Melting Sweet

雪原歌乃

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Melting Sweet

Act.5-03☆

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夕純ゆずみさん……」
 杉本君は私の下の名前を呼び、口角の辺りにキスする。
「――辛いですか?」
 初めて『夕純』と呼ばれたことと、杉本君の染み入るような優しい声音に私の胸がジンと甘い熱を伴う。私も杉本君に応えたい。そう思い、意を決して口にしてみた。
「辛くないわ。君と――衛也もりや君と繋がることが出来て嬉しいもの」
 衛也君はビックリしたように目を見開く。でも、すぐに嬉しそうに破顔し、「ありがとう」と言った。
「俺も、夕純さんと繋がってたいです、たくさん……」
 衛也君が身動きする。最初は緩やかに、そして徐々に速度を増してゆく。
「あっ……んんっ……あぁっ……」
「ゆ……ずみ……さん……」
 私に衛也君の情熱をぶつけながら、何度も名前を呼んでくれる。それが嬉しくて、愛おしくて、眦まなじりから涙が溢れ出る。
 衛也君の律動は激しくなる。水音が鳴り響くほど最奥を打ち付けられるたび、ベッドもギシギシと軋む。
 衛也君とのセックスは、これまでとは比較にならない。抱かれながら幸せを噛み締められるのは、衛也君が私を心から想ってくれていることが伝わってくるから。そして私自身も、衛也君を絶対に手放したくないと切望している。
 ずっと厄介だと思っていた存在。突っぱねても突っぱねても、全く懲りることを知らない鈍感な衛也君。けれども、本当に鈍感だったのは衛也君じゃなくて私だった。私自身の本当の気持ちに。
 ――衛也君よりもきっと、私の方が衛也君をずっと好きだったんだ……
 衛也君を好きだと思っている自分を認めたくなかった。四十路に手に届きそうな年増女が、十歳も年下の、しかも自分の部下に恋してしまったなんて情けないとしか言いようがない。周りもきっと引いてしまう。だから、知らず知らずのうちに衛也君への想いを封印してしまったのだ。
「あ……んんっ……衛也君……好き……あぁっ……」
「俺も……好きです……夕純……さ……っ……」
 口内に塩辛い雫が落ちてきた。うっすらと瞼を開けると、余裕のない衛也君から汗が滴っている。
 私は両腕を伸ばし、衛也君の首の後ろに絡める。このまま、本当に融けてしまいたい。衛也君と、二度と離れられなくなるように。祈るように私は強く思う。
 衛也君の身動きがさらに激しくなった。衛也君にありったけの愛を注がれ続けた私は、意識が朦朧としている。
「そろそろ……俺も……」
 衛也君が強く腰を打ち付けてくる。私も先ほどよりも強くしがみついた。
「あ……あんっ……わ……たし……も……あぁっ!」
「んっ……」
 衛也君が微かに呻くと、律動が徐々に緩やかになる。衛也君は呼吸を整えると、ゆっくりと私から男性器を抜き、すぐに後処理を始める。そして、行為が終わってぐったりしていた私にも気付き、ティッシュを数枚引き出して、それで私の秘部を拭ってくれた。
「そこまでしなくても……」
「やらせて下さい」
 私に有無を唱えさせず、黙々と拭き続ける。ひとしきり綺麗にしてくれると、衛也君はティッシュをゴミ箱に捨て、私の隣に横になった。
「疲れた?」
 衛也君に腕枕をしてもらいながら、私は訊ねる。
 衛也君は口元に笑みを湛え、「ちょっと」と答えた。
「でも、夕純さんと繋がることが出来たのはほんとに嬉しいですよ。俺にとっては雲の上の人だったから」
「大袈裟ね。ただの嫌味なオバサンなのに」
「オバサンじゃないですって」
 私の言葉に、衛也君はあからさまに顔をしかめた。
「夕純さんの悪い癖です。そうやって自分をわざと貶めようとするトコ。
 夕純さんは充分過ぎるほど魅力的な女性ですよ。仕事は出来るし、しっかりしてるし。それなのに、見た目年齢は俺と同世代の女子社員とあんまり変わらない。職場を出れば、小柄で可愛い女性以上に女性らしい人です」
「――本気で言ってる……?」
「本気に決まってます」
 衛也君は私を引き寄せ、そのまま胸に埋めさせた。
「今まで夕純さんを利用して傷付けてきた男達は全く見る目がないです。でも、見る目がなかったからこそ、俺にチャンスが回ってきたんですよね」
「――衛也君は……」
 私は衛也君に擦り寄りながら続ける。
「もしかして、今まで恋をしたことがないの?」
「恋、ですか……」
 衛也君は少し言い淀んでから、「ないかもしれません」と答える。
「本気で、この人いいな、って思えたのは夕純さんが初めてでしたから。考えてみると、ずっと恋らしい恋なんてしたことがなかった。だから最初の頃は、夕純さんへ対する感情に戸惑ったんです、本音言うとね。でも、時間をかけて、人を好きになることがよく分かって、それからは、夕純さんに俺の存在を強く植え付けてやろう、って必死でした」
「――その目論見は、見事成功した、ってわけね?」
「そうなりますね」
 衛也君は腕の力を緩め、私を真っ直ぐに見つめる。
「夕純さん」
 真顔で私の名前を口にする。
「なに?」
「もう一回、『好き』って言ってくれませんか?」
「――今言うの?」
「はい」
 私は戸惑った。行為の最中は、勢いで『好き』と言えたけど、終わったあとではさすがに恥ずかしい。
「――どうしても?」
「どうしても」
 ここまで強く求められてしまっては、答えないわけにはいかない。私はしばらく視線をさ迷わせ、思いきって告げた。
「――好き……、衛也君が……」
 言い終える間もなく、全身がカッと熱くなった。まともに顔を合わせられなくて、再び衛也君に顔を埋めた。
「ほんと可愛いな、夕純さん」
 笑いを含みながら、衛也君が耳元で囁いてくる。
 私はムッとしたけれど、言い返せるだけの気持ちの余裕はなかった。
「そんな夕純さんも、俺は好きですよ」
 トドメとばかりに私に殺し文句を言ってきた衛也君は、私の首筋に唇を押し付ける。
「また、ふたりっきりで飲みましょう。そうだな、今度は俺のトコにしましょうか? もちろん、次からは酒を飲むだけじゃないですよ? 分かってるとは思いますけどね」
「――馬鹿じゃない……」
 私はくぐもった声で吐き出しつつ、衛也君との〈次〉に胸を膨らませていた。
「私、料理出来ないからね?」
 しっかり念を押すと、衛也君からは、「いいですよ」と返ってきた。
「俺はただ、夕純さんと酒飲んでイチャイチャ出来れば満足ですから」
 サラリと言われ、私はそのまま絶句してしまった。
 やっぱり、私は衛也君には勝てそうな気がしない。もちろん、プライベートでは、だけど。

【Melting Sweet - End】
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