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Case131.救えなかった君へ①
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「随分と派手にやったな。」
「正当防衛と言って欲しいね。」
そう言って笑う玲央の周囲には、襲って来たテロリストたちが倒れていた。ほとんどが気を失っており、苦しそうに呻いている。
「本命は逃してないし、大丈夫だよ。」
「・・・・それがあんたの素顔か。」
手錠をかけられ、壁に縛られた諒は龍を睨みつけた。変装は既に解いており、海里と同じ歳くらいだろう。端正な顔立ちをしており、長い漆黒の髪が揺れている。
「誰の命令でこんなことをやった?早乙女か?それとも、あんたたちのボスか。」
「・・・・両方だよ。早乙女様がボスから命令を受けて、僕が早乙女様から命令を受けた。任務内容は・・・あんたの殺害。」
龍は苦笑した。分かりきっていたという顔である。
「汚い手使って人殺しとはご苦労なことだな。あんたたちに殺される気は更々ないが、1つだけ聞いておこうか。」
「何だよ。」
「立原修を殺した理由はなんだ?以前、早乙女が俺たちに言っていた・・・“自分たちは計画のもと、人殺しをしている”、と。その言葉を真実とするなら、天宮の命を狙うのも、立原修の殺害にも何らかの意図がある・・・・違うか?」
諒は悔しそうに顔を歪めた。どうやら当たっているらしい。彼は少し黙った後、ゆっくりと口を開いた。
「一言で言うなら、邪魔だからさ。ボスの目指す世界の先に、いてはならない存在。天宮小夜も、立原修も条件は同じなんだ。立原修を殺した深い理由は、こっちの人間に手を出したから・・・会社の中に潜り込ませていた僕たちのスパイを、社会的に抹殺してしまった。挙げ句の果てに、こちらの情報を盗んだんだ。」
玲央は2度3度頷き、口を開いた。
「なるほどね。自分たちの情報が世に出るのは困るから、君は秘書に変装し、会社に潜り込んだ。風子さん・誠也さんと仲良くなって、修さんがろくでなしだと知り、偶然とはいえ殺す理由ができたから・・・殺した。君が何度か家に足を運んだと風子さんが言っていたけれど、それはその機密資料を取り返すためだったってわけか。」
諒の舌打ちが肯定を表していた。
「少し話しすぎたね。君も今回の事件に関与しているし、一緒に来てもらおうか。」
「馬鹿なことを。僕が真実を話すと思うのか?」
「思ってない。だから、“あんたのパソコンから盗んだ資料”で真実を調べる。」
「はあ・・⁉︎いつのまにそんなこと!」
龍は何も言わなかった。自分たちの手の内を明かす気はないらしい。
「話は終わりだ。行こう、兄貴。」
「ああ。」
※
事件の始まりは、立原修殺害事件の数日後だった。
「どうも。」
「悪いね、江本君。本業の邪魔しちゃって。」
「いえ。お構いなく。」
海里は、先日の事件の協力者のため、事後報告として警視庁に来ていた。
「すぐに済むよ。これを・・・」
3人がそんな話をしている頃、武虎は浩史を呼び出していた。
「最近多いですね。今日はどうされました?また・・答えを聞きに?」
「そう思ってくれて構わないよ。どうしても、納得できないんだ。警察官である君が1人の人間の命を軽んじたことは今までない。それなのに、1人を救うために、1人を犠牲にすると・・・本当にそう言うんだね?」
浩史は迷いなく頷いた。武虎は目を細める。
「君と長年の付き合いだけど、ここまで理解できないのは初めてかも。」
「そうでしょうね。しかし、勘違いなさらないでください。私は断じて、あなたを嫌っているわけでも、憎んでいるわけでもない。昔と同じように、尊敬していますよ。上司として、同じ父親として。」
その言葉に武虎は苦笑した。
「はっ・・そこまで言うのに、味方はしてくれないんだ?意地悪だね。」
「もう決めたことですから。」
浩史がそう言った瞬間、扉をノックする音がした。彼が扉を開けると、小夜が部屋に入ってくる。
「天宮君?どうして・・・・」
「九重さんに呼ばれました。」
「浩史に・・?」
その時、武虎は浩史が自分のスマートフォンを操作していることに気づいた。刹那、彼は全てを理解し、椅子から立ち上がる。
「浩史!君・・・‼︎なんて事を‼︎」
「無駄を省きたいんです。こうした方が、やりやすいので。」
「天宮君、今すぐ逃げろ!ここは危険だ!」
