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Chapter.1 告白は突然に
Act.3-05
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「あの……」
私は意を決して、高遠さんに訊いた。
「あなたは、私のこと、どう思ってます……?」
自惚れにもほどがある。でも、ちゃんと確認しておかないと気が済まない。
高遠さんは真顔になった。また目を逸らしたくなるほど私に真っ直ぐな視線を注ぎ、小さく深呼吸をした。
「好きだよ」
あまりにも自然な告白だった。だから信じられず、私はしばらく呆然とした。
高遠さんは相変わらず、私をずっと見つめている。高遠さんの鳶色の瞳に吸い込まれてしまいそうで、不意に怖いと感じてしまう。
「迷惑なら、すぐにここから逃げた方がいいよ?」
私は忙しなく視線を泳がせた。
離れたカウンターには、マスターと私達よりあとに入って来た男性客。高遠さんの声も控えめだったからふたりには届いていないかもしれないけれど、もしかしたら、私達のやり取りに何かを感じたかもしれない。でも、ふたりとも全く気にすることなく、食器の手入れをしたり、コーヒーを飲んだりしている。
店内に流れるクラシック音楽が、先ほどにも増して耳に響く。多分、高遠さんの告白に緊張が高まっているせいだからだ。
コーヒーは飲みきったけれど、パフェはまだ、四分の一ほど残っている。食べずに帰ってしまうのはもったいないし、何より、作ってくれたマスターに失礼だ。こういうところが周りからもよく、律儀だね、と言われる。
「――パフェが、残ってますから……」
そう告げると、高遠さんは目を見開き、やがて、「そうきたか」と声を出して笑った。
「まず、ゆっくり食べるといいよ。俺は時間がある。食べ終わるまで待ってるから」
「――すみません……」
「別に謝ることなんてない。俺こそ、君を困らせるようなことを言って申しわけない」
また、胸の奥に痛みを感じた。高遠さんに気を遣わせてしまった。
「――すみません……」
再び謝罪する。
そんな私に高遠さんは、「いいから」と優しく返してくれる。
「あんまり謝られるとかえって辛い。でも、ちょっとでも悪いって思ってくれるなら、ひとつだけ、俺のわがままを聞いてもらおうかな?」
「わがまま、ですか……?」
「うん」
高遠さんは頷き、テーブルに置いたままにしていた名刺に手を伸ばしてきた。そして、ジャケットの胸ポケットからボールペンを引っ張り出すと、名刺の裏に何やら書き始めた。
「これ、俺の携帯番号とメールアドレス。良かったら、君の連絡先も教えてくれる?」
わがままとはこういうことか、とようやく気付いた。私は考えるより先に、バッグを漁ってメモ帳とペンケースを取り出した。
高遠さんと同様、メモ用紙に自分の携帯番号とメールアドレスを書いてゆく。そして、書いた一枚を剥ぎ取り、それを高遠さんに渡した。
「――いいの……?」
自分から、教えて、と言ってきたのに驚いている。
「悪いことをしたと思ってますから……」
「いや、冗談のつもりだったんだけど……」
「迷惑ですか?」
「迷惑どころか嬉しいよ。ありがとう」
高遠さんはようやく笑顔を取り戻し、メモを丁寧に畳んでパスケースにしまい込んだ。
「君さえ良ければ、また改めて連絡させてもらうよ。もちろん、嫌だと思ったら着信拒否なりして構わない。さすがにストーカー行為はしないから」
私は肯定も否定も出来なかった。でも、高遠さんの真摯な態度に少しずつ、心が温かくなってきた。何となく、初めて高遠さんの前で笑顔を向けられたような自覚を持った。
それから私は、残ったパフェをゆっくり平らげた。結構なボリュームがあったはずなのに、苦しいとは全く思わなかった。
食べている姿を見られたくなかったのに、結局、高遠さんの注目も浴びることにもなってしまった。
ふと、どうして高遠さんに迷わず自分の番号とアドレスを教えてしまったのか不思議に思えた。自分でもよく分からない。でも、ほんの短い時間の間で、高遠さんという男性に少なからず興味を抱いたのは確かだった。
【Chapter.1-End】
私は意を決して、高遠さんに訊いた。
「あなたは、私のこと、どう思ってます……?」
自惚れにもほどがある。でも、ちゃんと確認しておかないと気が済まない。
高遠さんは真顔になった。また目を逸らしたくなるほど私に真っ直ぐな視線を注ぎ、小さく深呼吸をした。
「好きだよ」
あまりにも自然な告白だった。だから信じられず、私はしばらく呆然とした。
高遠さんは相変わらず、私をずっと見つめている。高遠さんの鳶色の瞳に吸い込まれてしまいそうで、不意に怖いと感じてしまう。
「迷惑なら、すぐにここから逃げた方がいいよ?」
私は忙しなく視線を泳がせた。
離れたカウンターには、マスターと私達よりあとに入って来た男性客。高遠さんの声も控えめだったからふたりには届いていないかもしれないけれど、もしかしたら、私達のやり取りに何かを感じたかもしれない。でも、ふたりとも全く気にすることなく、食器の手入れをしたり、コーヒーを飲んだりしている。
店内に流れるクラシック音楽が、先ほどにも増して耳に響く。多分、高遠さんの告白に緊張が高まっているせいだからだ。
コーヒーは飲みきったけれど、パフェはまだ、四分の一ほど残っている。食べずに帰ってしまうのはもったいないし、何より、作ってくれたマスターに失礼だ。こういうところが周りからもよく、律儀だね、と言われる。
「――パフェが、残ってますから……」
そう告げると、高遠さんは目を見開き、やがて、「そうきたか」と声を出して笑った。
「まず、ゆっくり食べるといいよ。俺は時間がある。食べ終わるまで待ってるから」
「――すみません……」
「別に謝ることなんてない。俺こそ、君を困らせるようなことを言って申しわけない」
また、胸の奥に痛みを感じた。高遠さんに気を遣わせてしまった。
「――すみません……」
再び謝罪する。
そんな私に高遠さんは、「いいから」と優しく返してくれる。
「あんまり謝られるとかえって辛い。でも、ちょっとでも悪いって思ってくれるなら、ひとつだけ、俺のわがままを聞いてもらおうかな?」
「わがまま、ですか……?」
「うん」
高遠さんは頷き、テーブルに置いたままにしていた名刺に手を伸ばしてきた。そして、ジャケットの胸ポケットからボールペンを引っ張り出すと、名刺の裏に何やら書き始めた。
「これ、俺の携帯番号とメールアドレス。良かったら、君の連絡先も教えてくれる?」
わがままとはこういうことか、とようやく気付いた。私は考えるより先に、バッグを漁ってメモ帳とペンケースを取り出した。
高遠さんと同様、メモ用紙に自分の携帯番号とメールアドレスを書いてゆく。そして、書いた一枚を剥ぎ取り、それを高遠さんに渡した。
「――いいの……?」
自分から、教えて、と言ってきたのに驚いている。
「悪いことをしたと思ってますから……」
「いや、冗談のつもりだったんだけど……」
「迷惑ですか?」
「迷惑どころか嬉しいよ。ありがとう」
高遠さんはようやく笑顔を取り戻し、メモを丁寧に畳んでパスケースにしまい込んだ。
「君さえ良ければ、また改めて連絡させてもらうよ。もちろん、嫌だと思ったら着信拒否なりして構わない。さすがにストーカー行為はしないから」
私は肯定も否定も出来なかった。でも、高遠さんの真摯な態度に少しずつ、心が温かくなってきた。何となく、初めて高遠さんの前で笑顔を向けられたような自覚を持った。
それから私は、残ったパフェをゆっくり平らげた。結構なボリュームがあったはずなのに、苦しいとは全く思わなかった。
食べている姿を見られたくなかったのに、結局、高遠さんの注目も浴びることにもなってしまった。
ふと、どうして高遠さんに迷わず自分の番号とアドレスを教えてしまったのか不思議に思えた。自分でもよく分からない。でも、ほんの短い時間の間で、高遠さんという男性に少なからず興味を抱いたのは確かだった。
【Chapter.1-End】
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