BLエロ小説短編集

窮屈な牢獄で正義は何も分からぬまま無意味な忍耐を重ねる

仰向けに寝転がらされた裸体をほぼ隙間無く包囲するかのような形状をしている四角く狭い空間の中で、男は敵に捕らわれた事実を絶えず思い知らされつつ、その屈辱的な状態からの脱出を求める試行錯誤を重ねていた。
左右の二の腕を胸部へと繋ぎ、肘の付近を腹部へと括り付け、手首を太ももへと縫い付ける。そんな拘束をもたらしている腕の縄を軋ませながら、男が寝返りすら打てない裸体をじたばたともがかせる。左右の足首を遊び無く結び、すね同士を隙間無く接続している足の縄を絶え間無く鳴らしながら、男が口に貼り付けられた黒く強力な粘着テープによる栓越しにくぐもった唸りを発しつつ拘束との格闘を繰り返す。
無論、どんなに頑張っても男は己が置かれた状況を一向に覆せない。気を付けをしているかのような格好で自由を奪われた裸体をなりふり構わずによじらせ、自分しかいない窮屈な牢獄に意味を成していない咆哮を虚しく響かせながらめちゃくちゃに暴れても、男は憎き敵の手に堕ちたという認めたくない現実を嫌でも再認識させられるしか無い。
四方を壁に囲われた閉鎖空間の各所に設けられている空気の穴にあてがわれた無慈悲な機構が作動する時間が訪れても、何処にも逃れられず何一つとして対抗策を打ち出せない無様な男は空気穴を通して流し込まれ始めた残酷な気体が呼吸と無防備な裸体を蝕み出した展開に恐怖と絶望を募らせながらその展開を与えた張本人である敵達が求めた通りの痴態を晒し始めることしか出来ない。
体内に取り込めば内側からの発情を促し、皮膚に触れれば体表面の発情を促進させて感度の上昇を引き起こす。そんな淫猥な薬品混じりの空気が充満し始めた空間に閉じ込められている哀れな男はもはや、じょじょに体積を増していく自らの乳首と男根を涙に潤んだ瞳で見つめながら、その情けなく肥大化した三つの急所を一生懸命になって天井へと擦り付け快楽を得る行為を悦んで取る理性の瓦解までどうすることも出来ずに追い詰められるしか無いのだ。

「んっ、むふっ、むぶうぅぅ……っ！」

今度こそ、この気体に屈したりしない。正気を保とうと試みる思考を早くも端から溶かされながら、男は無自覚に上下へと揺れている自身の腰に全く気付けぬまま無意味な忍耐を継続させていた。




「どうです？ この檻は実に愉快でしょう？ これを使えば何もかもを観察されているという現実を悟らせぬまま、自分が多くの者に笑い飛ばされているという惨めな事実にも思い至らせぬまま、こうして気が狂うような発情の中間抜けに自慰を我慢する姿を愉しめるんです。今なら、中にいる無様な捜査員も合わせてお安くお買い求め頂けますよ？」

本当に全ての方向を遮られているのならば、視界が確保出来る程の明るさがあるのはおかしい。当然の道理に考えつくことすらも悪趣味な檻の内部に流されている催眠電波によって封じられている捜査員の男は、実際には己の裸体に何一つとして拘束が加えられてはいないという現実を認識出来ず、忍耐の果てに吸入させられている空気には何の細工もされていないということも分からず、今自身が乳首と男根を押し付けまいと自制を行っている天井部分に張られた透明な強化ガラス製の蓋越しに自分を捕らえた組織の者達とその者達に招待された悪と繋がりのある好事家達が我慢の光景を堪能していることも理解出来ぬまま、正常な現状の把握を禁じている電波によって仕立てられた強烈な淫薬混じりの空気の注入という偽の地獄に抗い、無駄に呼吸を制御し存在しない縄に強いられた気を付けの姿で悶えようとする裸体を抑え込む様を非道な組織の構成員と自分を購入する飼い主候補達の前に披露し続けていた。