小夜も何かを察したのか、怯えた目で浩史を見た。だが、彼は薄く笑い、2人を見て言う。
「もう遅いですよ。この日のために、仕込みは完了しています。」
浩史はスマートフォンの通話ボタンを押し、一言、こう言った。
「さあ、始めよう。」
警視庁の入り口付近で爆発音がした。武虎が窓を開けると、マスコミであったはずの人間が、テロリストにすり替わっていた。焼けた扉から一気に中に突撃し、階段を駆け上がっている。
「ここで死者を出すつもりか⁉︎」
「そちらの方が世間に広く伝わるでしょう。警視総監・・退いてください。天宮の命を奪うことが今回の目的ですから。」
淡々と告げる浩史を、武虎は鋭い目つきで睨みつけた。
「・・・ふざけるな・・そんなこと、絶対にさせない‼︎」
「・・・・そうですか。」
浩史はゆっくりと拳銃を取り出し、2人に向けた。武虎は舌打ちをしながら銃を取り出し、2人は同時に発砲した。弾丸が壁と窓に当たり、双方にヒビが入る。
「早く逃げて。今、資料室に玲央たちがいる。場所は分かる?」
「ええ。」
「良かった。じゃあ、合図したら扉に向かって走って。テロリストたちも、まだここまでは来ないはずだから。」
小夜は軽く頷いた。2人はもう1度銃を向け合い、引き金を引くその刹那、
「今だ!」
弾が宙を舞った時、小夜はドアノブに手をかけ、部屋の外に飛び出した。浩史は真顔で小夜の背中を見送る。
「もう手加減しないよ。」
「その台詞、そっくりそのままお返ししますよ。」
※
資料室では、海里たちも異変を感じ取っていた。
「何だ?さっきのは爆発音・・か?」
「判断がつかないね。ちょっと外見てくるから、江本君はここに・・・・」
「東堂警部!」
突如飛び込んできた刑事たちに、3人は驚きを隠せなかった。
「どうしたの?」
「武装した奴らが警視庁に突入してきました!今のところ死者はいませんが、武器を持っていることは確かです‼︎」
「何だと?おい、これってまさか。」
刑事たちが息を整え、3人が神妙な面持ちをした時、武装したテロリストたちが部屋に突入してきた。龍は舌打ちをする。
「やっぱりか。」
「どうしますか?」
テロリストたちは既に武器を携え、銃口を海里たちに向けていた。玲央は苦い顔のまま口を開く。
「戦うしかない。・・・全員戦闘準備!ただし、発砲はするな!」
「正当防衛と言って欲しいね。」
そう言って笑う玲央の周囲には、襲って来たテロリストたちが倒れていた。ほとんどが気を失っており、苦しそうに呻いている。
「本命は逃してないし、大丈夫だよ。」
「・・・・それがあんたの素顔か。」
手錠をかけられ、壁に縛られた諒は龍を睨みつけた。変装は既に解いており、海里と同じ歳くらいだろう。端正な顔立ちをしており、長い漆黒の髪が揺れている。
「誰の命令でこんなことをやった?早乙女か?それとも、あんたたちのボスか。」
「・・・・両方だよ。早乙女様がボスから命令を受けて、僕が早乙女様から命令を受けた。任務内容は・・・あんたの殺害。」
龍は苦笑した。分かりきっていたという顔である。
「汚い手使って人殺しとはご苦労なことだな。あんたたちに殺される気は更々ないが、1つだけ聞いておこうか。」
「何だよ。」
「立原修を殺した理由はなんだ?以前、早乙女が俺たちに言っていた・・・“自分たちは計画のもと、人殺しをしている”、と。その言葉を真実とするなら、天宮の命を狙うのも、立原修の殺害にも何らかの意図がある・・・・違うか?」
諒は悔しそうに顔を歪めた。どうやら当たっているらしい。彼は少し黙った後、ゆっくりと口を開いた。
「一言で言うなら、邪魔だからさ。ボスの目指す世界の先に、いてはならない存在。天宮小夜も、立原修も条件は同じなんだ。立原修を殺した深い理由は、こっちの人間に手を出したから・・・会社の中に潜り込ませていた僕たちのスパイを、社会的に抹殺してしまった。挙げ句の果てに、こちらの情報を盗んだんだ。」
玲央は2度3度頷き、口を開いた。
「なるほどね。自分たちの情報が世に出るのは困るから、君は秘書に変装し、会社に潜り込んだ。風子さん・誠也さんと仲良くなって、修さんがろくでなしだと知り、偶然とはいえ殺す理由ができたから・・・殺した。君が何度か家に足を運んだと風子さんが言っていたけれど、それはその機密資料を取り返すためだったってわけか。」
諒の舌打ちが肯定を表していた。
