小説探偵

夕凪ヨウ

文字の大きさ
上 下
132 / 230

Case131.救えなかった君へ①

しおりを挟む
「随分と派手にやったな。」
「正当防衛と言って欲しいね。」

 そう言って笑う玲央の周囲には、襲って来たテロリストたちが倒れていた。ほとんどが気を失っており、苦しそうに呻いている。

「本命は逃してないし、大丈夫だよ。」
「・・・・それがあんたの素顔か。」

 手錠をかけられ、壁に縛られた諒は龍を睨みつけた。変装は既に解いており、海里と同じ歳くらいだろう。端正な顔立ちをしており、長い漆黒の髪が揺れている。

「誰の命令でこんなことをやった?早乙女か?それとも、あんたたちのボスか。」
「・・・・両方だよ。早乙女様がボスから命令を受けて、僕が早乙女様から命令を受けた。任務内容は・・・あんたの殺害。」

 龍は苦笑した。分かりきっていたという顔である。

「汚い手使って人殺しとはご苦労なことだな。あんたたちに殺される気は更々ないが、1つだけ聞いておこうか。」
「何だよ。」
「立原修を殺した理由はなんだ?以前、早乙女が俺たちに言っていた・・・“自分たちは計画のもと、人殺しをしている”、と。その言葉を真実とするなら、天宮の命を狙うのも、立原修の殺害にも何らかの意図がある・・・・違うか?」

 諒は悔しそうに顔を歪めた。どうやら当たっているらしい。彼は少し黙った後、ゆっくりと口を開いた。

「一言で言うなら、邪魔だからさ。ボスの目指す世界の先に、いてはならない存在。天宮小夜も、立原修も条件は同じなんだ。立原修を殺した深い理由は、こっちの人間に手を出したから・・・会社の中に潜り込ませていた僕たちのスパイを、社会的に抹殺してしまった。挙げ句の果てに、こちらの情報を盗んだんだ。」

 玲央は2度3度頷き、口を開いた。

「なるほどね。自分たちの情報が世に出るのは困るから、君は秘書に変装し、会社に潜り込んだ。風子さん・誠也さんと仲良くなって、修さんがろくでなしだと知り、偶然とはいえ殺す理由ができたから・・・殺した。君が何度か家に足を運んだと風子さんが言っていたけれど、それはその機密資料を取り返すためだったってわけか。」

 諒の舌打ちが肯定を表していた。

「少し話しすぎたね。君も今回の事件に関与しているし、一緒に来てもらおうか。」
「馬鹿なことを。僕が真実を話すと思うのか?」
「思ってない。だから、“あんたのパソコンから盗んだ資料”で真実を調べる。」
「はあ・・⁉︎いつのまにそんなこと!」

 龍は何も言わなかった。自分たちの手の内を明かす気はないらしい。

「話は終わりだ。行こう、兄貴。」
「ああ。」
                    
            ※

 事件の始まりは、立原修殺害事件の数日後だった。

「どうも。」
「悪いね、江本君。本業の邪魔しちゃって。」
「いえ。お構いなく。」

 海里は、先日の事件の協力者のため、事後報告として警視庁に来ていた。

「すぐに済むよ。これを・・・」

 3人がそんな話をしている頃、武虎は浩史を呼び出していた。

「最近多いですね。今日はどうされました?また・・答えを聞きに?」
「そう思ってくれて構わないよ。どうしても、納得できないんだ。警察官である君が1人の人間の命を軽んじたことは今までない。それなのに、1人を救うために、1人を犠牲にすると・・・本当にそう言うんだね?」

 浩史は迷いなく頷いた。武虎は目を細める。

「君と長年の付き合いだけど、ここまで理解できないのは初めてかも。」
「そうでしょうね。しかし、勘違いなさらないでください。私は断じて、あなたを嫌っているわけでも、憎んでいるわけでもない。昔と同じように、尊敬していますよ。上司として、同じ父親として。」

 その言葉に武虎は苦笑した。

「はっ・・そこまで言うのに、味方はしてくれないんだ?意地悪だね。」
「もう決めたことですから。」

 浩史がそう言った瞬間、扉をノックする音がした。彼が扉を開けると、小夜が部屋に入ってくる。

「天宮君?どうして・・・・」
「九重さんに呼ばれました。」
「浩史に・・?」

 その時、武虎は浩史が自分のスマートフォンを操作していることに気づいた。刹那、彼は全てを理解し、椅子から立ち上がる。

「浩史!君・・・‼︎なんて事を‼︎」
「無駄を省きたいんです。こうした方が、やりやすいので。」
「天宮君、今すぐ逃げろ!ここは危険だ!」

 小夜も何かを察したのか、怯えた目で浩史を見た。だが、彼は薄く笑い、2人を見て言う。

「もう遅いですよ。この日のために、仕込みは完了しています。」

 浩史はスマートフォンの通話ボタンを押し、一言、こう言った。

「さあ、始めよう。」

 警視庁の入り口付近で爆発音がした。武虎が窓を開けると、マスコミであったはずの人間が、テロリストにすり替わっていた。焼けた扉から一気に中に突撃し、階段を駆け上がっている。

