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Chapter.2 もっと知りたい
Act.3-01
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バイトは予定通りに終わった。それから私は電車に乗り、家の最寄り駅から自転車に乗り換えて急いで帰った。
ご飯は遅い時間ということもあって簡単なもので済ませた。お風呂もいつもよりも早く上がり、髪を乾かしてベッドの上で座りながら高遠さんからの電話を待つ。
待っている間、緊張で何も手に付かなかった。何を話すか頭で考えるも、話題が全く浮かばない。そもそも、大学生の私と社会人の高遠さんでは住む世界が違い過ぎる。
高遠さんはどう思っているのだろう。でも、優しいあの人のことだから、私によけいな気を遣わせないようにしてくれる気がする。それがかえって申しわけない。
そのうち、携帯の着信音が鳴った。あらかじめ分かっていたとはいえ、先ほどにも増して緊張感が駆け巡る。
私は深呼吸を数回繰り返し、電話に出た。
「もっ……、もしもし……」
普通にするつもりが、かえって意識し過ぎて声が上ずってしまった。
高遠さんももちろん気付いたに違いない。でも、そのことには全く触れず、『どうも』と穏やかな声音で返してくる。
『ごめんね。遅くなってしまったね』
「あ、えっと……、いえ……」
自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。
そこでさすがに高遠さんも電話の向こうで、『あはは』と声を出して笑った。
『そんなに構えなくていいよ。リラックスリラックス』
「はあ……」
『やっぱり無理?』
「えっと……、ちょっと……」
また、馬鹿正直に答えてしまった。
『参ったな……。こっちは緊張させるつもりはないんだけど……』
「――すいません……」
『いやいや、謝らなくていいって』
少し慌てたように言ってから、高遠さんは、『さて』と言葉を紡いだ。
『今日はどんな話をしようか?』
「どんな……」
こっちに委ねられても、私も何を話していいのか全く分からない。とはいえ、高遠さんに丸投げしてしまうのも悪い気がする。
『――やっぱり、迷惑だったかな……?』
しばらく沈黙が続き、高遠さんが少し哀し気な口調で訊ねてくる。
『さっきの感じから、相当無理をさせてしまった感じだったしね。ほんとに、嫌だと思っているならはっきり言ってもらって構わないんだよ?』
「いえ、迷惑とかそんなのは全然思ってないです。思ってないです、けど……」
『けど?』
「――やっぱり、そんなに逢ってない男の人と話すのは……、緊張とかしちゃって……」
『ほんとにそれだけ?』
「ほんとです」
何てつまらないやり取りをさせてしまっているのだろう。また、高遠さんに申しわけない気持ちでいっぱいになる。あまりにも不甲斐ない自分が情けなくて泣きたくなってきたけれど、ここで泣いたら高遠さんをよけいに困らせてしまう。
ご飯は遅い時間ということもあって簡単なもので済ませた。お風呂もいつもよりも早く上がり、髪を乾かしてベッドの上で座りながら高遠さんからの電話を待つ。
待っている間、緊張で何も手に付かなかった。何を話すか頭で考えるも、話題が全く浮かばない。そもそも、大学生の私と社会人の高遠さんでは住む世界が違い過ぎる。
高遠さんはどう思っているのだろう。でも、優しいあの人のことだから、私によけいな気を遣わせないようにしてくれる気がする。それがかえって申しわけない。
そのうち、携帯の着信音が鳴った。あらかじめ分かっていたとはいえ、先ほどにも増して緊張感が駆け巡る。
私は深呼吸を数回繰り返し、電話に出た。
「もっ……、もしもし……」
普通にするつもりが、かえって意識し過ぎて声が上ずってしまった。
高遠さんももちろん気付いたに違いない。でも、そのことには全く触れず、『どうも』と穏やかな声音で返してくる。
『ごめんね。遅くなってしまったね』
「あ、えっと……、いえ……」
自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。
そこでさすがに高遠さんも電話の向こうで、『あはは』と声を出して笑った。
『そんなに構えなくていいよ。リラックスリラックス』
「はあ……」
『やっぱり無理?』
「えっと……、ちょっと……」
また、馬鹿正直に答えてしまった。
『参ったな……。こっちは緊張させるつもりはないんだけど……』
「――すいません……」
『いやいや、謝らなくていいって』
少し慌てたように言ってから、高遠さんは、『さて』と言葉を紡いだ。
『今日はどんな話をしようか?』
「どんな……」
こっちに委ねられても、私も何を話していいのか全く分からない。とはいえ、高遠さんに丸投げしてしまうのも悪い気がする。
『――やっぱり、迷惑だったかな……?』
しばらく沈黙が続き、高遠さんが少し哀し気な口調で訊ねてくる。
『さっきの感じから、相当無理をさせてしまった感じだったしね。ほんとに、嫌だと思っているならはっきり言ってもらって構わないんだよ?』
「いえ、迷惑とかそんなのは全然思ってないです。思ってないです、けど……」
『けど?』
「――やっぱり、そんなに逢ってない男の人と話すのは……、緊張とかしちゃって……」
『ほんとにそれだけ?』
「ほんとです」
何てつまらないやり取りをさせてしまっているのだろう。また、高遠さんに申しわけない気持ちでいっぱいになる。あまりにも不甲斐ない自分が情けなくて泣きたくなってきたけれど、ここで泣いたら高遠さんをよけいに困らせてしまう。
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