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Case7.鮮血の美術室③
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アリバイを作ることは、犯人にとって重要なことだろう。嘘をついたり、演技をしたりするよりも、崩せないアリバイを作る方が容疑者から外される。
では、強固なアリバイとは何か? 私なりの答えはーーーー
「ごめんなさい。昨日、私は学校に来ていないんです」
事件当時、事件現場にいないこと。
単純かつ強固なアリバイこそ、崩し甲斐があると私は思う。
ーカイリ『鮮血の美術室』第3章ー
※
「元刑務所が学校になった? そんな無茶苦茶な話・・・・」
海里は驚愕を隠せないまま言った。龍は缶コーヒーを一口飲み、彼の言葉に答える。
「白百合高等学校ができたのは、今から15年ほど前のことだ。それ以前、ここは黒百合刑務所と呼ばれる小さな刑務所だった。
当時、社会全体の経済状況が低迷していてな。今と比べて、格段に事件が多い時期だったんだよ。当然、そうなったら刑務所に収監される人間が増えるだろ? で、政府は昔からあった刑務所を増築する間の臨時の刑務所として、黒百合刑務所を建設したんだ。ただ、別に刑務所が増えても困らないってことで、臨時の刑務所である必要がないという話になり、その後も使い続けることが決定した。」
龍の言葉に海里は唖然とした。しかしすぐに我に返り、尋ねる。
「使い続けることが決定したんですよね? それなのに、なぜ刑務所ではなくなったんですか?」
畳み掛けるような質問に、龍は簡潔に答えた。
「刑務所内で事件が起きたんだ」
「事件?」
海里は首を傾げた。龍は続ける。
「服役中の囚人を、1人の看守が誤って殺してしまったんだ。その囚人は数年服役していれば刑務所を出られて、家族も頻繁に面会に来ていたらしい。
囚人の死が家族の耳に入ると、囚人の家族は離反。今はどうなっているか分からない」
「看守の方は? 家族はいたんですか?」
「いたらしい。そこは囚人と同じだ。
だが、看守は咎めを受けなかった。何でも、警察庁のお偉いさんから目をかけられていたらしい」
最後の一言を、龍は鼻で笑いながら言った。海里は目を細め、少し苛立った口調で続ける。
「なるほど。問題が公にならないよう、急いで刑務所を壊したんですか。学校を建てたのは、刑務所と正反対のイメージを持たせるため・・・。罪を犯した囚人が悪いのか、看守が悪いのか分かりませんね。
いずれにせよ、その話を聞いた以上、“黒百合”と呼ばれていた刑務所と今回の事件。無関係とは思えない」
「だろ? それに、ここはまだ刑務所の名残がある。お前、裏門通ったか?」
なぜ裏門なのか、と言うように海里は首を傾げた。
「いいえ、正門から入って構わないと言われたので。」
「そうか。俺たちは裏門から入ったんだが、電気柵が張り巡らされていたよ。昔、囚人の脱走を防ぐために作られたものが、今も残っているってことだ。急いで建て直したから、細かい部分は手が回らなかったんだろうな。教室の大きさが一定の場所から異なるのも、独房と雑居房が混在していた刑務所の名残と考えれば納得できる」
そんな所まで見ていたのか、と海里は感心した。恐らく、龍は現場に駆けつける前から全て知っていたのだろう。知った上で目にして、彼は刑務所らしさを感じ取っていたということだ。
龍の発言を踏まえて記憶を辿ると、妙に校則が細かく、新しく見えたはずの壁や床に古い傷が付いていたことを思い出した。教室の大きさも、今考えれば不自然であり、刑務所の一言で納得できた。
しかし、過去の囚人の死と、今回の御堂真也殺害未遂事件。囚人の死は15年前なのに、なぜ“今”なのか。なぜ、人気者であるはずの御堂真也が狙われたのか。犯人の思惑は分からなかった。
「おや、まだいらっしゃったんですか」
懐中電灯を照らして、初老の警備員が顔を出した。龍は飲み終わった缶コーヒーをゴミ箱に捨て、人当たりのいい笑みを浮かべる。
「遅くまですみません。私たちも、そろそろ出た方が?」
