11 / 67
第四話 水平線の彼方に
Act.1
しおりを挟む
刻々と時は過ぎ、気が付くと日曜日となっていた。
学校はもちろん、大抵の会社も休みであるが、紫織の父親は周囲が休日を満喫している時にこそ働きに出ている。今日も朝早くから出勤したようで、紫織が起きた頃にはすでに父親の姿はなかった。
幼い頃には、どうして自分のお父さんはよそのお父さんと違うんだろう、という疑問を抱いたこともあったが、今となっては、父親のいない休日は当たり前のようになってしまい、特に気にならなくなっていた。
父親が不在の中で、紫織と母親はふたりで朝食を食べ、食事を済ませたあとは、母親は後片付けをし、紫織はコタツに寝転んでテレビを観ている。
何もせずに、ただのんびりと過ごす。それが紫織にとって、何より幸せな休日である。
「ちょっとあんた……」
後片付けを終えた母親はリビングへと戻って来るなり、紫織を呆れたように見下ろしていた。
「いくら休みだからって何ぐうたらしてんの? ちょっとは手伝いのひとつもしようって気持ちにならないの?」
「うーん……、めんどくさい……」
紫織はだるそうに答えると、首だけを出す格好でコタツに潜り込んだ。
その行動は母親の癇に障ってしまったらしい。突然、何の前触れもなしに頭に平手が飛んできた。
「……ったあ……」
紫織は首をわずかにもたげると、コタツから手を出して自らの頭を何度もさすり、母親を恨めしげに見上げた。
「いきなり叩くことないでしょ! 暴力反対!」
「なにいっちょまえな口利いてんのよ」
母親は腰に両手を当て、それこそ仁王像のような凄まじい形相で紫織を睨んでいる。
「ちょっとぐらい痛い目に遭わないと、あんたは全く人の言うことなんて聴かないでしょうが。それに、そんなに強く叩いてないでしょ。――ほんとに大袈裟なんだから!」
「――だって……」
「『だって』じゃないの! もう、あんたがここにいると掃除もロクに出来ないからどっかに行ってらっしゃい!」
「ええーっ……!」
「――何か、ご不満でもあるのかしら?」
母親は紫織に、満面の笑みを浮かべている。だが、実は全く笑っていないのは、紫織も重々承知していた。
「――いえ、ありません……」
力なく答える紫織に、母親は満足気に頷く。
「分かればいいのよ」
◆◇◆◇
母親から追い出された紫織は、自室へと戻ってコートを着込んだ。
本当は家から出たくなかったのだが、自分の部屋にいたとしても、先ほど同様、酷い扱いを受けるのは目に見えている。
(風邪を引いたら、絶対にお母さんを恨んでやる)
紫織はそう思いながらコートを着込み、お気に入りのクリーム色のマフラーを巻いた。
手ぶらで出るのも何だか虚しいような気がしたので、小さなバッグを手にし、その中に財布を忍ばせた。財布の中身は雀の涙ほどしかないが、ないよりはましである。贅沢は出来なくても、せいぜいファーストフードぐらいは口に出来る。
「さてと……」
ひととおりの準備を終えると、紫織は再び部屋を出た。
◆◇◆◇
外に出ると、凍り付かんばかりの冷気が全身に纏わり付く。口からは真っ白に染まった息が吐き出され、それがよけいに寒さを感じさせた。
紫織はコートのポケットに手を入れた。手袋を嵌めてはいるが、それでも、出したままでの状態では少しずつ指先から体温を奪われてゆく。
(とりあえず、駅の方まで行こうかな)
紫織は身を縮ませながら、駅へと向かおうとした。
と、その時であった。
「紫織」
背中越しに低く穏やかな男の声に呼び止められた。
紫織は立ち止まって後ろを振り返る。
紫織を呼んだのは、隣人の幼なじみである宏樹だった。
「珍しいな、こんな寒い日に外に出るなんて」
宏樹は紫織と視線が合うなり、小さく笑みながら言った。
宏樹も出かけるところだったのだろうか。紫織同様、上半身にコートを纏っている。
「どこ行くんだ?」
まるで保護者のように訊ねてくる宏樹。
完全に子供扱いされていると感じた紫織は、不満げに口を尖らせた。
「別にどこ行くって目的はないけど……。ただ、お母さんに邪魔扱いされちゃったから……」
紫織の答えに、宏樹は、あはは、と声を上げて笑った。
