20 / 39
20】予定のない週末④
しおりを挟む
20】予定のない週末④
大人として。可愛い教え子が、残念そうな顔のまま僕の前から消えてしまいそうになったのを引き留めようとしたのに。どちらが大人か分からないくらい、商業施設の雑踏に消えない腹の虫が鳴ってしまったわけで。
グゥゥゥゥッ~~~~ッ。
「あ……///」
「……」
僕にしっかり聞こえた音は、久保君にも聞こえていて。
「先生はハンバーガーと、ドーナツ。どっちが食べたいですか?」
笑うこともせず、淡々と食事を提案してくれた。しかも僕が朝に食べたいと思ったものの二択だ。ちょっと久保君ってば、僕の心が読めるの? と子供のようなことを思ってしまったが、大人の僕が頭の中で「そんなことないでしょ」と切り捨てる。それよりも、二択の答えだ。ハンバーガーとドーナツ。どちらも食べたいけれど、コンディション的に選べるのは一つだけ。
「……ドーナツ」
「分かりました。じゃあ、ドーナツ食べに行きましょう」
「うん」
30を過ぎた身体に、急な油物は無理があるとドーナツを所望した僕だった。ドーナツ店は今いるフロアにあって、お昼よりも前の時間で丁度空いていた。
「先生、席を取ってて貰えますか? 俺、適当にドーナツを取って来ますね」
「あ、うん……」
これまたテキパキと指示を出してくれる久保君。どっちが年上か分からないなぁと思いながら、空いている席へ。遠目に久保君を見つめていると、近くの席に座っている女性陣の席から「あの人恰好良くない?」と聞こえた。
(やっぱり僕以外が見ても、久保君は恰好は良いんだなぁ)
再確認しちゃったなと思いながら久保君の横顔を見れば、やっぱり恰好良かった。真剣な横顔で選んでいるのがドーナツという光景に、思わずクスリと笑ってしまう。
(真剣に選んでるなぁ……)
久保君って、ドーナツ好きだったっけ? と記憶を辿るが、何でも好き嫌いなく食べていて健康優良児だった記憶しかなかった。僕が考え込んでいるうちに、久保君はドーナツを選び終えたらしい。トレーに乗ったお皿に、いくつかのドーナツと飲み物が乗っていた。
「先生?」
「あ、ごめんね。支払うから、いくらだった?」
「良いですよ。俺、丁度クーポンとか持ってたんで」
「いや、でもそこは僕も大人として」
「期限が近いクーポンとポイント払いしたんで、現金は使ってませんよ。ほら」
「……本当だ」
先生が気を遣うと思って、と久保君が証明するようにクーポンを見せて来た。どうやらお正月に買ったクーポンで、期限迫っていたらしい。ぐぬぬ……と粘れば「さ、食べましょう」と押し切られてしまった。
「コーヒーにしちゃいましたけど、良かったですか?」
「うん。大丈夫、有難う。久保君もコーヒーが飲めるの?」
トレーに乗っていたのは、同じ黒い色をした飲み物。やっぱり味覚も大人なのかな? と思えば、初めて久保君が黙り込んだ。
「あー……えっと、その」
「コーヒーじゃないの?」
「苦いのは苦手なんで、ココアです」
「ココア……可愛いね、久保君」
意外だなと思った時には、可愛いねと口から出てしまい。久保君が、少しだけ照れた表情をしていた。
*********
大人として。可愛い教え子が、残念そうな顔のまま僕の前から消えてしまいそうになったのを引き留めようとしたのに。どちらが大人か分からないくらい、商業施設の雑踏に消えない腹の虫が鳴ってしまったわけで。
グゥゥゥゥッ~~~~ッ。
「あ……///」
「……」
僕にしっかり聞こえた音は、久保君にも聞こえていて。
「先生はハンバーガーと、ドーナツ。どっちが食べたいですか?」
笑うこともせず、淡々と食事を提案してくれた。しかも僕が朝に食べたいと思ったものの二択だ。ちょっと久保君ってば、僕の心が読めるの? と子供のようなことを思ってしまったが、大人の僕が頭の中で「そんなことないでしょ」と切り捨てる。それよりも、二択の答えだ。ハンバーガーとドーナツ。どちらも食べたいけれど、コンディション的に選べるのは一つだけ。
「……ドーナツ」
「分かりました。じゃあ、ドーナツ食べに行きましょう」
「うん」
30を過ぎた身体に、急な油物は無理があるとドーナツを所望した僕だった。ドーナツ店は今いるフロアにあって、お昼よりも前の時間で丁度空いていた。
「先生、席を取ってて貰えますか? 俺、適当にドーナツを取って来ますね」
「あ、うん……」
これまたテキパキと指示を出してくれる久保君。どっちが年上か分からないなぁと思いながら、空いている席へ。遠目に久保君を見つめていると、近くの席に座っている女性陣の席から「あの人恰好良くない?」と聞こえた。
(やっぱり僕以外が見ても、久保君は恰好は良いんだなぁ)
