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Chapter.4 触れて、側にいて
Act.3-02
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「大丈夫ですから……」
ようやくの思いで口にする。
「ほんとに風邪とか引いてませんから。だから……」
高遠さんは穴が空くほど私をジッと見つめる。そして、少しずつ口元を緩めていった。
「もしかして、ふたりきりだから?」
ストレートに問われた。
私は少し返事に躊躇う。けれど、ここで取り繕っても仕方ないと考えて、ゆっくりと首を縦に動かした。
高遠さんはなおも私に視線を注いでくる。
もう、心臓が持たない。そう思いながら、さり気なくそれから逃れようと目を逸らした。
高遠さんの手が、額から頬へと下りてくる。指先で輪郭をなぞり、唇まで滑らせてきた。
怖い。でも、もっと触ってほしい。期待と不安、相反する気持ちを抱きながら瞼を強く閉じる。
ところが、どれほど待っても何も起きない。いったい、どうなっているのか。私は怪訝に思いながら目を開いた。
先ほどと変わらず、高遠さんは私を見つめたままだ。笑顔は浮かべているけれど、心なしが少し淋しげに映った。
「高遠さん……?」
名前を呼んでみた。
高遠さんは少し間を置いてから、「ごめん」と謝罪を口にしてきた。
何故、謝られるのだろう。今度は私が不思議に思う番だった。
「どうしたんですか?」
「――ちょっとね……」
「何がですか?」
「いや……、ちょっとヤバかったから……」
「ヤバい?」
何が言いたいのだろう。なおも疑問に思いながら首を捻った。
高遠さんは忙しなく視線を泳がせ、再び私に向き直った。
「――危うく、君にキスしそうになった……」
高遠さんから紡がれた台詞が、心を震わせる。私と高遠さんとの間に引かれた境界線が、少しずつ消えようとしている。
「――して下さい……」
ほとんど無意識に口にしていた。私は何を言っているのだろうと不意に冷静になるけれど、ほんのわずかでも大人の世界を覗いてみたいという欲望が芽生えたのも確かだった。
「――本気で言ってる?」
瞠目しながら高遠さんが恐る恐る訊いてくる。無理もない。高遠さんと同様――いや、私自身がもっと驚いているのだから。
私は小さく頷いた。キスぐらいで、と七緒と佳奈子に言えば笑われるかもしれない。でも、私にとっては〈大人〉の扉を開く第一歩だ。まだ、怖いという気持ちは完全に拭いきれいないものの、高遠さんになら全てを捧げてといいと思っているのも本心だった。
「目、閉じて?」
高遠さんに言われるがまま、私は再び目を閉じる。今度は何も起きずに終わるなんてことはないと思う、多分。
心拍数が上がっている。高遠さんの吐息を近くに感じる。
最初は口角に温かいものが触れる。それで終わるのだろうかと思ったのだけど、高遠さんの唇は私のそれに重ねられた。
高遠さんと出逢うまでは、それほど異性に興味はなかった。淡い恋のようなものはしたことがあったけれど、触れ合いたいとかそんなことを考えたことは全くなかった。
その私が、今、高遠さんとキスしている。キスしながら、私はずっと、この人の側にい続けたいと心から思った。
ようやくの思いで口にする。
「ほんとに風邪とか引いてませんから。だから……」
高遠さんは穴が空くほど私をジッと見つめる。そして、少しずつ口元を緩めていった。
「もしかして、ふたりきりだから?」
ストレートに問われた。
私は少し返事に躊躇う。けれど、ここで取り繕っても仕方ないと考えて、ゆっくりと首を縦に動かした。
高遠さんはなおも私に視線を注いでくる。
もう、心臓が持たない。そう思いながら、さり気なくそれから逃れようと目を逸らした。
高遠さんの手が、額から頬へと下りてくる。指先で輪郭をなぞり、唇まで滑らせてきた。
怖い。でも、もっと触ってほしい。期待と不安、相反する気持ちを抱きながら瞼を強く閉じる。
ところが、どれほど待っても何も起きない。いったい、どうなっているのか。私は怪訝に思いながら目を開いた。
先ほどと変わらず、高遠さんは私を見つめたままだ。笑顔は浮かべているけれど、心なしが少し淋しげに映った。
「高遠さん……?」
名前を呼んでみた。
高遠さんは少し間を置いてから、「ごめん」と謝罪を口にしてきた。
何故、謝られるのだろう。今度は私が不思議に思う番だった。
「どうしたんですか?」
「――ちょっとね……」
「何がですか?」
「いや……、ちょっとヤバかったから……」
「ヤバい?」
何が言いたいのだろう。なおも疑問に思いながら首を捻った。
高遠さんは忙しなく視線を泳がせ、再び私に向き直った。
「――危うく、君にキスしそうになった……」
高遠さんから紡がれた台詞が、心を震わせる。私と高遠さんとの間に引かれた境界線が、少しずつ消えようとしている。
「――して下さい……」
ほとんど無意識に口にしていた。私は何を言っているのだろうと不意に冷静になるけれど、ほんのわずかでも大人の世界を覗いてみたいという欲望が芽生えたのも確かだった。
「――本気で言ってる?」
瞠目しながら高遠さんが恐る恐る訊いてくる。無理もない。高遠さんと同様――いや、私自身がもっと驚いているのだから。
私は小さく頷いた。キスぐらいで、と七緒と佳奈子に言えば笑われるかもしれない。でも、私にとっては〈大人〉の扉を開く第一歩だ。まだ、怖いという気持ちは完全に拭いきれいないものの、高遠さんになら全てを捧げてといいと思っているのも本心だった。
「目、閉じて?」
高遠さんに言われるがまま、私は再び目を閉じる。今度は何も起きずに終わるなんてことはないと思う、多分。
心拍数が上がっている。高遠さんの吐息を近くに感じる。
最初は口角に温かいものが触れる。それで終わるのだろうかと思ったのだけど、高遠さんの唇は私のそれに重ねられた。
高遠さんと出逢うまでは、それほど異性に興味はなかった。淡い恋のようなものはしたことがあったけれど、触れ合いたいとかそんなことを考えたことは全くなかった。
その私が、今、高遠さんとキスしている。キスしながら、私はずっと、この人の側にい続けたいと心から思った。
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