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Case99.闇夜のダンスパーティー④
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重苦しい柱時計の音がして、海里は目を覚ました。隣を見ると、玲央は既に起きているらしい。気怠げな体を起こして、海里は着替えた。
「早いですね、玲央さん。」
「眠れなかっただけだよ。まだ6時半だ。それにしても・・・」
玲央は自分の着ている服に視線を落とした。
「服まで新調してくれるとは、優しいんだか何なんだか・・・・」
「取り敢えず健康的な生活を送って欲しいということでしょう。自分が殺す時以外、勝手に死ぬなーーーーと。」
「・・・・はっ・・・復讐だなんて言っても、所詮は殺人犯。人を支配して楽しんでいるだけってことだね。」
玲央の皮肉に、海里は苦笑した。すると、扉をノックする音がし、2人のメイドが入って来た。
「朝食をお持ちしました。食事が終わりましたら、このベルでお呼びください。」
そう言いながら、2人のメイドは机に朝食とベルを置いた。
「昨日と違う方ですね。この館に呼ばれた人間には、全員あなた方や黒服の方がいらっしゃるのですか?」
「・・・お2人だけど聞いております。では。」
メイドたちが出て行くと、2人は取り敢えず椅子に腰掛け、朝食を取ることにした。
「毒は入ってないように見えますね。」
「まあ仮にも俺たちに謎を解くよう依頼して来たわけだし、何かない限り殺す気はないように思える。けど、警戒は必要だ。」
玲央は一口スープを飲んだ。考え込むように首を傾げ、スプーンを置く。
「問題なさそうだ。やっぱり俺たちを殺す気はないんだろうね。」
「そうですか。では、遠慮なく。」
海里はスープを飲み、サラダを食べ、パンをちぎった。紅茶を啜りながら、海里は言う。
「今日も、4人殺すと言っていましたね。殺人を未然に防ぐことはできるのでしょうか?」
海里の質問に玲央は暗い顔をした。
「正直・・・難しいかもね。ダンス中は体が自由に動かないし、ダンス中だけに殺人が起こる確信もない。加えて、部屋を出るのも自由じゃないんだ。誰がどの部屋にいるのかも分かっていないし、難しい調査であることは確かだよ。」
「やはり・・そうですよね。麻生さんは私たちに“10年前の謎を解け”と言った。しかし実際のところ、解いたところで彼が殺しを止めるのかは分からない。」
「ああ。だからこそ、外部・・警視庁の力が欲しいんだけどなあ。」
朝食を食べる2人の顔色は、決していいとは言えなかった。先々の不安と、焦燥が、自分たちを追い立てている気がした。
※
数時間後、警視庁資料室。
「時間通りに来たね。龍。」
椅子に座っていたのは、玲央によく似た、柔らかい物腰の男だった。制服をきっちりと身につけ、短い黒髪は整えられ、胡散臭い笑みを浮かべている。
この男こそ、警視総監であり、龍と玲央の父親・東堂武虎であった。
「あんたが昔から時間にうるさいからだろ。」
「ふふ・・・社会人の常識だよ。」
龍は手前の椅子に腰掛けた。武虎は息を吐き、龍に尋ねる。
「それで?10年前の事件の何が知りたいのかな?」
「麻生義彦・麻生杏に疑惑をかけた理由が知りたい。2人がなぜ逃げたのかも。」
「なるほど。」
武虎は立ち上がり、側の棚から資料を抜き取った。彼はパラパラとめくりながら、途中のページで手を止める。
「これは当時の警部が書いた報告書だ。取り敢えず目を通して、感想を聞かせて欲しい。」
龍は首を傾げながら、武虎が差し出した資料に目を通した。数分後、龍は信じられないという顔を上げた。
「おい・・何だよ、これ・・・物的証拠も、根拠も何もない・・・・。こんな物が、なぜ報告書として成り立つ?」
「生憎、目を通したのは俺じゃないからね。当時の警視総監・・磯山信茂だ。彼の愚行は、君も聞いたことがあるんじゃないの?」
「ある。だが、あんたほどのやつがこの報告書の存在を知らないはずがない。」
「褒めてくれるの?嬉しいなあ。」
武虎は笑った。龍は眉を顰める。
「からかうな。なぜこれを放置した?」
「今さっきヒントを出しただろう?磯山警視総監からの指示だよ。逆らっても良かったけど、君たちや他の部下の出世の邪魔になりそうだったから。」
その言葉に龍はあからさまに顔を顰めた。
「・・・急に父親ぶるなよ。俺が聞きたいのは言い訳じゃない。」
「だろうね。」
武虎は苦笑した。龍がそう言うことを、分かっていたかのようだった。
「君が情報を求めていることは分かったけど、報告書はこのザマだし、俺がこの件に手を出すことはできない。解決は君たちに託す。だから少しでも力になれるよう、玲央と噂の探偵の居場所を絞ってみた。」
そう言いながら、武虎は数枚の資料を手渡した。そこには、現在使われていない麻生家が所有していた屋敷がピックアップされていた。
「恐らくその中のどこかだよ。謎を解くのは彼らに任せて、君は救出を急げ。玲央と君たちが買うほどの探偵なら、外部の協力無しでも解決できるはずだ。」
「助かる。」
龍は席を立ち、ドアノブに手をかけた。出て行こうとした龍に、武虎は言う。
「今度噂の“探偵”に話をつけてくれないか?君たちが評価する人間、是非会ってみたい。」
「本人が了承したらな。」
※
「鉄線の外側にガーゼ?」
「うん。昨日俺たちの体に巻きついたのは鉄線だ。普通なら体に痕がついたり、酷い場合は切れて怪我をしたりする。でも、昨日入浴中に体を見たけど、それらしき怪我は無かった。で、よく思い出してみたら、鉄線の周囲に白い布が巻いてあったのを思い出した。恐らくガーゼか何かだと思う。」
「そういえば、白い物体が見えた気がします。」
海里は天井を仰ぎ、昨夜のことを思い出しながら言った。
「だろ?」
「つまり、鉄線によって私たちを殺す気はない。あくまで自分たちで・・・と。」
「ああ。加えて、もう1つ。」
「ガーゼの結び方、ですね?」
海里の質問に、玲央は頷いた。彼が黙ったので、海里は言葉を引き継ぐ。
「私たちを拘束した鉄線は、長い準備期間を経て仕組まれたもの。ホログラフの件も考えると、機械類の扱いに長けていることは明白です。それなのに、あのガーゼの結び方は人為的・・・簡単に言えば雑でした。とても機械にさせたとは思えない・・・・まるで、“急いでいた”かのような。」
「でも・・・なぜ?俺たちを計画的に拐ったことは間違いない。それなのに、そんなくだらないことで準備不足なんておかしい。」
「何か、予想外のことが起こったのではないですか?何かは分かりませんけど。」
玲央は腕を組んだ。ホールのことを思い出しているらしいが、ピンと来ないらしい。
「その“予想外”が分かれば、真相に近づく気がするんだけど・・・」
「ええ。10年前のことですから、話を聞けない分、小さな事でも深く考えとおかないと。」
2人が話し合っていると、黒服の男が入って来た。すると、玲央は彼らを見るなり、椅子を倒す勢いで立ち上がった。
「な・・何か?」
「君たち・・・“昨日会場にいた”よね。」
海里は驚きを隠せなかった。男たちは顔を逸らし、何も言わない。玲央は2人に詰め寄る。
「君たちは麻生義彦に協力しているのか?騙されているのは、俺たち2人だけなのか?」
「私たちも、分からない。ここに来るよう、指示された。ただあの男は・・・」
男が何かを言おうとした瞬間、突如2人が倒れた。海里と玲央が起こそうとしたが、2人は同時に血を吐いた。海里はギョッとし、倒れた体を支えながら叫ぶ。
「しっかりしてください!何を言おうとしたんですか⁉︎教えてください‼︎」
返事はなかった。再び呼びかけようとしたが、玲央が静かに止める。