再確認しちゃったなと思いながら久保君の横顔を見れば、やっぱり恰好良かった。真剣な横顔で選んでいるのがドーナツという光景に、思わずクスリと笑ってしまう。
(真剣に選んでるなぁ……)
久保君って、ドーナツ好きだったっけ? と記憶を辿るが、何でも好き嫌いなく食べていて健康優良児だった記憶しかなかった。僕が考え込んでいるうちに、久保君はドーナツを選び終えたらしい。トレーに乗ったお皿に、いくつかのドーナツと飲み物が乗っていた。
「先生?」
「あ、ごめんね。支払うから、いくらだった?」
「良いですよ。俺、丁度クーポンとか持ってたんで」
「いや、でもそこは僕も大人として」
「期限が近いクーポンとポイント払いしたんで、現金は使ってませんよ。ほら」
「……本当だ」
先生が気を遣うと思って、と久保君が証明するようにクーポンを見せて来た。どうやらお正月に買ったクーポンで、期限迫っていたらしい。ぐぬぬ……と粘れば「さ、食べましょう」と押し切られてしまった。
「コーヒーにしちゃいましたけど、良かったですか?」
「うん。大丈夫、有難う。久保君もコーヒーが飲めるの?」
トレーに乗っていたのは、同じ黒い色をした飲み物。やっぱり味覚も大人なのかな? と思えば、初めて久保君が黙り込んだ。
「あー……えっと、その」
「コーヒーじゃないの?」
「苦いのは苦手なんで、ココアです」
「ココア……可愛いね、久保君」
意外だなと思った時には、可愛いねと口から出てしまい。久保君が、少しだけ照れた表情をしていた。
*********
10
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版
王弟転生
焼きたてメロンパン
BL
※主人公および他の男性キャラが、女性キャラに恋愛感情を抱いている描写があります。
性描写はありませんが男性同士がセックスについて語ってる描写があります。
復讐・ざまあの要素は薄めです。
クランドル王国の王太子の弟アズラオはあるとき前世の記憶を思い出す。
それによって今いる世界が乙女ゲームの世界であること、自分がヒロインに攻略される存在であること、今ヒロインが辿っているのが自分と兄を籠絡した兄弟丼エンドであることを知った。
大嫌いな兄と裏切者のヒロインに飼い殺されるくらいなら、破滅した方が遙かにマシだ!
そんな結末を迎えるくらいなら、自分からこの国を出て行ってやる!
こうしてアズラオは恋愛フラグ撲滅のために立ち上がるのだった。
台風の目はどこだ
あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。
政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。
そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。
✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台
✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました)
✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様
✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様
✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様
✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様
✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。
✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)
【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました
及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。
※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
好きな人の婚約者を探しています
迷路を跳ぶ狐
BL
一族から捨てられた、常にネガティブな俺は、狼の王子に拾われた時から、王子に恋をしていた。絶対に叶うはずないし、手を出すつもりもない。完全に諦めていたのに……。口下手乱暴王子×超マイナス思考吸血鬼
*全12話+後日談1話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる