小説探偵

夕凪ヨウ

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Case106.仮想世界の頭脳対決②

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「説明するだけして消えるなんて・・・全部俺たち任せってことか。」
「迷惑な犯人ねえ。でも、私たちが招かれたってことは、警察狙いの事件の因縁?」
「さあな。恨みなんてあちこちで買うだろ。ただ江本が招かれた側である以上、探偵を始めてからってことになるから、随分最近だけどな。」

 海里は3人の言葉を聞きながら、考え事をしていた。先ほど、男が言った“5人”、“1人足りない”という言葉。犯人は、もう1人招く客を用意していたということになる。

「どちらだと思いますか?」
「え?」
「犯人が言った“5人目”。私たち4人がいる以上、九重さんか、小夜さんだと思うのですが・・・・」
「どっちでもありうる話だが・・・警察に関係している可能性が高いから、九重警視長じゃないのか?確証はないが。」
「・・・そう、ですね。」

 海里はどこか納得が行かないようだったが、周囲の人間が自分たちを見ていることに気がつき、思考を止めた。

「あ・・あなた方はあの男について何かご存知なんですか?」
「生憎知りません。ですが、警察官としてやれるだけのことは、やります。」

 龍の言葉に、玲央とアサヒも頷いた。同時に部屋にある全ての明かりが灯り、ようやく周りが見えてきた。

「入口、あれね。まるで洞窟みたい。」
「ここでたむろしていても時間が無くなる。取り敢えず進もう。俺と江本君が前を行くから、間に他の人を挟んで、後ろに龍とアサヒがついてくれ。」
「分かったわ。」
                    
            ※

『おかけになった電話は、電波の届かない場所にいらっしゃるか・・・・』

 武虎は軽く舌打ちをした。深い溜息をつき、椅子に体を沈める。彼の前には浩史がいた。

「ダメだ。休みの日に携帯持ってないわけがないし、電源を切らしているとも考えにくい。」
「となるとやはり、昨日のメールですか。」
「ああ。」

 少し苛つきながら、武虎は自分のパソコンを見せた。そこには、“天宮小夜様”と書き出された、海里たちと同じメールがあった。

「しかしなぜ天宮宛のメールが東堂警視総監の所に?」
「うん。俺も不思議だったんだけど、俺のパソコンには残りの4人もメールも来ていた。つまり、犯人は個人個人と俺1人にわざわざ送って来たってこと。」
「警察側に自分の存在を知らしめている・・・ということですか。面倒な犯人ですね。」
「全くだよ。それにしても・・・・3人全員いないのは困るな。通報された事件に刑事たちが出てくれたけど、新人が多いし心配だ。」

 武虎は深い溜息をついた。浩史も考え込んでいる。

「しかしどうしますか?場所は分かっているから出動できますが、巻き込まれない可能性はゼロではありません。」
「そうだね。それに玲央たちは個人で指定された場所に行ったから、何の通報もなく応援を出動させるのは難しいんだ。ただ何も動かないままで命に関わることが起きても困るだろう?だから、警察じゃない人間を呼ぶ。」
「は?」
「携帯貸してくれない?」

 浩史はハッとし、眉を顰めた。

「・・・・待ってください。それは・・・」
「分かってるよ。非常識だし、無茶苦茶だってこと。でも、俺たちはもう最前線で動けない。だったら、その役割を持っている人間に頼むしかないのさ。運の良いことに、招待された5人目は彼女だしね。」

 浩史はしばらく躊躇ったが、根負けし、スマートフォンを渡した。武虎は小夜の電話番号を押し、電話をかける。

『九重さん?申し訳ないけど、今仕事中・・・・』
「急ぎ片付けたい事件がある。天宮君、警視庁に来てくれないかな?」
『・・・・私はあなたの部下じゃない。勝手な理由で呼び出さないで。』

 明らかに苛ついた口調だった。武虎は冷静に頷く。

「そうだね。でも、今回の件で君に話さなきゃいけないこともあるし、何より一般人が巻き込まれている可能性が高い。」
『私は警察じゃないし、探偵でもない。関わる理由がどこにあるの?』

 小夜の言葉は正しかった。だが、武虎は引かない。

「君が事件に関わりたくないことはよく知ってるよ。でも、力を貸してくれないかな?」
『それは・・・何?一警察官としての言葉?それとも、父親としての言葉?』
「両方。」

 迷いなくそう答えた武虎に、浩史も驚いていた。彼は、どちらの役割もこなしているのだ。

『・・・本当、親子ね。嫌になるわ。』
「褒め言葉と受け取っておくよ。」
『1時間待って。何とか話を通してくるから。』
「ありがとう。」
                     
            ※

「暗闇ばかりですね。トラップもまだ見当たらない。」
「ああ。ん?分かれ道だ・・・・」

 海里たちの前には、二手に分かれる道があった。どちらが正解なのだろうが、仮想世界では容易に作り替えられるだろう。

「どうしましょうか?」
「うーん・・・どちらの道も違いがないからなあ。」

 そう言いながら、玲央は胸ポケットを探り始めた。すると、中からライターと煙草が出てきた。

「なるほど。警察手帳や拳銃、手錠はないけど、それ以外で普段持ち歩いているものはあるってことか。以外に便利だね。」
「なぜそんなものを?」
「ちょっと・・・ね。試したいことがあるんだ。」

 玲央はその言葉と同時に、片方の道にライターを、もう片方の道に煙草を投げた。すると、警報のような音が鳴り響き、赤外線センサーが現れた。そして、爆発。

「こりゃ面倒だな。両方の道に行ってもこのままじゃ全滅だ。」
「しかしゲームオーバーしても現実世界に戻るとは言っていましたよね。」
「本当か分からないよ?犯人の言葉なんて簡単に信用できない。」

 玲央はちらりと背後を見た。深い溜息が海里の耳に届く。

「私を便利屋か何かだと思ってるならぶっ飛ばすわよ。」
「まさか。何とかなりそう?」

 アサヒは欠伸をしながら道に近づいた。双方の道を見て、間にある壁を見る。

「無理ね。これ、解除できないよう作られてる。第一、犯人も私を読んだ時点でこの仕掛けを解除できる可能性を見出していたでしょ。」
「じゃあどうやって通るんですか?壁を壊すとか?」
「そんな面倒なことやってらんないわ。答えは簡単、この壁を通ればいいのよ。」

 アサヒは目の前の壁を指し示した。全員が意味が分からないとばかりに首を傾げる。

「さっきの赤外線センサーにヒントがあった。少し見えただけだけどね。」
「ヒント?」
「ええ。数字が浮かび上がっていたわ。多分、それが答え。」
「答えって・・・。」
「取り敢えずもう1回投げて。私、長時間頭働かすの嫌いなのよ。」

 玲央はアサヒに言われた通り、煙草を投げた。すると、

「23ね。」

言葉通り、数字が表れていた。アサヒは壁に近づき、壁をノックし続ける。

「あった。壁って中身が詰まってるかどうかだから、分かりやすいのよね。ほら、暗証番号。」

 アサヒは手早く暗証番号を入力した。すると、大きく壁が動き、地下へ続く階段が現れた。全員が唖然とし、階段を見る。

「多分、この先が本当の地獄。こんな生易しいトラップはないでしょうね。」
「怖いこと言うなよ。」

 呆れた龍にアサヒはすかさず言った。

「事実でしょ?とにかく、勝手に最前線で死なないでね。あなたたちの代わりに誘導なんて嫌だから。」

 気怠げな態度と裏腹に、どこか心配する口調が感じられた。
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