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■可愛いと言われ、嬉しくなってしまった

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■可愛いと言われ、嬉しくなってしまった

 着るか着ないか。正直、着ない方向にことを進めたかったワンピースも、着ている現場を、天井を取って抑えられるという。問答無用な逃げ場のない方法により、俺は今しぶしぶソラの前にワンピース姿で出ている。
成人男性。32歳男のワンピース姿。文字だけでも、結構な迫力。(誰が、俺を助けてくれ)
心の中で助けを求めたところで、この世界に俺の見方は目の前のソラだけ。つまり、助けて貰えない。

「うわぁぁぁ……!」

「……」

頭上から、さんさんと照り付ける太陽の光……ではなく、巨人の視線。太陽の熱さと変わらないくらい、熱視線な気もする。

(恥ずかしい……!)

視線の主を見ることが出来ず、下を向いてテーブルの木目を見た。それから、俺の立派な脚が見える。

(うわ、脚の甲まで筋張ってるな)

親指がピョコリと動いたことに、思わず笑ってしまいそうになった。

「高見」

「……」

俺の気恥ずかしさとは反対に、上機嫌なソラの声。普段でも高い声が、更に高く。明るい調子で俺の名前を呼んだ。

「高見、こっち向いてよ」

「嫌だ」

「何で?」

「だって、絶対可愛くないし。ゴツいし」

「ゴツイシ? 何かの呪文?」

「可愛くないってことだよ」

「何で? 高見はこんなに可愛いのに。高見、いい加減僕の方見て。高見の顏が見れなくて寂しい」

「……っ」

俺と違って素直なソラの言葉に、ゆっくりと顔を上げた。柔和な笑顔を輝かせているソラ。ドキッと俺の心臓が高鳴る。ソラの眼差しは、ソラの言葉通り。きっと俺のことを可愛いと思ってくれているのだろうと分かるくらい、優しく愛しいという表情を浮かべていた。ドキドキと速くなる心臓と照れで、思わずワンピースのスカートをぎゅぅぅ……と握った。

「高見、照れてるの?」

「当たり前だろ! 見ろよ、このパツパツ感。ワンピース破れそうだし。それに……」

「高見」

ソラが、ストップというような仕草を取った。流石に後ろ向き過ぎる俺に、呆れてしまったんだろう。あー……嫌われていないと良いなと思いながら、ソラの言葉を待った。

「高見。本当に可愛いよ。なんだか、その洋服を着ていると人間っていうより妖精みたい。ふふっ、本当に可愛い」

「なっ……!」

「高見。大丈夫、高見は可愛いよ。だから、あまり恥ずかしがらないで?」

「~~~~っ……!」

心臓は煩いし、顔が一気に熱くなるのが分かった。

(この人たらし……!)

好きになってしまうだろうが! と、もう既に好きではあるけれど。行き場の無い感情を心の中で叫びつつ。

「あ……りがと。嬉しい」

とまぁ……心の中の叫びと異なり。口から出た言葉は、随分と可愛いものだった。

******
次の話は未定です>< ネタ切れです~。
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