「もう亡くなってる・・・。昨日と同じ毒殺だよ。」
海里は歯軋りをした。事件解決に繋がるはずの何かを聞き逃したことが、事件の複雑さを物語っているように感じた。
「早いですね、玲央さん。」
「眠れなかっただけだよ。まだ6時半だ。それにしても・・・」
玲央は自分の着ている服に視線を落とした。
「服まで新調してくれるとは、優しいんだか何なんだか・・・・」
「取り敢えず健康的な生活を送って欲しいということでしょう。自分が殺す時以外、勝手に死ぬなーーーーと。」
「・・・・はっ・・・復讐だなんて言っても、所詮は殺人犯。人を支配して楽しんでいるだけってことだね。」
玲央の皮肉に、海里は苦笑した。すると、扉をノックする音がし、2人のメイドが入って来た。
「朝食をお持ちしました。食事が終わりましたら、このベルでお呼びください。」
そう言いながら、2人のメイドは机に朝食とベルを置いた。
「昨日と違う方ですね。この館に呼ばれた人間には、全員あなた方や黒服の方がいらっしゃるのですか?」
「・・・お2人だけど聞いております。では。」
メイドたちが出て行くと、2人は取り敢えず椅子に腰掛け、朝食を取ることにした。
「毒は入ってないように見えますね。」
「まあ仮にも俺たちに謎を解くよう依頼して来たわけだし、何かない限り殺す気はないように思える。けど、警戒は必要だ。」
玲央は一口スープを飲んだ。考え込むように首を傾げ、スプーンを置く。
「問題なさそうだ。やっぱり俺たちを殺す気はないんだろうね。」
「そうですか。では、遠慮なく。」
海里はスープを飲み、サラダを食べ、パンをちぎった。紅茶を啜りながら、海里は言う。
「今日も、4人殺すと言っていましたね。殺人を未然に防ぐことはできるのでしょうか?」
海里の質問に玲央は暗い顔をした。
「正直・・・難しいかもね。ダンス中は体が自由に動かないし、ダンス中だけに殺人が起こる確信もない。加えて、部屋を出るのも自由じゃないんだ。誰がどの部屋にいるのかも分かっていないし、難しい調査であることは確かだよ。」
「やはり・・そうですよね。麻生さんは私たちに“10年前の謎を解け”と言った。しかし実際のところ、解いたところで彼が殺しを止めるのかは分からない。」
「ああ。だからこそ、外部・・警視庁の力が欲しいんだけどなあ。」
朝食を食べる2人の顔色は、決していいとは言えなかった。先々の不安と、焦燥が、自分たちを追い立てている気がした。
※
数時間後、警視庁資料室。
「時間通りに来たね。龍。」
椅子に座っていたのは、玲央によく似た、柔らかい物腰の男だった。制服をきっちりと身につけ、短い黒髪は整えられ、胡散臭い笑みを浮かべている。
この男こそ、警視総監であり、龍と玲央の父親・東堂武虎であった。
「あんたが昔から時間にうるさいからだろ。」
「ふふ・・・社会人の常識だよ。」
龍は手前の椅子に腰掛けた。武虎は息を吐き、龍に尋ねる。
「それで?10年前の事件の何が知りたいのかな?」
「麻生義彦・麻生杏に疑惑をかけた理由が知りたい。2人がなぜ逃げたのかも。」
「なるほど。」
武虎は立ち上がり、側の棚から資料を抜き取った。彼はパラパラとめくりながら、途中のページで手を止める。
「これは当時の警部が書いた報告書だ。取り敢えず目を通して、感想を聞かせて欲しい。」
龍は首を傾げながら、武虎が差し出した資料に目を通した。数分後、龍は信じられないという顔を上げた。
「おい・・何だよ、これ・・・物的証拠も、根拠も何もない・・・・。こんな物が、なぜ報告書として成り立つ?」
「生憎、目を通したのは俺じゃないからね。当時の警視総監・・磯山信茂だ。彼の愚行は、君も聞いたことがあるんじゃないの?」
「ある。だが、あんたほどのやつがこの報告書の存在を知らないはずがない。」
「褒めてくれるの?嬉しいなあ。」
武虎は笑った。龍は眉を顰める。
「からかうな。なぜこれを放置した?」