「なるほど。それじゃあ、俺と同じってわけだ」
「え? 同じって、まさか……」
「そ、俺も、追い出されたクチ」
宏樹は屈託なく言った。
「いい大人が、家にばかり閉じ籠ってるんじゃない、ってね。確かに、親の言うことも尤もだけどな」
「そうなんだ。――あ、でも、朋也は?」
「ああ、あいつは朝早くから出かけてるよ。どうやら、学校の友達と約束があったみたいだな」
「ふうん」
紫織は短く答えると、寒さも関係なく、意気揚々と出かける朋也を思い浮かべた。年中元気がありあまっているというのは、呆れる半面、羨ましくも感じる。
(朋也ほどじゃなくても、私ももうちょっと寒さに強ければ……)
そう思いつつ、紫織は身体を鍛えようという気は全く起きない。やはり、家でぬくぬく過ごすのが一番幸せだと改めて考え直した。
「――紫織?」
思案に耽っている紫織の顔を、宏樹が怪訝そうに覗き込んでくる。
宏樹の顔がすぐ目の前にある。
紫織は驚いて目を見開き、思わず背を仰け反らせた。
「別に、そんなにビックリすることないだろ?」
宏樹は呆れたように苦笑した。
「だ、だって……! 急に宏樹君が顔を近付けてくるから……!」
紫織の心拍数は徐々に上がっている。
宏樹とは長い付き合いだし、幼い頃は、抱っこもおんぶもしてもらっていたこともあるが、今は違う。ほんの少し、宏樹の吐息を感じただけで紫織は本気で失神寸前まで追い込まれる。だからと言って、突き放されてしまうのも淋しい。
本当に、恋心というものは厄介に出来ている。
(私、このままで大丈夫なのかな……?)
そんなことを思っていたら、宏樹が、「おい」とまた声をかけてきた。
「紫織、特に予定がないなら、ちょっと俺に付き合わないか?」
「え……?」
突然の申し出に、紫織はポカンと口を開けたまま何度も瞬きした。
宏樹は紫織に自分の言葉が伝わっていないと思ったらしい。
「だから、俺に付き合って、って言ったんだけど」
「あ、それは分かったんだけど……。――なんで?」
「『なんで』って言われてもなあ……」
さすがの宏樹も困惑していた。
「深い意味はないんだけどねえ。――まあ、いいから来い」
珍しく命令口調で紫織に促してくる。
紫織は言われるがまま着いて行くと、隣家の車庫に停められている宏樹の車の前まで来た。
宏樹はコートから車のキーを取り出すと、鍵穴にそれを差し込んでドアを開けた。
「ほら、紫織も乗った」
「あ、うん」
抵抗する間もなかった。いや、宏樹に抵抗する気など元からなかったが。
紫織はドアを開けると、助手席に座り、シートベルトを着用する。
宏樹はそれを見届けると、車のキーを回した。
学校はもちろん、大抵の会社も休みであるが、紫織の父親は周囲が休日を満喫している時にこそ働きに出ている。今日も朝早くから出勤したようで、紫織が起きた頃にはすでに父親の姿はなかった。
幼い頃には、どうして自分のお父さんはよそのお父さんと違うんだろう、という疑問を抱いたこともあったが、今となっては、父親のいない休日は当たり前のようになってしまい、特に気にならなくなっていた。
父親が不在の中で、紫織と母親はふたりで朝食を食べ、食事を済ませたあとは、母親は後片付けをし、紫織はコタツに寝転んでテレビを観ている。
何もせずに、ただのんびりと過ごす。それが紫織にとって、何より幸せな休日である。
「ちょっとあんた……」
後片付けを終えた母親はリビングへと戻って来るなり、紫織を呆れたように見下ろしていた。
「いくら休みだからって何ぐうたらしてんの? ちょっとは手伝いのひとつもしようって気持ちにならないの?」
「うーん……、めんどくさい……」
紫織はだるそうに答えると、首だけを出す格好でコタツに潜り込んだ。
その行動は母親の癇に障ってしまったらしい。突然、何の前触れもなしに頭に平手が飛んできた。
「……ったあ……」
紫織は首をわずかにもたげると、コタツから手を出して自らの頭を何度もさすり、母親を恨めしげに見上げた。
「いきなり叩くことないでしょ! 暴力反対!」
「なにいっちょまえな口利いてんのよ」
