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第四章
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しおりを挟む年末、家に戻るとすでに親戚が集まっていて人だかりで家の中は騒々しかった。
今年は色んなことがあったなーっと耽るわけにもいきそうにないほどだった。
寮にいるのも嫌だったが、帰ってきたらこの煩さに疲れる。久しぶりにあう親や親戚の顔を見られて嬉しいは嬉しいけど。お正月になってお年玉をもらったらさっさと寮へもどろうと決めた。
新年になってクラスメイトや北村からメッセージが送られてくるが、みんなあと1年で終わりだなーってことが多く書かれていた。何年もずっと同じ学校で学び、高等部に入ってからは全寮制で衣食住と共にしてきた。北村とはすぐ隣でいつでも会える環境にいた。それもあと一年。当たり前のようにそばにいてくれて当たり前のように俺のわがままを受け入れてもらっていた時間。永遠にあるように感じられるが決してそうじゃない、終わりはある。そう考えると感慨深くなる。
いい友人をもって俺は幸せだなと思った。
3学期は卒業式に向けてちょっと仕事があるくらいで、部活を辞めてしまった俺としては結構ひまだったりする。
明後日から新学期だが、活発な部活はもう始まっている。田口に習って俺も部活に入り浸ってみようと、タオルを首に巻き、ロンTと短パン姿で体育館へ向かった。
途中、すれ違う生徒から今までとは違って奇妙な視線を感じることがあった。今までも生徒会役員として妙な視線を感じることは多々あったが、ソレとは違っていてちょっと違和感。こんなにじっとりと湿った視線じゃなかった気がするんだけど。
よく分からない視線に耐え切れず肩から背中に掛けて鳥肌が立ってきた。渡り廊下を足早に歩いた。
大体育館へ付くとバスケ部だけが広いコート2面分を占領しており、低い声を出しながら練習していた。ボールのはじく音だったり、バッシュが鳴る音だったり心地いい。
普段ならここはバスケ部とバレー部がコートを1面ずつ分けて練習しているはずだったが……。
フットワーク練習中だった渡部が俺に気がつき、手を振ってきたので手招きしてみた。顧問もいないし、あっさりと列を抜けて渡部はきてくれた。副部長でもあるし周りに気兼ねはないみたいだ。うっすらと汗を張り付かせているが、笑顔が爽やかで汗も似合うわ渡部クンよ。
「お疲れー」
「どうしたんだ、そんな格好で」
「バレー部は? ちょっと運動しようと思ってきたんだけどバスケ部しかいないし」
「バレー部は佐野が辞めてからあまり熱心に練習している様子はないから、新学期始まるまでないと思うぞ」
「まじか。いつの間にそんなことに……」
「バレー部の顧問、お前にくびったけだったからなぁ」
ケタケタと笑われ、がっくりと肩を落としてしまう。
「なんならこっちで体動かせば。そろそろレギュラー連中だけはハーフコートの5対5やるし」
「えーいきなりそれは無理」
「1年連中と隣のコートで3メンやるか?」
「えー走りっぱ無理」
「我がままだな……」
軽く体を動かしたかっただけだからそんなに走りたくないし、ましてやレギュラー連中に混じってゲームとか無理。
「5対5がハーフコートなら、あと半分余っているんだよな」
「ああ」
「そっちでシュートとかしてていい?」
「いいけどボールを転がして邪魔するなよ」
「しないしない」
渡部が笛を鳴らし、「今やっているヤツらでラストー。2年と1年レギュラーはハーフの5対5、他1年は隣で3メン!」と大声を出した。フットワークを終えたやつらからそれぞれのコートに向かっている。
俺も籠からボールを1つ取り出し、ドリブルからのまずはレイアップ。ボールがゴールを抜けるときの音がたまらない。バレーはバレーの気持ちよさがあるが、バスケはこれが気持ちいいよな。
「……野さんだ」
「バスケできるんだ」
「お前よりうまいんじゃね」
フリースローラインからシュートを放っていると、後ろからぼそぼそと何かが聞こえた。まぁ外部の俺が来ているんだから仕方ないが、ここでの視線もむずむずとさせたが廊下で感じた違和感はなかった。
ボールはリングに当たって大きく外れてしまった。隣のコートに行ってしまわぬようにダッシュで追いかける。ボールを拾って顔を上げたとき、すぐそばで鋭い視線を送る1年がいて驚きで身が引けた。なんだと思ったら、アイツだ。吉岡の部屋にいた生徒。吉岡はクラスメイトと言っていたが、それだけではない親しさを感じたヤツだった。
真面目そうに見えないから帰宅部だと思っていたのにバスケ部だったのか。ここのバスケ部は結構練習量多くてキツイと思うけど、1年近くもやってこられているってことは見た目より真面目なのか本当にバスケが好きなのか。そういえば、あの書記候補を選んだときの書類には吉岡も中等部のとき、バスケで県選抜入りしたくらいだし吉岡もバスケ部でもおかしくないはずだ。
コイツと吉岡はつながりがたくさんあるみたいだ。俺は吉岡と変なことはしても吉岡自身のことは何も知らない。
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