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35】今さらながら
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35】今さらながら
久保君が来なくなったことに、もうどこか慣れてしまった。
数日、一週間、数週間、一か月。その間、逆に百合ちゃんが、よく僕のところに顔を出してくれるようになった。なんでも、久保君は受験勉強に集中しているらしい。百合ちゃんは大丈夫なのかと聞けば、二つ返事で大丈夫だと言った。
ゆりちゃんも、今では百合ちゃんが来てくれているので嬉しそうにしている。気づけば百合ちゃんの髪は伸びていて、寒い時期には防寒になると笑っていた。
未だにどこか胸に引っかかっているのは、僕だけ。二人はもう久保君の名前を、あまり出さなくなった。
「てか、先生聞いて! この前のセンター模擬、結構いい線いってた!」
「そうなんだ。凄いね。本番もきっとうまくいくよ」
「有難う。そうなるように頑張るね。てか、寒い~!」
「もうすっかり冬だもんね」
梅雨が過ぎて、夏が過ぎて。テレビのニュースでも見るように、受験シーズンに向かっていた。一年の時間がたつのは、こんなにも早い。ついこの間、短い正月休みを過ごし、まだ1月だ……なんて思っていたのが、嘘のよう。
「こうしてみると、1年はあっという間なんだね」
しみじみとしていると、百合ちゃんが「あー……先生?」と僕に声をかけた。
「あー……先生? 今、付き合っている人なんかは……?」
「いないよ。いるように見える?」
「良かった」
「良かった?」
「こっちの話です。じゃあ、先生。私も暫くココには来れないから。寂しがらないでね?」
「いいんだよ。皆、将来に向かって進むんだ。僕にわざわざ会いに来なくても、元気でいてくれれば良いんだよ」
「ヤダ。受験終わったら、絶対来る!」
そう言った百合ちゃんは、あの日の久保君と違ってニコリと笑って。握りこぶしまで作って、頑張るぞ! と明るく帰って行った。
「じゃあ、百合ちゃん。またね!」
「またね、先生~!」
──────慣れたなんて嘘だ。
未だに僕は、久保君のことを考えている。
(…………こんなことなら、キスしておけばよかった)
ポツリと思ってしまった感情にハッとして、誰もいない教室で一人「僕の馬鹿」と小さく呟いた。
(キスしておけば良かった……? 久保君と……?)
今だって、覚えている。至近距離で見た久保君の顔と、帰り際に隠していえ見えなかった顔。思い出すだけで、切なさを感じる。寂しい? 会いたい? こんなの、まるで恋だ。
僕の馬鹿。好きになっちゃ駄目なのに。好きになったら……こんな……。
「こんな……今さら過ぎる」
(でも出来るならもう一度、君に好きだと言われたいんだ)
好きになっちゃいけないのに。それでも、今さらながら君のことが好きだと気付いたんだ。
*******
久保君が来なくなったことに、もうどこか慣れてしまった。
数日、一週間、数週間、一か月。その間、逆に百合ちゃんが、よく僕のところに顔を出してくれるようになった。なんでも、久保君は受験勉強に集中しているらしい。百合ちゃんは大丈夫なのかと聞けば、二つ返事で大丈夫だと言った。
ゆりちゃんも、今では百合ちゃんが来てくれているので嬉しそうにしている。気づけば百合ちゃんの髪は伸びていて、寒い時期には防寒になると笑っていた。
未だにどこか胸に引っかかっているのは、僕だけ。二人はもう久保君の名前を、あまり出さなくなった。
「てか、先生聞いて! この前のセンター模擬、結構いい線いってた!」
「そうなんだ。凄いね。本番もきっとうまくいくよ」
「有難う。そうなるように頑張るね。てか、寒い~!」
「もうすっかり冬だもんね」
梅雨が過ぎて、夏が過ぎて。テレビのニュースでも見るように、受験シーズンに向かっていた。一年の時間がたつのは、こんなにも早い。ついこの間、短い正月休みを過ごし、まだ1月だ……なんて思っていたのが、嘘のよう。
「こうしてみると、1年はあっという間なんだね」
しみじみとしていると、百合ちゃんが「あー……先生?」と僕に声をかけた。
「あー……先生? 今、付き合っている人なんかは……?」
「いないよ。いるように見える?」
「良かった」
「良かった?」
「こっちの話です。じゃあ、先生。私も暫くココには来れないから。寂しがらないでね?」
「いいんだよ。皆、将来に向かって進むんだ。僕にわざわざ会いに来なくても、元気でいてくれれば良いんだよ」
「ヤダ。受験終わったら、絶対来る!」
そう言った百合ちゃんは、あの日の久保君と違ってニコリと笑って。握りこぶしまで作って、頑張るぞ! と明るく帰って行った。
「じゃあ、百合ちゃん。またね!」
「またね、先生~!」
──────慣れたなんて嘘だ。
未だに僕は、久保君のことを考えている。
(…………こんなことなら、キスしておけばよかった)
ポツリと思ってしまった感情にハッとして、誰もいない教室で一人「僕の馬鹿」と小さく呟いた。
(キスしておけば良かった……? 久保君と……?)
今だって、覚えている。至近距離で見た久保君の顔と、帰り際に隠していえ見えなかった顔。思い出すだけで、切なさを感じる。寂しい? 会いたい? こんなの、まるで恋だ。
僕の馬鹿。好きになっちゃ駄目なのに。好きになったら……こんな……。
「こんな……今さら過ぎる」
(でも出来るならもう一度、君に好きだと言われたいんだ)
好きになっちゃいけないのに。それでも、今さらながら君のことが好きだと気付いたんだ。
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