母親は腰に両手を当て、それこそ仁王像のような凄まじい形相で紫織を睨んでいる。
「ちょっとぐらい痛い目に遭わないと、あんたは全く人の言うことなんて聴かないでしょうが。それに、そんなに強く叩いてないでしょ。――ほんとに大袈裟なんだから!」
「――だって……」
「『だって』じゃないの! もう、あんたがここにいると掃除もロクに出来ないからどっかに行ってらっしゃい!」
「ええーっ……!」
「――何か、ご不満でもあるのかしら?」
母親は紫織に、満面の笑みを浮かべている。だが、実は全く笑っていないのは、紫織も重々承知していた。
「――いえ、ありません……」
力なく答える紫織に、母親は満足気に頷く。
「分かればいいのよ」
◆◇◆◇
母親から追い出された紫織は、自室へと戻ってコートを着込んだ。
本当は家から出たくなかったのだが、自分の部屋にいたとしても、先ほど同様、酷い扱いを受けるのは目に見えている。
(風邪を引いたら、絶対にお母さんを恨んでやる)
紫織はそう思いながらコートを着込み、お気に入りのクリーム色のマフラーを巻いた。
手ぶらで出るのも何だか虚しいような気がしたので、小さなバッグを手にし、その中に財布を忍ばせた。財布の中身は雀の涙ほどしかないが、ないよりはましである。贅沢は出来なくても、せいぜいファーストフードぐらいは口に出来る。
「さてと……」
ひととおりの準備を終えると、紫織は再び部屋を出た。
◆◇◆◇
外に出ると、凍り付かんばかりの冷気が全身に纏わり付く。口からは真っ白に染まった息が吐き出され、それがよけいに寒さを感じさせた。
紫織はコートのポケットに手を入れた。手袋を嵌めてはいるが、それでも、出したままでの状態では少しずつ指先から体温を奪われてゆく。
(とりあえず、駅の方まで行こうかな)
紫織は身を縮ませながら、駅へと向かおうとした。
と、その時であった。
「紫織」
背中越しに低く穏やかな男の声に呼び止められた。
紫織は立ち止まって後ろを振り返る。
紫織を呼んだのは、隣人の幼なじみである宏樹だった。
「珍しいな、こんな寒い日に外に出るなんて」
宏樹は紫織と視線が合うなり、小さく笑みながら言った。
宏樹も出かけるところだったのだろうか。紫織同様、上半身にコートを纏っている。
「どこ行くんだ?」
まるで保護者のように訊ねてくる宏樹。
完全に子供扱いされていると感じた紫織は、不満げに口を尖らせた。
「別にどこ行くって目的はないけど……。ただ、お母さんに邪魔扱いされちゃったから……」
紫織の答えに、宏樹は、あはは、と声を上げて笑った。
「なるほど。それじゃあ、俺と同じってわけだ」
「え? 同じって、まさか……」
「そ、俺も、追い出されたクチ」
宏樹は屈託なく言った。
「いい大人が、家にばかり閉じ籠ってるんじゃない、ってね。確かに、親の言うことも尤もだけどな」
「そうなんだ。――あ、でも、朋也は?」
「ああ、あいつは朝早くから出かけてるよ。どうやら、学校の友達と約束があったみたいだな」
「ふうん」
紫織は短く答えると、寒さも関係なく、意気揚々と出かける朋也を思い浮かべた。年中元気がありあまっているというのは、呆れる半面、羨ましくも感じる。
(朋也ほどじゃなくても、私ももうちょっと寒さに強ければ……)
そう思いつつ、紫織は身体を鍛えようという気は全く起きない。やはり、家でぬくぬく過ごすのが一番幸せだと改めて考え直した。
「――紫織?」
思案に耽っている紫織の顔を、宏樹が怪訝そうに覗き込んでくる。
宏樹の顔がすぐ目の前にある。
紫織は驚いて目を見開き、思わず背を仰け反らせた。
「別に、そんなにビックリすることないだろ?」
宏樹は呆れたように苦笑した。
「だ、だって……! 急に宏樹君が顔を近付けてくるから……!」
紫織の心拍数は徐々に上がっている。
宏樹とは長い付き合いだし、幼い頃は、抱っこもおんぶもしてもらっていたこともあるが、今は違う。ほんの少し、宏樹の吐息を感じただけで紫織は本気で失神寸前まで追い込まれる。だからと言って、突き放されてしまうのも淋しい。
本当に、恋心というものは厄介に出来ている。
(私、このままで大丈夫なのかな……?)
