Blissful Kiss

雪原歌乃

文字の大きさ
上 下
34 / 66
Chapter.4 触れて、側にいて

Act.3-04

しおりを挟む
「これでいい?」
 高遠さんが出したお皿は、手の平サイズの小皿と両手であまるぐらいの中皿だった。
「いいですよ」
 頷きながら、ちょっと偉そうだったかな、と少し反省する。もちろん、高遠さんは全く意に介していない。
「箸は?」
「割り箸持ってきましたから」
「じゃあ、それでいいか」
 ひとりでうんうんと首を縦に動かし、お皿を億の部屋へと持って行った。それからまた戻って来て、冷蔵庫を開け出した。
「飲み物、烏龍茶でいい?」
 そこまで気を遣わなくていいのにと思ってしまう。でも、そんなところも私は嬉しかったから、「はい」とさらに笑顔で答えた。
「すみません。あと、お弁当も出してくれますか?」
「もちろん」
 高遠さんもまた素直に応じてくれる。意気揚々とトートバッグからお弁当の包みを取り出し、それを持って行ってくれた。
 筑前煮も、いい具合に温まった。部屋に持って行き、お弁当と一緒に並べてみれば一気にコタツの上が賑わった。
「ピクニックみたいですね」
 自分で作ったものを広げてワクワクしている。ただ、室内というのがちょっと残念だ。
「春になったら行く?」
 ふたりで並んで座ってから、高遠さんが言った。
「さすがにこれからだと厳しいからね。暖かくなったら、弁当持って。花見とかいいかもね」
「花見! 行きたいです!」
 自分でも驚くほどのはしゃぎ方をしてしまった。でも、元々花は好きだから花見は行きたい。
「珍しいこともあるもんだ」
 そう言いながら、高遠さんが笑いを堪えている。
「でも、そこまで楽しみにしてくれるんなら、ちゃんとプランを練っておかないとね。もちろん、行きたいトコとかあるなら遠慮なく言って、絢」
 あれ、と思った。今、最後に下の名前で呼ばれたのは気のせいだろうか。
「あの、高遠さん……?」
 私はおずおずと訊ねた。
「今、私の名前を、下の方……」
「ごめん!」
 咄嗟に謝られてしまった。
「つい、呼び捨てで君の名前を……。不愉快、だった……?」
 私は何度も首を横に振った。
「いえ、全然。私の名前、好きなように呼んで下さい。高遠さんには、『絢』って呼ばれたいです……」
 好きなように、と言いながら、〈絢〉と呼ばれたいなどと何気なくわがままを口にしてしまった。
 高遠さんの両手が、私の頬を挟んできた。また、キスをされてしまうのかな、と思ったけれど、違った。
「じゃあ、遠慮なくこれからも呼ぶよ。絢」
 手が頬から離れ、今度は身体ごと包み込まれる。首筋に、高遠さんの温かい吐息を感じた。
「絢……」
 また、私の名前を口にする。友達や家族にも下の名前で呼ばれているのに、高遠さんに呼ばれると特別なものを感じる。
 幸せとはこういうことを言うのだろうか。高遠さんといると心が温かくなるし、とても安心出来る。やはり、私は高遠さんに恋しているのだ。
「――好きです……」
 ほとんど無意識に告白していた。
 高遠さんの腕に力が入り、さらに強く抱き締められた。
「ありがとう。俺も絢が好きだよ」
 高遠さんも私に応えてくれた。
 ――私は、最高の幸せ者なのかもしれない……
 そんなことを思いながら、私も高遠さんの背中にゆっくりと両腕を回した。

【Chapter.4-End】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

ドSな上司は私の本命

水天使かくと
恋愛
ある会社の面接に遅刻しそうな時1人の男性が助けてくれた!面接に受かりやっと探しあてた男性は…ドSな部長でした! 叱られても怒鳴られても彼が好き…そんな女子社員にピンチが…! ドS上司と天然一途女子のちょっと不器用だけど思いやりハートフルオフィスラブ!ちょっとHな社長の動向にもご注目!外部サイトでは見れないここだけのドS上司とのHシーンが含まれるのでR-15作品です!

十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

和泉杏咲
恋愛
私は、もうすぐ結婚をする。 職場で知り合った上司とのスピード婚。 ワケアリなので結婚式はナシ。 けれど、指輪だけは買おうと2人で決めた。 物が手に入りさえすれば、どこでもよかったのに。 どうして私達は、あの店に入ってしまったのだろう。 その店の名前は「Bella stella(ベラ ステラ)」 春の空色の壁の小さなお店にいたのは、私がずっと忘れられない人だった。 「君が、そんな結婚をするなんて、俺がこのまま許せると思う?」 お願い。 今、そんなことを言わないで。 決心が鈍ってしまうから。 私の人生は、あの人に捧げると決めてしまったのだから。 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚ 東雲美空(28) 会社員 × 如月理玖(28) 有名ジュエリー作家 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

処理中です...