小説探偵

夕凪ヨウ

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Case164.罠①

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 煌びやかに輝くシャンデリア。ドレスと燕尾服を纏った多くの男女。聞き慣れない多数の言語。海里は、そんな輝かしい景色を広い部屋の隅から眺めていた。

(どうしてこんなことになったんでしたっけ・・・?)

 2週間前。

「招待状?」
「ああ。」

 龍から渡された招待状には、以下のように書かれてあった。



『初めまして、江本海里様。
 わたくしは呉橋光雄と申します。2週間後、わたくしの屋敷でパーティーを開催しますので、是非お越しください。
                                         
      会場:東京都M区1ー2』



「呉橋って・・・この間、小夜さんが言っていた?」
「うん。俺たちも捜査一課全体で警護課と一緒に警護の仕事が来ているんだ。パーティーの参加自体は自由らしいけど、どうする?」
「招待状を送られた以上、お断りするのも失礼だと思いますから、行きますよ。しかし、どうして私が・・・。」

 そして今に至る。

「呉橋さんに挨拶はしましたけど、私を呼んだ理由はお聞かせ願えませんでした。」
「それもそれで妙な話だが、もう少し愛想のいい顔をしたらどうだ?」
「してるつもりですよ。義父が社長ですからこう言ったものに出席したことはあります。気は進みませんでしたが。」

 龍は屋敷のバルコニーから中を見ていた。門はSPたちや他の捜査一課がおり、会場は2人の部下数人と、反対側のバルコニーに玲央がいる状態だった。

「捜査一課を呼ばれた理由は何なんでしょうね。あれだけSPの方々がいらっしゃるのですから、無理に増やさなくてもいいのでは?」
「俺もそう思うけどな。呉橋議員は何度か襲撃されたことがあるから、用心深いのさ。呉橋議員から見れば、SPだけでは頼りないんだろ。」
「そんなことないと思いますけどね。」

 海里はグラスに注がれた水を飲んだ。

「お前、酒飲まないのか?」
「飲めるんですけど、あまり好きではないんです。東堂さんや玲央さんはよく飲まれます?」
「2日酔にならない程度に飲んでるよ。アサヒは酒好きな上に酔わないから、飲み始めたら止まらないんだ。」
「あー・・・何となく分かります。」

 そんなことを言っていると、誰かが海里に声をかけた。振り向くと、小夜が立っていた。

「小夜さん⁉︎どうしてここに・・・!」
「呼ばれたの。不本意だけどね。」

 小夜は海里の隣に立った。瞳と同じ、青いドレスがふわりと風にたなびく。

「全く・・・嫌になるわ。天宮の名前はどこまでも付き纏う。もう放っておいて欲しいのに。」
「でも、私も呼ばれた理由が分かりませんよ。確かに以前のマスコミ騒ぎから顔が多少は知られたかもしれませんけど、議員に呼ばれるなんて・・・。」
「お互い様ね。」

 2人はグラスを突き合わせた。ボーイが持ってきたお盆にグラスを乗せ、2人は溜息をつく。

「東堂さんも大変ですね。捜査一課の仕事じゃないでしょうに。」
「上司が断らなかったからな。嫌とは言えないし。」
「でも東堂さんも玲央も優秀ですから、上司も信頼しているんでしょう?良いことじゃありませんか。」
「まあ、そうだけど。」

 その時だった。龍は急にハッとし、外を睨んだ。2人は首を傾げる。

「東堂さん?」
「・・・・いや・・何でもない。気のせいだ。」

(何だ・・?今、妙な視線が江本と天宮を見ていた気がする。しかも、俺が振り返ると同時に消えた?それとも神経質になっているだけか?)

「龍。ちょっと。」

 反対側のバルコニーから現れた玲央に手招きされ、龍は部屋の端に移動した。

「何か妙な視線を感じるんだけど、気のせい?」
「兄貴もか?俺もさっき感じたんだよ。江本と天宮に向けられていたような気がする。」
「そうなの?俺は呉橋議員に向けられてるように感じたよ。」

 2人は考え込んだ。玲央によると、他の捜査一課やSPたちからも同じ報告があり、とても偶然だとは思えなかったのだ。

「判断が難しいね。単純に外で警備している視線が鋭かっただけかな。」
「だったら何で招待客の2人を見るんだよ。呉橋だけ見てりゃいいだろ。」
「それもそうか・・・。」

 そんなことを呟いていた、その時だった。広い会場に、突然丸い物が転がって来た。2人はそれに目を止め、驚く。
 そして、2人が何か言おうとした瞬間、丸い物体から煙が発生した。

「うわ⁉︎」

 会場のあちこちで同じことが起こり、警察官たちは一気に視界が悪くなった。

「おい、何なんだ⁉︎」
「何なのよ、これ⁉︎」
「何事だ⁉︎」

 会場が一気に騒がしくなった。2人は煙を手で払いながら、周囲の状況を確認する。
 その時、龍は屋敷の2階にある小さなバルコニーのような休憩スペースに、誰かがいるのを見た。その人物は狙撃銃を構えており、銃口は海里と小夜に向いている。

「江本!天宮!伏せろ‼︎」

 銃声と同時に、2人の横に弾が当たった。

「何事ですか⁉︎東堂さん!」
「分からない!とにかく周囲を警戒しろ!」
「・・・・ねえ・・江本さん。これ何?地鳴り・・・?」

 小夜の言葉に、海里は耳を澄ませた。確かに、屋敷が揺れるような規則性のある音がする。

「違いますね。これは・・・足音・・?」

 海里がそう言った時、会場の扉が乱暴に蹴破られた。そこには、

「西園寺茂⁉︎」

 海里たち4人は同時に叫んだ。口元は隠されているが、体格やアサヒによく似た瞳から彼だと分かる。小夜も知っているのか、驚いていた。

 彼は不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと部屋に足を踏み入れる。

「初めまして。呉橋光雄議員。突然の来訪すまないね。」
「お前は・・・一体・・・・?」
「知る必要はない。お前に用があるわけじゃないからな。」

 呉橋の言葉に茂はそう答えた。彼は海里たちを見て、不敵な笑みを浮かべたまま続ける。

「こちらの罠に嵌ってくれるとはありがたい。」
「罠・・・。あなたたちが、このパーティーを仕組んだと?」
「いや。宴会はあくまで呉橋光雄の発案だ。それをこちらが少しだけ操作し、お前たちを呼んだんだよ。・・・江本海里、天宮小夜、並びに警察諸君。」

 茂が軽く右腕を上げると、規則性のある足音が近くなり、茂の背後で止まった。彼の後ろには、武装した屈強な男たちの姿がある。彼らは身体中に傷があり、日本人でない者もいた。
 海里たちは次々と急転する事態に混乱し、唖然とする。

「この場で全員、死んでくれ。」

 仕組まれた罠。テロリストたちの毒牙が、海里たちを襲う。
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