「今さっきヒントを出しただろう?磯山警視総監からの指示だよ。逆らっても良かったけど、君たちや他の部下の出世の邪魔になりそうだったから。」
その言葉に龍はあからさまに顔を顰めた。
「・・・急に父親ぶるなよ。俺が聞きたいのは言い訳じゃない。」
「だろうね。」
武虎は苦笑した。龍がそう言うことを、分かっていたかのようだった。
「君が情報を求めていることは分かったけど、報告書はこのザマだし、俺がこの件に手を出すことはできない。解決は君たちに託す。だから少しでも力になれるよう、玲央と噂の探偵の居場所を絞ってみた。」
そう言いながら、武虎は数枚の資料を手渡した。そこには、現在使われていない麻生家が所有していた屋敷がピックアップされていた。
「恐らくその中のどこかだよ。謎を解くのは彼らに任せて、君は救出を急げ。玲央と君たちが買うほどの探偵なら、外部の協力無しでも解決できるはずだ。」
「助かる。」
龍は席を立ち、ドアノブに手をかけた。出て行こうとした龍に、武虎は言う。
「今度噂の“探偵”に話をつけてくれないか?君たちが評価する人間、是非会ってみたい。」
「本人が了承したらな。」
※
「鉄線の外側にガーゼ?」
「うん。昨日俺たちの体に巻きついたのは鉄線だ。普通なら体に痕がついたり、酷い場合は切れて怪我をしたりする。でも、昨日入浴中に体を見たけど、それらしき怪我は無かった。で、よく思い出してみたら、鉄線の周囲に白い布が巻いてあったのを思い出した。恐らくガーゼか何かだと思う。」
「そういえば、白い物体が見えた気がします。」
海里は天井を仰ぎ、昨夜のことを思い出しながら言った。
「だろ?」
「つまり、鉄線によって私たちを殺す気はない。あくまで自分たちで・・・と。」
「ああ。加えて、もう1つ。」
「ガーゼの結び方、ですね?」
海里の質問に、玲央は頷いた。彼が黙ったので、海里は言葉を引き継ぐ。
「私たちを拘束した鉄線は、長い準備期間を経て仕組まれたもの。ホログラフの件も考えると、機械類の扱いに長けていることは明白です。それなのに、あのガーゼの結び方は人為的・・・簡単に言えば雑でした。とても機械にさせたとは思えない・・・・まるで、“急いでいた”かのような。」
「でも・・・なぜ?俺たちを計画的に拐ったことは間違いない。それなのに、そんなくだらないことで準備不足なんておかしい。」
「何か、予想外のことが起こったのではないですか?何かは分かりませんけど。」
玲央は腕を組んだ。ホールのことを思い出しているらしいが、ピンと来ないらしい。
「その“予想外”が分かれば、真相に近づく気がするんだけど・・・」
「ええ。10年前のことですから、話を聞けない分、小さな事でも深く考えとおかないと。」
2人が話し合っていると、黒服の男が入って来た。すると、玲央は彼らを見るなり、椅子を倒す勢いで立ち上がった。
「な・・何か?」
「君たち・・・“昨日会場にいた”よね。」
海里は驚きを隠せなかった。男たちは顔を逸らし、何も言わない。玲央は2人に詰め寄る。
「君たちは麻生義彦に協力しているのか?騙されているのは、俺たち2人だけなのか?」
「私たちも、分からない。ここに来るよう、指示された。ただあの男は・・・」
男が何かを言おうとした瞬間、突如2人が倒れた。海里と玲央が起こそうとしたが、2人は同時に血を吐いた。海里はギョッとし、倒れた体を支えながら叫ぶ。
「しっかりしてください!何を言おうとしたんですか⁉︎教えてください‼︎」
返事はなかった。再び呼びかけようとしたが、玲央が静かに止める。
「もう亡くなってる・・・。昨日と同じ毒殺だよ。」
海里は歯軋りをした。事件解決に繋がるはずの何かを聞き逃したことが、事件の複雑さを物語っているように感じた。
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