生徒会書記長さん

梅鉢

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第五章

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次の日の生徒会には吉岡はやってきた。目じりに傷を作って……。やっぱりあのビルへ行ってケンカでもしてきたのだろう。ストレス発散方法が喧嘩なのか薬に手を出すよりも健全ではあると思うが一般的には不健全なのではと、どうしようもないことを考える。

よく分からない、まとまらない思考はため息を多くしてくれ、その度に渡部に怒られるということを繰り返した。学習能力がないのかなんなのか。



数日たって、いつもの生徒会室。変わらない時間。北村には時々「早く仲直りしろ」とせっつかれるが切り出し方が分からないから仕方ない。南だって何も仕掛けてもこないから焦りもないってことが大きいかもしれないけど。


それぞれが淡々と業務をこなしていく。
あと少しで終了、といったところで松浦が田口に顧問にプリントを持って行けとお使いを出した。が、トイレに行きたかったしこの場に居ることに疲れた俺は、後ろを通り過ぎようとした田口からプリントを横取りした。

「トイレ行くから、そのついでに俺が行く」
「生徒指導室は2棟ですよ。ついでだと遠い気がします」
「うん、いいよ。ちょっと体動かしたいし」
「会長」

田口が松浦に伺いをたて、松浦が誰でもいいから行けと言ったので笑顔で田口の肩を叩いて生徒会室をあとにした。
窓の外は吹雪だ。廊下だって寒い。野球部は校舎を走り回っていて一般の生徒は時々止まりながら歩いていた。野太い声をだしながら走る姿にちょっと羨ましくなった。やはり団体競技が好きなんだろうな、俺。

生徒指導室に入ると煙臭さに顔を顰めた。
窓際で悠々とタバコを吸っている土屋がいた。今時タバコOKの学校なんてあるんだろうかと疑問だが、土屋は理事長のお気に入りらしくどんなわがままもゆるされるとかなんとか。実に羨ましいやつだ。

「おう。佐野。珍しいな」
「失礼します。松浦からです」
「おう。悪いな」

タバコくさい室内に入りたくなかったが土屋に動く気などさらさらなさそうだったため中へ入ってプリントを渡した。
駄賃だと言って飴玉も渡された。子供かよと思ったが飴玉を持っている土屋が少し可笑しくて素直に受け取った。帰る途中包みを破り白い飴玉を口に入れた。ハッカ味だった。それほど好きじゃないからちょっとがっかり。
のらくら歩いて階段を上がっていくと上がった先の廊下、生徒会室の前に繋がる廊下に吉岡がいて体を強張らせてしまった。ばれてなきゃいいけど。
とにかく気にしてない素振りで階段を上りきる。腕を組んで壁に寄りかかっている姿はこの間も見たような気がする。態度悪い姿は俺にはよく見せるんだよな。

「トイレか?」

通り過ぎるとき、気まずさを少し覚えながら、でもいたって普通に見えるよう話しかけてみた。
こんな壁に寄りかかっていてトイレもクソもないと思ったけど。

「ちょっと、いいですか」
「あ? って、おい!」

左腕を取られ、後ろに引っ張られる。吉岡の前を通り過ぎることは出来なかった。
「いて」「はなせ」「なんだよ」と声を掛けるが一切を無視された。
連れてこられたのはトイレの一番奥の個室。便器に座らされて、目の前には後ろ手に鍵を掛ける吉岡が俺を見下ろす。

なんかもう真面目なやつの無表情は怖いんだよ。こいつは外見だけしか真面目じゃないかもだけど。でも俺より頭いいな。いや、そんなこと今はどうでもいい。

「……なんだよ」
「時々、無性に佐野さんが足りなくなるかな、って」
「この前も言ったけど、俺に近寄らないことにしたんだろ」
「そうですね。この前とは状況が違いますね。この前は北村さんに頼まれて、という名目がありました」

まるで近寄りたかったようなセリフに少し顔が熱くなる。
恥ずかしさ紛れに「意味分かんねぇ」と眉を寄せるが、俺の心を呼んでいるかのように吉岡はふっと笑顔を作った。もともと珍しい吉岡の笑顔だが、今、吉岡のことが好きな状態で笑顔を向けられてしまってドキリとしてしまう。
どうやら俺は単純に出来ているようだ。こんなにもときめいてしまってもうダメなんだろう。

薄く笑みを残したままの吉岡が俺に被さってくる。徐々に近づいてくる吉岡を見上げるよう俺も顔を上げていった。
唇が重なる前に目を閉じたのはいいとして、キスしやすいように吉岡とは逆のほうに首を傾けたのはもう自然だった。
ゆっくりと啄ばまれ、ちゅ、とかわいい音を立てて離れてはまた啄ばんでくる。頬を両手で挟まれて口付けも深くなる。思考回路はすでに停止中でただただ俺を優しく包むような吉岡の口付けを受けていた。
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