「学校も戸締りがありますからねえ。ああでも、捜査があるなら残ってくださって構いませんよ? 大体の時間さえ伝えて頂けたら、それまで開けときますし」
「いえ。今日は十分です。お気遣いありがとうございます」
龍は部下たちに帰るよう伝え、彼らは一足先に学校を出た。海里と龍は今一度美術室に顔を出し、異常がないことを確認してから、各々の帰路に着いた。
※
翌日、龍は生徒たちに普通に授業を受けさせ、教員の事情聴取を強化した。普段使わないという、防音の会議室を借り、2人は1人1人教師を呼び出して行った。
「教師の中に犯人がいる?」
「そう断言しているわけではありません。先生方の方から細かく話を聞くだけですから」
体育教師の松浦史郎は、高圧的で短気な男だった。いつ飛びかかってくるか分からないので、彼の事情聴取は海里と龍の2人で行うことになった。
内容はシンプルで、昨日の昼休みの行動である。
「まず、4時間目は授業があったんだ。暑くなったから終わった後すぐに着替えてメシ。その後は職員室で雑務をして、授業前の軽い筋トレをしようと思った時に、事件が起きた。その後バタついたから、筋トレは事件のせいでできなかったな」
「・・・・事件のせい、ですか」
笑みが歪んだと自覚できた。しかし、松浦は顔色を変えない。
「何か文句が? 体育教師が授業で失敗なんてあり得ないだろ。」
「それは分かりますが・・・仮にも自分の生徒なのですから、もう少し関心を持っては如何ですか? 御堂さんは重傷ですよ?」
「知ったこっちゃねえよ。どうせどっかで恨みでも買ったんだろ?」
教師の発言とは思えない。2人は呆れを滲ませながら、手短に話を終えた。
次に話を聞いたのは、2年2組の担任で、英語教師の竜堂員サムだった。彼は名前の通りハーフで、金髪と黄緑の瞳をした、細身の中年男性で、日本生まれ日本育ちらしく、流暢な日本語を使いこなした。
「昨日の昼休み・・・ですか? そうですね。4時間目は授業がありませんでしたから、1時間目の後からずっと職員室で仕事をしていました。お昼は食堂で先生方と一緒に食べて、職員室に戻った直後、事件が発生したんです」
「怪しい人を見かけたりは?」
「しませんでした。そもそも、この学校の警備はしっかりしていると聞いています。何でも、元々刑務所だったそうなので」
その言葉を聞いた瞬間、龍はすかさず尋ねた。
「その話を知っている生徒・教員は他にいますか?」
「校長先生は知っていると思います。後は、美術教師の葉山先生と体育教師の松浦先生、養護教論の・・・・」
そこで竜堂員の言葉が止まった。2人は首を傾げる。
「すみません。名前の読み方が難しくて・・・これ、何と読むか分かりますか? あまり保健室に行かないので、関わりがなくて」
そう言いながら、竜堂員は海里が持っている教員の名前が書かれた紙を指し示した。擁護教論の欄の苗字には、“紅”と印字されている。
「べに?」
海里は不思議そうな顔をしながら呟いた。竜動員は眉を顰める。
「そんな簡単では無かった気がするんですが・・・・私は今年赴任したので、少し記憶が曖昧なんです」
「・・・そうですか。ありがとうございました。次は、美術教師の葉山先生を呼んできてくれませんか。その後は、この養護教論の先生を」
「分かりました」
美術教師・葉山葵を待つ間、2人は少しばかり話をした。
「昨日、部下に捜査を進めてもらって分かったことだが、御堂真也は真正面から切りつけられた。首以外に傷がない上、防御した形跡がなかったから、犯人は警戒するような相手じゃない。
犯人は切りつけた後に、右手にカッターナイフを握らせた。ここで間違えたってことは焦っていたんだろうが、外部犯は考えにくい。内部犯だからこそ、急ぐ必要があったんだろう」
「そうでしょうね。しかし、正面から切られて、あの傷・・・・。応急処置をしたのは私ですけど、本当によく無事だったと思いますよ」
海里の言葉に、龍は顔を歪ませた。嫌悪というより、呆れた表情である。
「言い方・・・。まあいい。
とにかく、カッターナイフが右手にあったということは、犯人は被害者の利き手を知らなかったことになる。そうでなきゃ、あんな間違いは起こさない」
「それは同意です。しかし、それを考えると赴任されたばかりの竜堂員先生に疑いが向くんですが・・・・」
「昼休みの間、仕事をしていたところを多くの教師が目撃している。何より複数の教師と昼飯を共にした様子は、教師に限らず生徒も見ている。このアリバイは崩せない」
海里が頷くと同時に、扉をノックする音がして葉山葵が入って来た。
「失礼します。葉山葵です」
優しそうな青年だった。小柄で、恐らく一定数の男子生徒より身長は低い。椅子に腰掛けると、さらに小さく見えた。
「昨日の昼休みは何を?」
「仕事です。ずっと職員室の自分の机で・・・・あ、でも、13時頃に御堂君が職員室に来ましたね」
「えっ?」
2人は揃って声を上げた。ここまで何人も教員の話を聞いたが、総じて、被害者の動向を聞かなかったのだ。葉山は笑って続ける。
「彼、美術部でしょう。絵を描くのが大好きで、昼休みも特別に美術室を貸しているんですよ。鍵を取りに来て、開けて、5分後くらいに鍵を返しに来ました」
「その後・・・・御堂さんの姿を見ましたか?」
「いいえ。その数分後ぐらいですかね? 悲鳴が聞こえたの」
驚いた。そんなことがあったなんて。始め、御堂さんは犯人に呼び出されて美術室に行ったと思っていた。でも、それは全くの間違い。彼は、自分の足で美術部に行ったのだ。そして、すぐに鍵を返している。つまりーーーー
「御堂真也が襲われたのは、13時5分~15分の間。かなり短い時間だな」
龍の呟きに海里は軽く頷いた。葉山は聞き取れなかったのか、首を傾げる。
「あの・・・?」
「こちらの話です。
ありがとうございました、葉山先生。事件解決の鍵になると思います」
「それはよかった。じゃあ、次の先生を呼んで来ますね」
葉山と入れ替わるように、養護教論が入って来た。長い黒髪を揺らし、髪と同じ色をした瞳が輝いている。白衣がよく似合う、美しい女性だった。
「あなたが養護教論の・・・・」
「はい。紅百合子と申します」
「あかい・・・ああ、あの漢字、そう読むんですね」
紅は「難しいですよね」と言って笑った。海里も自然に笑みが浮かび、昼休みの行動を尋ねる。
しかし、彼女はなぜか顔を曇らせ、口を開いた。
「ごめんなさい・・・昨日、私は学校に来ていないんです。だから、お役に立てないかと思います」
では、強固なアリバイとは何か? 私なりの答えはーーーー
「ごめんなさい。昨日、私は学校に来ていないんです」
事件当時、事件現場にいないこと。
単純かつ強固なアリバイこそ、崩し甲斐があると私は思う。
ーカイリ『鮮血の美術室』第3章ー
※
「元刑務所が学校になった? そんな無茶苦茶な話・・・・」
海里は驚愕を隠せないまま言った。龍は缶コーヒーを一口飲み、彼の言葉に答える。
「白百合高等学校ができたのは、今から15年ほど前のことだ。それ以前、ここは黒百合刑務所と呼ばれる小さな刑務所だった。
当時、社会全体の経済状況が低迷していてな。今と比べて、格段に事件が多い時期だったんだよ。当然、そうなったら刑務所に収監される人間が増えるだろ? で、政府は昔からあった刑務所を増築する間の臨時の刑務所として、黒百合刑務所を建設したんだ。ただ、別に刑務所が増えても困らないってことで、臨時の刑務所である必要がないという話になり、その後も使い続けることが決定した。」
龍の言葉に海里は唖然とした。しかしすぐに我に返り、尋ねる。
「使い続けることが決定したんですよね? それなのに、なぜ刑務所ではなくなったんですか?」
畳み掛けるような質問に、龍は簡潔に答えた。
「刑務所内で事件が起きたんだ」
「事件?」
海里は首を傾げた。龍は続ける。
「服役中の囚人を、1人の看守が誤って殺してしまったんだ。その囚人は数年服役していれば刑務所を出られて、家族も頻繁に面会に来ていたらしい。
囚人の死が家族の耳に入ると、囚人の家族は離反。今はどうなっているか分からない」
「看守の方は? 家族はいたんですか?」
「いたらしい。そこは囚人と同じだ。
だが、看守は咎めを受けなかった。何でも、警察庁のお偉いさんから目をかけられていたらしい」
最後の一言を、龍は鼻で笑いながら言った。海里は目を細め、少し苛立った口調で続ける。
「なるほど。問題が公にならないよう、急いで刑務所を壊したんですか。学校を建てたのは、刑務所と正反対のイメージを持たせるため・・・。罪を犯した囚人が悪いのか、看守が悪いのか分かりませんね。
いずれにせよ、その話を聞いた以上、“黒百合”と呼ばれていた刑務所と今回の事件。無関係とは思えない」
「だろ? それに、ここはまだ刑務所の名残がある。お前、裏門通ったか?」
なぜ裏門なのか、と言うように海里は首を傾げた。
「いいえ、正門から入って構わないと言われたので。」
「そうか。俺たちは裏門から入ったんだが、電気柵が張り巡らされていたよ。昔、囚人の脱走を防ぐために作られたものが、今も残っているってことだ。急いで建て直したから、細かい部分は手が回らなかったんだろうな。教室の大きさが一定の場所から異なるのも、独房と雑居房が混在していた刑務所の名残と考えれば納得できる」
そんな所まで見ていたのか、と海里は感心した。恐らく、龍は現場に駆けつける前から全て知っていたのだろう。知った上で目にして、彼は刑務所らしさを感じ取っていたということだ。
龍の発言を踏まえて記憶を辿ると、妙に校則が細かく、新しく見えたはずの壁や床に古い傷が付いていたことを思い出した。教室の大きさも、今考えれば不自然であり、刑務所の一言で納得できた。
しかし、過去の囚人の死と、今回の御堂真也殺害未遂事件。囚人の死は15年前なのに、なぜ“今”なのか。なぜ、人気者であるはずの御堂真也が狙われたのか。犯人の思惑は分からなかった。
「おや、まだいらっしゃったんですか」
懐中電灯を照らして、初老の警備員が顔を出した。龍は飲み終わった缶コーヒーをゴミ箱に捨て、人当たりのいい笑みを浮かべる。
「遅くまですみません。私たちも、そろそろ出た方が?」
「学校も戸締りがありますからねえ。ああでも、捜査があるなら残ってくださって構いませんよ? 大体の時間さえ伝えて頂けたら、それまで開けときますし」
「いえ。今日は十分です。お気遣いありがとうございます」
龍は部下たちに帰るよう伝え、彼らは一足先に学校を出た。海里と龍は今一度美術室に顔を出し、異常がないことを確認してから、各々の帰路に着いた。
※
翌日、龍は生徒たちに普通に授業を受けさせ、教員の事情聴取を強化した。普段使わないという、防音の会議室を借り、2人は1人1人教師を呼び出して行った。
「教師の中に犯人がいる?」
「そう断言しているわけではありません。先生方の方から細かく話を聞くだけですから」
体育教師の松浦史郎は、高圧的で短気な男だった。いつ飛びかかってくるか分からないので、彼の事情聴取は海里と龍の2人で行うことになった。
内容はシンプルで、昨日の昼休みの行動である。
「まず、4時間目は授業があったんだ。暑くなったから終わった後すぐに着替えてメシ。その後は職員室で雑務をして、授業前の軽い筋トレをしようと思った時に、事件が起きた。その後バタついたから、筋トレは事件のせいでできなかったな」
「・・・・事件のせい、ですか」
笑みが歪んだと自覚できた。しかし、松浦は顔色を変えない。
「何か文句が? 体育教師が授業で失敗なんてあり得ないだろ。」
「それは分かりますが・・・仮にも自分の生徒なのですから、もう少し関心を持っては如何ですか? 御堂さんは重傷ですよ?」
「知ったこっちゃねえよ。どうせどっかで恨みでも買ったんだろ?」
教師の発言とは思えない。2人は呆れを滲ませながら、手短に話を終えた。
次に話を聞いたのは、2年2組の担任で、英語教師の竜堂員サムだった。彼は名前の通りハーフで、金髪と黄緑の瞳をした、細身の中年男性で、日本生まれ日本育ちらしく、流暢な日本語を使いこなした。
「昨日の昼休み・・・ですか? そうですね。4時間目は授業がありませんでしたから、1時間目の後からずっと職員室で仕事をしていました。お昼は食堂で先生方と一緒に食べて、職員室に戻った直後、事件が発生したんです」
「怪しい人を見かけたりは?」
「しませんでした。そもそも、この学校の警備はしっかりしていると聞いています。何でも、元々刑務所だったそうなので」
その言葉を聞いた瞬間、龍はすかさず尋ねた。
「その話を知っている生徒・教員は他にいますか?」