「少し話しすぎたね。君も今回の事件に関与しているし、一緒に来てもらおうか。」
「馬鹿なことを。僕が真実を話すと思うのか?」
「思ってない。だから、“あんたのパソコンから盗んだ資料”で真実を調べる。」
「はあ・・⁉︎いつのまにそんなこと!」
龍は何も言わなかった。自分たちの手の内を明かす気はないらしい。
「話は終わりだ。行こう、兄貴。」
「ああ。」
※
事件の始まりは、立原修殺害事件の数日後だった。
「どうも。」
「悪いね、江本君。本業の邪魔しちゃって。」
「いえ。お構いなく。」
海里は、先日の事件の協力者のため、事後報告として警視庁に来ていた。
「すぐに済むよ。これを・・・」
3人がそんな話をしている頃、武虎は浩史を呼び出していた。
「最近多いですね。今日はどうされました?また・・答えを聞きに?」
「そう思ってくれて構わないよ。どうしても、納得できないんだ。警察官である君が1人の人間の命を軽んじたことは今までない。それなのに、1人を救うために、1人を犠牲にすると・・・本当にそう言うんだね?」
浩史は迷いなく頷いた。武虎は目を細める。
「君と長年の付き合いだけど、ここまで理解できないのは初めてかも。」
「そうでしょうね。しかし、勘違いなさらないでください。私は断じて、あなたを嫌っているわけでも、憎んでいるわけでもない。昔と同じように、尊敬していますよ。上司として、同じ父親として。」
その言葉に武虎は苦笑した。
「はっ・・そこまで言うのに、味方はしてくれないんだ?意地悪だね。」
「もう決めたことですから。」
浩史がそう言った瞬間、扉をノックする音がした。彼が扉を開けると、小夜が部屋に入ってくる。
「天宮君?どうして・・・・」
「九重さんに呼ばれました。」
「浩史に・・?」
その時、武虎は浩史が自分のスマートフォンを操作していることに気づいた。刹那、彼は全てを理解し、椅子から立ち上がる。
「浩史!君・・・‼︎なんて事を‼︎」
「無駄を省きたいんです。こうした方が、やりやすいので。」
「天宮君、今すぐ逃げろ!ここは危険だ!」
小夜も何かを察したのか、怯えた目で浩史を見た。だが、彼は薄く笑い、2人を見て言う。
「もう遅いですよ。この日のために、仕込みは完了しています。」
浩史はスマートフォンの通話ボタンを押し、一言、こう言った。
「さあ、始めよう。」
警視庁の入り口付近で爆発音がした。武虎が窓を開けると、マスコミであったはずの人間が、テロリストにすり替わっていた。焼けた扉から一気に中に突撃し、階段を駆け上がっている。
「ここで死者を出すつもりか⁉︎」
「そちらの方が世間に広く伝わるでしょう。警視総監・・退いてください。天宮の命を奪うことが今回の目的ですから。」
淡々と告げる浩史を、武虎は鋭い目つきで睨みつけた。
「・・・ふざけるな・・そんなこと、絶対にさせない‼︎」
「・・・・そうですか。」
浩史はゆっくりと拳銃を取り出し、2人に向けた。武虎は舌打ちをしながら銃を取り出し、2人は同時に発砲した。弾丸が壁と窓に当たり、双方にヒビが入る。
「早く逃げて。今、資料室に玲央たちがいる。場所は分かる?」
「ええ。」
「良かった。じゃあ、合図したら扉に向かって走って。テロリストたちも、まだここまでは来ないはずだから。」
小夜は軽く頷いた。2人はもう1度銃を向け合い、引き金を引くその刹那、
「今だ!」
弾が宙を舞った時、小夜はドアノブに手をかけ、部屋の外に飛び出した。浩史は真顔で小夜の背中を見送る。
「もう手加減しないよ。」
「その台詞、そっくりそのままお返ししますよ。」
※
資料室では、海里たちも異変を感じ取っていた。
「何だ?さっきのは爆発音・・か?」
「判断がつかないね。ちょっと外見てくるから、江本君はここに・・・・」
「東堂警部!」
突如飛び込んできた刑事たちに、3人は驚きを隠せなかった。
「どうしたの?」
「武装した奴らが警視庁に突入してきました!今のところ死者はいませんが、武器を持っていることは確かです‼︎」
「何だと?おい、これってまさか。」
刑事たちが息を整え、3人が神妙な面持ちをした時、武装したテロリストたちが部屋に突入してきた。龍は舌打ちをする。
「やっぱりか。」
「どうしますか?」
テロリストたちは既に武器を携え、銃口を海里たちに向けていた。玲央は苦い顔のまま口を開く。
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