上 下
1 / 1

無慈悲な光沢の中で猫は発情へと至らされる

しおりを挟む
地下室に、ぎちり、ぎちりという耳障りな音が響いている。
その音の出所である一人の青年は首の後ろに回した左右の手を必死に動かすことで、自身が置かれた危機的な状況からの脱出を試みている。
敵に捕まり纏っていた衣服の代わりに白猫を模したラバー製の拘束スーツを与えられた青年は、首の後ろで南京錠を施されたファスナーをどうにかして移動させようと考え、指の使用を禁じられた手を酷使させ続けているのだ。

「んむっ……ふぶ、うぅっ」

頭部に被せられた猫のマスク内部に突き出ている棒を噛まされたせいで言葉を発せなくされた口から焦りと悔しさが混ざった唸りを零しつつ、青年は猫の足に寄せた分厚いラバーに覆われたことで指を使い物にならなくされた手を休み無く頑張らせている。ラバー同士が擦れ合う不快な音が生まれる度にマスクに開けられた穴から覗いている目をわずかにしかめながら、手と同様の機構で指を使えなくされた足で正座を崩した姿勢を取っている青年は首から下を閉じ込めている部分とマスク部分のファスナーを繋いでいる南京錠を外そうと試行錯誤をひたすらに積み重ねている。
だが、状況は変わらない。指を使えぬ手で南京錠を幾ら撫でても当然変化など起こりはしない。それでも敗北を認めきれずラバー内に溜まる熱も承知で足掻き続けていた猫の青年は、背を向けていた地下室の扉から聞こえてきた解錠の音に戦慄し、頭部の後ろに運んでいた手を身体の前に戻しつつ扉を開けて室内へと踏み込んだ足音達の方向に視線を寄せた。

「ただいま、猫ちゃん。新しい生活は気に入ってくれたかな?」

自分を捕獲した憎い男が、部下を引き連れて地下室の入り口付近に立っている。その情報を認識した青年は異常な拘束を自分に与えた男に対する恐怖を嫌悪に置き換えて行動を起こす原動力にし、この悪趣味な仕打ちから抜け出す逃走に踏み切った。
手足の指を封じられていても、手足自体は十分に動く。分厚いラバーに取り囲まれたせいで普段通りの速度は望めないが、それでも眼前の男達を素早く飛び越えて階段を駆け上がる速度は出せるはずだ。
そう判断した青年が勢いよく立ち上がり、扉に向かって駆け出す。けれど、その選択は男に予測されていた一つでしか無くて、醜悪に微笑む男がやはりと胸の内で優越感に浸りながら右ポケットに隠していたリモコンを操作すると同時に、何もかもを読み切られその全てをあらかじめ封殺されていた青年は駆けていた足と攻撃の為に構えていた手の支配権をスーツに仕込まれた機構の力で外部から奪い取られ、ラバーごしに形を浮き上がらせていた男根を見せ付けるように折り畳んだ足を広げ、頭部を左右から挟み込む位置に手の平にあしらわれた肉球の飾りを見せ付ける体勢を強要されてしまった。

「んんっ!? うぐっ、ぶむぅぅ!」

ついさっきまで命令に従っていた手足が、屈辱的な状態から全く動かせない。その事実に驚愕する青年を眺めながら隠す必要の無くなったリモコンをポケットから取り出した男は、頭部の向きをついでに正面へと維持させた青年の眼前に右手のリモコンを見せ付けつつ、詰みの事実を知らずに逃れようと努力した愉快な猫に逃げられはしないという現実を遠回しに宣告した。

「せっかく殺伐としたスパイの世界を捨てさせて、可愛がられるだけで良い猫の生活を送らせてあげようっていうのに悪い子だ。でも、そんな悪い子こそ躾け甲斐がある。これから毎日たっぷり、じっくりと可愛がって……発情しっぱなしのエッチな猫に育ててあげるからね……!」

怯えを露わにして見開かれる青年の目の前で、男の右親指がリモコンを再度操作する。
青年が悲鳴を上げる間も無く青年を拘束する猫型のラバースーツがその効果を発揮し始め、無様な格好に固めさせた肉体に望まぬ発情と、棒に塞がれた口に甘く蕩けた幸福色の鳴き声を強制し始める。

「あぉっ、なおぉっ。はむっ、まおぉ、むあぉぉんっ」
「ふふっ、良い鳴き声だ。しばらくはこうして発情させて、はしたない鳴き声をずっと上げさせてあげるよ。眠る時以外は絶えず気持ち良いことは幸せなことなんだって覚えさせて、それが当たり前になるように躾けてあげるからね?」
「あぉ、なうぅ……んまっ、うみゅぅぅっ」

嫌だの意思さえ示せない己の口に絶望し、憎い男に観察されその部下達が構え始めたカメラで撮影されているというのに抑えられない発情に屈して硬度を増した男根に打ちひしがれながら、かつて凄腕のスパイとして名を馳せた青年は思考までをも蝕んでいく絶対の支配に逆らえぬ猫の身体にこれから始まるペットとしての生活に向けた一日目の調教を施されていくのだった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました

福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。 現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。 「君、どうしたの?」 親切な女性、カルディナに助けてもらう。 カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。 正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。 カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。 『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。 ※のんびり進行です

自衛官、異世界に墜落する

フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・ 現代軍隊×異世界ファンタジー!!! ※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

サレ妻の冒険〜偽プロフで潜入したアプリでマッチしたのが初恋の先輩だった件〜

ピンク式部
恋愛
今年30歳になるナツ。夫ユウトとの甘い新婚生活はどこへやら、今では互いの気持ちがすれ違う毎日。慎重で内気な性格もあり友達も少なく、帰りの遅い夫を待つ寂しい日々を過ごしている。 そんなある日、ユウトのジャケットのポケットからラブホテルのレシートを見つけたナツは、ユウトを問い詰める。風俗で使用しただけと言い訳するユウトに対して、ユウトのマッチングアプリ利用を疑うナツ。疑惑は膨れあがり、ナツは自分自身がマッチングアプリに潜入して動かぬ証拠をつきつけようと決意する。 しかしはじめて体験するマッチングアプリの世界は魅惑的。そこで偶然にもマッチしたのは、中学時代の初恋の先輩、タカシだった…。 R18の章に※を指定しています。

異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア
ファンタジー
突如異世界『ルーファス』に召喚された一ノ瀬凍夜ーは、5年と言う年月を経て異世界を救った。そして、平和まで後一歩かと思ったその時、信頼していた仲間たちに裏切られ、深手を負いながらも異世界から強制的に送還された。 それから3年後、凍夜はクラスメイトから虐めを受けていた。しかし、そんな時、再度異世界に召喚された世界は、凍夜が送還されてから10年が経過した異世界『ルーファス』だった。自分を裏切った世界、裏切った仲間たちがいる世界で凍夜はどのように生きて行くのか、それは誰にも分からない。

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。

FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。 目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。 ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。 異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。 これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。 *リメイク作品です。

処理中です...