「校長先生は知っていると思います。後は、美術教師の葉山先生と体育教師の松浦先生、養護教論の・・・・」
そこで竜堂員の言葉が止まった。2人は首を傾げる。
「すみません。名前の読み方が難しくて・・・これ、何と読むか分かりますか? あまり保健室に行かないので、関わりがなくて」
そう言いながら、竜堂員は海里が持っている教員の名前が書かれた紙を指し示した。擁護教論の欄の苗字には、“紅”と印字されている。
「べに?」
海里は不思議そうな顔をしながら呟いた。竜動員は眉を顰める。
「そんな簡単では無かった気がするんですが・・・・私は今年赴任したので、少し記憶が曖昧なんです」
「・・・そうですか。ありがとうございました。次は、美術教師の葉山先生を呼んできてくれませんか。その後は、この養護教論の先生を」
「分かりました」
美術教師・葉山葵を待つ間、2人は少しばかり話をした。
「昨日、部下に捜査を進めてもらって分かったことだが、御堂真也は真正面から切りつけられた。首以外に傷がない上、防御した形跡がなかったから、犯人は警戒するような相手じゃない。
犯人は切りつけた後に、右手にカッターナイフを握らせた。ここで間違えたってことは焦っていたんだろうが、外部犯は考えにくい。内部犯だからこそ、急ぐ必要があったんだろう」
「そうでしょうね。しかし、正面から切られて、あの傷・・・・。応急処置をしたのは私ですけど、本当によく無事だったと思いますよ」
海里の言葉に、龍は顔を歪ませた。嫌悪というより、呆れた表情である。
「言い方・・・。まあいい。
とにかく、カッターナイフが右手にあったということは、犯人は被害者の利き手を知らなかったことになる。そうでなきゃ、あんな間違いは起こさない」
「それは同意です。しかし、それを考えると赴任されたばかりの竜堂員先生に疑いが向くんですが・・・・」
「昼休みの間、仕事をしていたところを多くの教師が目撃している。何より複数の教師と昼飯を共にした様子は、教師に限らず生徒も見ている。このアリバイは崩せない」
海里が頷くと同時に、扉をノックする音がして葉山葵が入って来た。
「失礼します。葉山葵です」
優しそうな青年だった。小柄で、恐らく一定数の男子生徒より身長は低い。椅子に腰掛けると、さらに小さく見えた。
「昨日の昼休みは何を?」
「仕事です。ずっと職員室の自分の机で・・・・あ、でも、13時頃に御堂君が職員室に来ましたね」
「えっ?」
2人は揃って声を上げた。ここまで何人も教員の話を聞いたが、総じて、被害者の動向を聞かなかったのだ。葉山は笑って続ける。
「彼、美術部でしょう。絵を描くのが大好きで、昼休みも特別に美術室を貸しているんですよ。鍵を取りに来て、開けて、5分後くらいに鍵を返しに来ました」
「その後・・・・御堂さんの姿を見ましたか?」
「いいえ。その数分後ぐらいですかね? 悲鳴が聞こえたの」
驚いた。そんなことがあったなんて。始め、御堂さんは犯人に呼び出されて美術室に行ったと思っていた。でも、それは全くの間違い。彼は、自分の足で美術部に行ったのだ。そして、すぐに鍵を返している。つまりーーーー
「御堂真也が襲われたのは、13時5分~15分の間。かなり短い時間だな」
龍の呟きに海里は軽く頷いた。葉山は聞き取れなかったのか、首を傾げる。
「あの・・・?」
「こちらの話です。
ありがとうございました、葉山先生。事件解決の鍵になると思います」
「それはよかった。じゃあ、次の先生を呼んで来ますね」
葉山と入れ替わるように、養護教論が入って来た。長い黒髪を揺らし、髪と同じ色をした瞳が輝いている。白衣がよく似合う、美しい女性だった。
「あなたが養護教論の・・・・」
「はい。紅百合子と申します」
「あかい・・・ああ、あの漢字、そう読むんですね」
紅は「難しいですよね」と言って笑った。海里も自然に笑みが浮かび、昼休みの行動を尋ねる。
しかし、彼女はなぜか顔を曇らせ、口を開いた。
「ごめんなさい・・・昨日、私は学校に来ていないんです。だから、お役に立てないかと思います」
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