ、当たり前じゃないですか!」
その言葉一つで、会えなかった時間が嘘のように満たされていく気がした。
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