そんなことを思っていたら、宏樹が、「おい」とまた声をかけてきた。
「紫織、特に予定がないなら、ちょっと俺に付き合わないか?」
「え……?」
突然の申し出に、紫織はポカンと口を開けたまま何度も瞬きした。
宏樹は紫織に自分の言葉が伝わっていないと思ったらしい。
「だから、俺に付き合って、って言ったんだけど」
「あ、それは分かったんだけど……。――なんで?」
「『なんで』って言われてもなあ……」
さすがの宏樹も困惑していた。
「深い意味はないんだけどねえ。――まあ、いいから来い」
珍しく命令口調で紫織に促してくる。
紫織は言われるがまま着いて行くと、隣家の車庫に停められている宏樹の車の前まで来た。
宏樹はコートから車のキーを取り出すと、鍵穴にそれを差し込んでドアを開けた。
「ほら、紫織も乗った」
「あ、うん」
抵抗する間もなかった。いや、宏樹に抵抗する気など元からなかったが。
紫織はドアを開けると、助手席に座り、シートベルトを着用する。
宏樹はそれを見届けると、車のキーを回した。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
王妃の手習い
桃井すもも
恋愛
オフィーリアは王太子の婚約者候補である。しかしそれは、国内貴族の勢力バランスを鑑みて、解消が前提の予定調和のものであった。
真の婚約者は既に内定している。
近い将来、オフィーリアは候補から外される。
❇妄想の産物につき史実と100%異なります。
❇知らない事は書けないをモットーに完結まで頑張ります。
❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。
『親友』との時間を優先する婚約者に別れを告げたら
黒木メイ
恋愛
筆頭聖女の私にはルカという婚約者がいる。教会に入る際、ルカとは聖女の契りを交わした。会えない間、互いの不貞を疑う必要がないようにと。
最初は順調だった。燃えるような恋ではなかったけれど、少しずつ心の距離を縮めていけたように思う。
けれど、ルカは高等部に上がり、変わってしまった。その背景には二人の男女がいた。マルコとジュリア。ルカにとって初めてできた『親友』だ。身分も性別も超えた仲。『親友』が教えてくれる全てのものがルカには新鮮に映った。広がる世界。まるで生まれ変わった気分だった。けれど、同時に終わりがあることも理解していた。だからこそ、ルカは学生の間だけでも『親友』との時間を優先したいとステファニアに願い出た。馬鹿正直に。
そんなルカの願いに対して私はダメだとは言えなかった。ルカの気持ちもわかるような気がしたし、自分が心の狭い人間だとは思いたくなかったから。一ヶ月に一度あった逢瀬は数ヶ月に一度に減り、半年に一度になり、とうとう一年に一度まで減った。ようやく会えたとしてもルカの話題は『親友』のことばかり。さすがに堪えた。ルカにとって自分がどういう存在なのか痛いくらいにわかったから。
極めつけはルカと親友カップルの歪な三角関係についての噂。信じたくはないが、間違っているとも思えなかった。もう、半ば受け入れていた。ルカの心はもう自分にはないと。
それでも婚約解消に至らなかったのは、聖女の契りが継続していたから。
辛うじて繋がっていた絆。その絆は聖女の任期終了まで後数ヶ月というところで切れた。婚約はルカの有責で破棄。もう関わることはないだろう。そう思っていたのに、何故かルカは今更になって執着してくる。いったいどういうつもりなの?
戸惑いつつも情を捨てきれないステファニア。プライドは捨てて追い縋ろうとするルカ。さて、二人の未来はどうなる?
※曖昧設定。
※別サイトにも掲載。
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる