小説探偵

夕凪ヨウ

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Case121.悪の巣窟③

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「また怪我を増やして・・・学校に来るのはよしたほうがいいんじゃないですか?天宮先生。」

 小夜を含める教師の手当をするのは、擁護経論の國村愛羅だった。歳は小夜と同じくらいで、どうも仲が良いらしい。

「仕事ですから。それに・・・解決するって信じてるんです。」
「あら、さっきの警察の方々ですか?」
「はい。頼りになる人たちですよ。だから、きっと大丈夫。」

 國村は呆れたように首を振った。小夜の腕に包帯を巻きながら、左腕についた古傷に目を細める。

「私は心配ですよ、天宮先生。あなたは無茶をしすぎる・・・その左腕の傷も、今日と同じく散乱したガラスから生徒を庇ったものでしょう?」
「全部大した傷じゃありませんもの。問題ありません。」

 小夜はそう言いながら立ち上がり、礼を言って保健室から出た。会議室に行くと、玲央は心配そうに小夜を見た。

「まだ無茶しない方が。」
「大丈夫よ。私の怪我はいいから、これからどうするの?」

 玲央は考え込んだ。龍が口を開く。

「取り敢えず、今回の事件と別件で調査する。と言っても依頼された話じゃないからな。学校を辞めた教師の線を辿って、情報収集の最中だ。」
「なるほど・・・私も少し調べてみます。」

 海里は難しい顔をしていた。小夜は苦笑し、海里の隣に腰掛ける。

「そんな顔をしないでください。私から話さなかったことも間違っていたんですから。」
「・・・違うでしょう。あなただって、分かっているはずです。生徒も、それを止めない教師も、何もかもが悪いと。」
「ええ。ですから、私は自分にも責任の一端があると思っていますよ。」

 小夜はさらりと言ってのけた。海里は苦しそうに俯く。

「とにかく、私は生徒たちのいたずらに関しては割とどうでもいいんです。だって、もうすぐ全て明らかになるんですから。」
「えっ?」

 3人は同時に声を上げ、小夜を見た。彼女は薄い笑みを浮かべている。

「それで、玲央。小鳥遊さんの鞄見つかった?」
「いや、まだ。でも今天井とか壁を調査してるから、そのうち見つかると思うよ。」
「そう。」

 海里は息を吐き、意を決したように立ち上がった。小夜はその様子を見て笑う。

「覚悟は決まりましたか?」
「ええ。もう1度遺体発見現場に行きましょう。何か分かるかもしれません。」

 現場に到着した海里は、龍にゴム手袋を借り、校舎の脇にある植え込みを探り始めた。3人は不思議に思いながらも同じことをやり始めた。

「ん?何か・・枝に引っかかっています。」
「それって・・・髪ゴム?」

 玲央の問いに海里は頷いた。どこにでもある、黒い髪ゴムだ。だが、横からそれを見た龍は眉を潜めた。

「その染み、血痕か?」
「恐らく・・・。乾いたばかりのようですし。被害者の持ち物・・・・?」
「ではないわね。小鳥遊さんはショートヘアで、ヘアピンしかしてなかった。ゴムを持ち歩く理由はないわ。」
「となると・・・犯人の持ち物である可能性が出てきます。鑑識に回せますか?」
「できるよ。部下に届けてもらおうか。」

 玲央は髪ゴムを受け取り、校舎の中に戻って行った。しばらくして玲央が戻ってくると、彼はアサヒから電話がかかって来たと話し、その内容を話した。

「被害者の手の中から長い髪の毛と、皮膚片が見つかった?つまり、犯人の髪を掴んで、犯人は怪我をしてるかもしれないってことか?」
「ああ。ゴムに付いていた血は・・・被害者か犯人か、どちらかのものだろうね。」

 海里は顎に手を当て、天を仰いだ。

「怪我をしているとすると、小鳥遊さんは頭の傷では亡くなってなかったかもしれませんね。頭を殴られ、犯人の顔を見て、髪を掴んで傷を負わせた・・・ただ頭の傷を負っていた小鳥遊さんの方が動きが鈍く、殺されてしまった。」
「怪我をして自分の血液、あるいは被害者の血が飛んだことに気づいた犯人は、咄嗟に髪ゴムを植え込みに捨てた。」

 海里の後を継いだ小夜の言葉に3人は頷いた。玲央は頭を掻く。

「あのゴムには犯人の指紋が付いている。仕方ないけど、生徒・教員全員の指紋採取をするしかないかもね。」
「男子生徒・教師もですか?」
「うん。生徒の顔と名前を一致させるために提供された写真には、髪が長い男子生徒もいたし、さっき職員室に入った時に長髪の男性教師もいた。疑う余地は十分にある。」
「なるほど。じゃあ、私の指紋も採取して。私だけ免除されるのは逆に疑いを生むわ。」
「分かった。始めよう。」
                    
            ※

「全員の指紋採取⁉︎」
「はい。」
「そんな・・・!生徒たちに真実を話すのですか⁉︎」

 愕然とする不和に玲央は冷静に答えた。

「こうなった以上仕方ありません。小学校~高校まで、全生徒・教師の指紋採取を行います。聞き取り調査ではきっかけになるような情報はありませんでしたから。」

 大掛かりな検証だった。合計48クラスの生徒たちと、全教師たち。龍と玲央は捜査一課を動員して指紋採取を行わせた。

「いつ終わる?」
「今日中には無理。明日の午前中には終わるから、一旦今日は引いたら?」
「そうするつもりだ。悪いが頼む。」
「はいはい。」

 翌日、海里たちは警視庁にいるアサヒの元に行った。彼女は皮膚片の血液型をB型と伝え、指紋の結果も出たと言った。

「誰だ?」
「この人。」

 画面を見た海里たちは、一瞬顔色を変えた。だが、すぐに納得したように頷いた。

「そういえばこの人、おかしいと思っていたんだ。どうして髪を下ろしているだろうって。」
「そうですね。髪を括らなければならないんですよ。自分の趣向とは関係なく。この人は、そういう立場にいるんですから。」

 学園に到着した海里たちは、大まかな真相を小夜に告げた。彼女は酷く驚いていたが、すぐに根拠に気付いたらしく、悲しそうな顔を浮かべた。

「なるほど・・・確かに辻褄は合うわ。呼んできた方がいい?」
「お願いします。幸い生徒は昼休憩ですし。」

 会議室に戻って来た小夜の側には、彼女がいた。

「どうも。國村さん。」
「こんにちは。突然お呼び出しと聞いて驚きました。何か御用ですか?」
「・・・・ご自分が1番分かっておられるでしょう。」

 國村は少し黙ると、笑みを浮かべた。何のことか分からないという風に首を傾げる。海里は軽く溜息をつき、言った。

「小鳥遊蕾さんを殺したのはあなたですね?養護教諭・國村愛羅さん。」
「ご冗談を。」

 彼女は一切表情を変えなかった。海里は思わず息を呑む。

「彼女は大切な生徒です。私は生徒の怪我を治す立場ですよ?そんな私が殺人だなんて・・証拠はございますの?」
「あるからお呼びしました。」

 澱みのない海里の言葉に、國村はふふっと笑った。恐怖や戸惑いなどは全く感じず、聞いているこちらが不安になるような態度である。

「あら、面白い。ではその証拠とやら、教えてくださいます?探偵さん。」
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