「ここで死者を出すつもりか⁉︎」
「そちらの方が世間に広く伝わるでしょう。警視総監・・退いてください。天宮の命を奪うことが今回の目的ですから。」

 淡々と告げる浩史を、武虎は鋭い目つきで睨みつけた。

「・・・ふざけるな・・そんなこと、絶対にさせない‼︎」
「・・・・そうですか。」

 浩史はゆっくりと拳銃を取り出し、2人に向けた。武虎は舌打ちをしながら銃を取り出し、2人は同時に発砲した。弾丸が壁と窓に当たり、双方にヒビが入る。

「早く逃げて。今、資料室に玲央たちがいる。場所は分かる?」
「ええ。」
「良かった。じゃあ、合図したら扉に向かって走って。テロリストたちも、まだここまでは来ないはずだから。」

 小夜は軽く頷いた。2人はもう1度銃を向け合い、引き金を引くその刹那、

「今だ!」

 弾が宙を舞った時、小夜はドアノブに手をかけ、部屋の外に飛び出した。浩史は真顔で小夜の背中を見送る。

「もう手加減しないよ。」
「その台詞、そっくりそのままお返ししますよ。」
                    
            ※

 資料室では、海里たちも異変を感じ取っていた。

「何だ?さっきのは爆発音・・か?」
「判断がつかないね。ちょっと外見てくるから、江本君はここに・・・・」
「東堂警部!」

 突如飛び込んできた刑事たちに、3人は驚きを隠せなかった。

「どうしたの?」
「武装した奴らが警視庁に突入してきました!今のところ死者はいませんが、武器を持っていることは確かです‼︎」
「何だと?おい、これってまさか。」

 刑事たちが息を整え、3人が神妙な面持ちをした時、武装したテロリストたちが部屋に突入してきた。龍は舌打ちをする。

「やっぱりか。」
「どうしますか?」

 テロリストたちは既に武器を携え、銃口を海里たちに向けていた。玲央は苦い顔のまま口を開く。

「戦うしかない。・・・全員戦闘準備!ただし、発砲はするな!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

推理小説家の今日の献立

東 万里央(あずま まりお)
キャラ文芸
永夢(えむ 24)は子どもっぽいことがコンプレックスの、出版社青雲館の小説編集者二年目。ある日大学時代から三年付き合った恋人・悠人に自然消滅を狙った形で振られてしまう。 その後悠人に新たな恋人ができたと知り、傷付いてバーで慣れない酒を飲んでいたのだが、途中質の悪い男にナンパされ絡まれた。危ういところを助けてくれたのは、なんと偶然同じバーで飲んでいた、担当の小説家・湊(みなと 34)。湊は嘔吐し、足取りの覚束ない永夢を連れ帰り、世話してくれた上にベッドに寝かせてくれた。 翌朝、永夢はいい香りで目が覚める。昨夜のことを思い出し、とんでもないことをしたと青ざめるのだが、香りに誘われそろそろとキッチンに向かう。そこでは湊が手作りの豚汁を温め、炊きたてのご飯をよそっていて? 「ちょうどよかった。朝食です。一度誰かに味見してもらいたかったんです」 ある理由から「普通に美味しいご飯」を作って食べたいイケメン小説家と、私生活ポンコツ女性編集者のほのぼのおうちご飯日記&時々恋愛。 .。*゚+.*.。 献立表 ゚+..。*゚+ 第一話『豚汁』 第二話『小鮎の天ぷらと二種のかき揚げ』 第三話『みんな大好きなお弁当』 第四話『餡かけチャーハンと焼き餃子』 第五話『コンソメ仕立てのロールキャベツ』

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

警狼ゲーム

如月いさみ
ミステリー
東大路将はIT業界に憧れながらも警察官の道へ入ることになり、警察学校へいくことになった。しかし、現在の警察はある組織からの人間に密かに浸食されており、その歯止めとして警察学校でその組織からの人間を更迭するために人狼ゲームを通してその人物を炙り出す計画が持ち上がっており、その実行に巻き込まれる。 警察と組織からの狼とが繰り広げる人狼ゲーム。それに翻弄されながら東大路将は狼を見抜くが……。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...