上 下
8 / 39

8】先輩は今日も来る?

しおりを挟む
8】先輩は今日も来る?

 寝れない……! といつもより睡眠時間が短くても、仕事は待ってくれない。今日も今日とて、僕は普段通りに出勤だ。ピークより少しはマシくらいの電車に乗って園に向かう。準備をして登園時間近くになると、皆を迎えるために園の入り口で待っていた。 

「先生、おはようございます!」

「ゆりちゃん、おはようございます」

「水野先生、今日も宜しくお願いします」

「はい。では、お母さんもお仕事気を付けて」

こうして、一人。また一人と園児たちがやって来る。僕のクラスは赤ちゃんではないので、親御さんとの別れに毎回号泣するような子はいないが、小さい子クラスは、毎朝誰かの鳴き声が響いている。

朝の会が終わり、教室や外で皆がそれぞれに遊んでいる時だった。ゆりちゃんが僕の方へやって来て、「水野先生」と呼ぶ。

「ゆりちゃん、どうしたの?」

「あのね、今日も昨日の先輩来るかな?」

「うーん、どうだろう。久保君も忙しいからね」

「そうなんだぁ……残念」

その様子に、恋愛経験の少ない僕でもピンときた。

(まぁ……普段合わないようなお兄さんに会えば、恋に落ちちゃうよね……)

しかもイケメンだし。
願わくば、今度久保君がゆりちゃんに会うことがあれば、また優しくして欲しい。

「ねぇ、先生。先輩って彼女いるかな?」

「かのっ!?ゴホッ!!」

近頃の子供たちは本当に進んでいる。彼女なんて言葉は、高校生くらいで意識し始めたくらいだったのに! 思わず咽て、ゴホゴホとせき込めば「先生大丈夫?」とゆりちゃんが心配してくれた。

「大丈夫だよ。ちょっと先生びっくりしちゃっただけだから」

「先生ったら、彼女のことだけで大げさよ?」

「そうだよね。ははっ……」

「はぁ~。先輩、あんなに恰好良いんだもん、絶対彼女がいるんだろうなぁ……」

そう意気込むゆりちゃんに、「先生、分からないなぁ」と返すのが精一杯だった。

多分、彼女はいないと思うよと思ったが、そう言わなかったのは大人としての優しさだ。

「じゃあ、先生。また先輩が来たら、ゆりに教えてね!」

それだけ言うと、ゆりちゃんは走って友達の元へ。何事も無かったかのように、遊び始めていた。

「水野先生? さっき凄くせき込んでましたけど、大丈夫ですか?」

「斎藤先生」

ゆりちゃんと変わるように、今度は斎藤先生が僕に話しかけてくれた。

「大丈夫です! ちょっとゆりちゃんが、昨日来た久保君に彼女がいるのか聞いて来たのでビックリして咽ちゃっただけなんで」

「あら~~、ゆりちゃんったら……。久保君、きっと他の子から見ても王子様みたいなものでしょうからねぇ……他の子もきっと好きになっちゃうわね。それともファンクラブかしら?」

「え゛」

そんな……と思ったが、仕事という現実がそんなことを考える暇すらないくらい押し寄せて一日が過ぎて行ったのだった。

********
明日から繁忙なので、来週まで更新出来ないかもしれません><
といいつつ、軽率に別の話始めるかも。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ

秋空花林
BL
「ヴィラトリア嬢、僕はこの場で君との婚約破棄を宣言する!」  ワタクシ、フラれてしまいました。  でも、これで良かったのです。  どのみち、結婚は無理でしたもの。  だってー。  実はワタクシ…男なんだわ。  だからオレは逃げ出した。  貴族令嬢の名を捨てて、1人の平民の男として生きると決めた。  なのにー。 「ずっと、君の事が好きだったんだ」  数年後。何故かオレは元婚約者に執着され、溺愛されていた…!?  この物語は、乙女ゲームの不憫な悪役令嬢(男)が元婚約者(もちろん男)に一途に追いかけられ、最後に幸せになる物語です。  幼少期からスタートするので、R 18まで長めです。

ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話

かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。 「やっと見つけた。」 サクッと読める王道物語です。 (今のところBL未満) よければぜひ! 【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長

捨てられオメガの幸せは

ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。 幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

sweet!!

仔犬
BL
バイトに趣味と毎日を楽しく過ごしすぎてる3人が超絶美形不良に溺愛されるお話です。 「バイトが楽しすぎる……」 「唯のせいで羞恥心がなくなっちゃって」 「……いや、俺が媚び売れるとでも思ってんの?」

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

処理中です...