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第四章
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しおりを挟むこの時期は特に忙しくもないからいつもより早く切り上げた。簡単に机の上を整理してパソコンの電源を落とす。他の連中も帰る準備をしている。
時間は17時と夕食にも風呂にも少し早い。生徒会一本に絞ってからは時間の使い方がへたくそになって困る。まぁいいか、さっさと風呂に入って夜はテレビでもダラダラ見ることにしようかな。
それぞれまばらに生徒会室を出るが、先に出たはずの吉岡は廊下で腕組みをして壁に寄り掛かっていた。どうしたんだと視線を向けるが、構わず歩き出した俺のあとを付いてくるかのように吉岡は一緒になって歩き出した。
これは一緒に寮まで帰るということか。俺を待っていたのかどうなのか。
言葉の少ない吉岡だから「一緒に帰りましょう」なんてことは言わないんだろうな。ただこうやって黙ってそばに寄ってくるんだろう。手を伸ばせばすぐ触れられそうな距離感を保って。
心地いいと思ったこともないが嫌悪が沸くほどでもなかった。ただ今は節操のない吉岡に苛立ちがある分、今までのような気の許しはない。
後ろを歩く吉岡にも聞こえるようにわざと大きなため息をはいてみた。南といい吉岡といい、遊ぶ側は気楽だろうが遊ばれる側はたまったもんじゃないっての。
死ね。いや、言いすぎだな。いいすぎか? もうどうでもいーや。
「佐野さん」
「あー?」
「どうかしたんですか?」
「どうって、何がよ」
「俺が聞きたいんですが」
「はぁー? 意味分からん。なんもねーし」
「怒っていますね」
「はー?」
怒ってるって?
誰が誰に怒ってるってんだ。
いちいちうぜーなコイツ。
話をするのが面倒で足早に寮へ向かった。エレベーターも2人きり。吉岡は真っ直ぐに前を向いたまま「一緒に御飯食べませんか? 食べたいの作りますけど」と俺の餌付けに一生懸命だ。だが残念だ。お前の節操のなさを知ってしまった今はほいほい食べるわけにも行かない。ものすごく食べたい気持ちはあるが俺のプライドがそれを許さない。
「食べない。夕飯は北村と約束してるし」
約束してないけど。
「そうですか」
あっさりとひいた吉岡にもなぜか面白くない気持ちが芽生える。南のこともあってここ最近の俺はすこぶる機嫌が悪い。ましてや元凶がここにいるわけだし八つ当たりしたってバチはあたるまい。
部屋の前まで来て「お疲れ様でした」と言われたが無視して背中を向けた。カードキーを差し込んでドアを開ける。1人でいるとまたグダグダと考え込んでしまうかもしれないな。それも性格ならしょうがないのか。
玄関に入って後ろ手でドアを閉めようとするが閉まらない。ドアに何か挟まったのかよと舌打ちをしながら下に見ると黒いローファーが挟まっていた。普段スニーカー派の俺は滅多なことがない限り玄関になんて出さない。じゃなくて、ローファーは廊下から伸びていて視線を上に持っていくとドアの隙間から不機嫌そうな吉岡が俺を見下ろしていた。
「……なんだよ、足邪魔なんだけど」
「ちょっと俺も入れてもらっていいですか」
「無理」
「なんでそんなに怒っているんですか」
「怒ってねーよ。早くどけって」
両手でもってドアレバーを遠慮なく引く。かなりの力を入れているから足も痛いはずだと思っていたら吉岡も両手を使ってドアを開けようと引っ張り合いっこだ。単純な力勝負はまけてしまう。腰を落として重心を下げ、なおかつ体重をソコに乗せた。それなのに立ったままの吉岡にドアをこじ開けられ、俺は情けない姿で玄関に転がってしまった。
つかさず吉岡は玄関に入ってきてドアを閉めやがった。狭いところに無理やり入ってきたため、俺は靴を履いたまま部屋に押し出された。
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