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94】隣国からの客人⑧

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94】隣国からの客人⑧

 掴まれる力強さに、気遣いは無かった。一方的にぶつけられるような口づけは、私の身体と頭を溶かすことは無く。痛みを感じるだけで、押し入って来た舌先に嫌悪感を抱いた。そしてそのまま、痛そうだと思いながらもレオ殿に抵抗するかのように口内に押し入っている舌先を噛んだ。

(こんなのは、嫌だ────!)

「……っ!」

ミチミチと私の歯列がレオ殿の下に食い込んで、チラリとレオ殿の顔を見ると眉間に皴が寄っていた。怪訝そうな表情のまま、それ以上は私の口内にある舌が進んでくることはなく。入り込んだ時と異なり、ゆっくりと後退していく。

「……」
「……」

クチッ、と小さな水音がしたあと最初と異なり。撫でるように、私の唇をレオ殿の舌先が撫でた。それだけだ。掴まれていた両頬の手の平も離れ、レオ殿の顔も離れていく。互いに無言のまま、私はレオ殿を見つめているが視線が合わない。顔を逸らしたままのレオ殿が、私の名前を呼ぶよりも先に言った言葉は謝罪の言葉だった。

「すみません」

「レオ殿。あの、私も噛んでしまったので……舌とか切れてないですか?」

私とレオ殿の間に、一気に距離が出来た気がした。私が一歩前に出れば、レオ殿身体を逸らせるように一歩下がる。

「大丈夫です。全部俺が悪いんで。アラン様が抵抗するのは当然ですし、抵抗してくれて良かったです」

「私も驚いただけですし……。レオ殿が怒ったのだって、きっと私が知らない間にレオ殿を怒らせてしまったのでしょう。先日のことだってありますし……」

「違いますよ。この前のことなんて、俺がアラン様を揶揄っただけですし。……あー……本当に俺最低ですね。すみません。取り乱しました。忘れて下さい」

「……え?」

「失礼します」

「レオ殿!?」

レオ殿が溜息をついたあと、また自嘲気に笑った。それからすぐに私に会釈して、ナイト殿とは違った様子でこの場を去って行く。いつもであれば、私の方を振り返ったりするのに一度も振り返らないまま。速足で去っていくレオ殿の後ろ姿は、すぐに見えなくなってしまった。

「レオ殿……」

こんなことになるなんて。ナイト殿が来ていると一方聞く前までは、レオ殿を探していたのに。会いたかったのに、謝りたかったのに。私が謝られてしまって、私の声も聞いて貰えなくて。

(もう私の相談にのってくれないのだろうか。もう話も出来ないんだろうか……)

初めて自身の秘密を打ち明け、立場を気にすることなく。勝手だが、友人のように接していたレオ殿と、このまま疎遠になってしまった。

「……それも……嫌だな……」

(私はどうすれば良いのだろう)

レオ殿と知り合ってか抱えた悩みなら、きっとレオ殿に相談しただろう。だが、この悩みはレオ殿とのこと。一体どうすれば。誰に相談すれば。悶々とする気持ちのまま。私は一人、美しい景観の待合室の椅子に静かに座るのだった。

■隣国からの客人■

 ただ友人に再会しただけなのに、どうしてこんなことになったのだろう?

********
お気に入り有難うございます(^^)嬉しいです
先日と同じですが、本当にどうしてこうなってしまったのでしょう(´;ω;`)
このまま話を続けるか、ワンクッションレ√入れるか考え中です
宣伝】pixiv更新しました!
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