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第四章
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しおりを挟む「鍵って岩下のヤローしか持ってないんだっけ?」
「生物だとそうだな。生徒会も特別教室の準備室までは鍵の管理はしていないはずだろ」
「じゃーここは無理か」
ドアノブが「カタ」と小さく音を立て、足音が遠ざかっていった。そして男達の声も遠くなり、そこでようやく息を吐いた。心臓に悪い。
「まだ始まって5分ですね。何人がここに来るでしょうか」
「はぁー。疲れる」
本当に、考え事だけでも疲れるし、危機がすぐそこにあることがこれほど疲れるとは。
壁に背を預け、ずるずるとしゃがみこんだ。
「なあ、ここの鍵って簡単に開くのか? 他のやつらも開けられちゃうんじゃないのか?」
「一般的な鍵だし、防犯としてはほぼ意味をなしてはいないですが多分大丈夫かと」
「全然大丈夫に聞こえないんだけどー」
「ここを開けられた場合、数名なら伸してしまえばいいじゃないですか」
簡単に言ってくれるわ。俺は喧嘩は専門じゃないんだ。吉岡1人で戦うってコトだし、俺はきっと足手まといになるだけだろう。だから心配なんだ。最悪2人とも捕まってしまうんじゃないかって。
悪い方へしか考えられない俺に「正当防衛はいいって言っていたし心配はいらないかと」と見当違いのことを吉岡は告げる。そうだな……体育祭のときからだし、せいぜい俺を守ってもらおうか。
「頼むわ、吉岡」
「任せてください」
座ったまま見上げれば、吉岡は何でもなさそうにドアを眺めていた。
あれから数分おきに誰かが生物室に入っては準備室のドアノブを回していった。鍵を開けようとするものまではいなかった。さっきスマホで時間を確認したらあと15分ほどで終了のチャイムが鳴る。終わりが見えてきたことにホッとする。吉岡も吉岡で緊張しているのかここに入ったときに作った妙な雰囲気を出してくることは無いから余計なことを考えなくてすんでいた。
もう少しで終わりだが、その少しが長い。1分1秒がこんなに長いのは早々ないだろう。過ぎて欲しいときこそ時間の経過はゆっくりとしたものに感じられる。
膝に顔を埋めているとまた生物室で話し声が聞こえた。生物室のドアは開けっぱなしになっているためか2番目に入ってきたやつらから以降はドアの音は無い。
そしてお決まりのように準備室のドアノブが揺れる。
「開かねーし」
「この鍵って生物の先生が持っているかな」
「かもな」
そしてお決まりの会話がドア越しで繰り広げられ、さっさと諦めて行ってくれと念じる。
「でも会長様も持っていたりしないかな?」
「ありそう。怪しいな」
怪しくねーよ。持ってないし。諦めろよそこは。
「あと時間は少ししかないのに、誰にも会わないっておかしすぎるよ。やっぱりこういった鍵付きの部屋にいるとしか考えられない」
「だよなぁ……」
「これって何かで開いたり出来ない? ピンとかでさ」
「あーできるかなー」
いい線いってるけど、頼む、見逃してくれ。
顔を少しだけ上げて懇願した。乱暴にドアノブを回され、ドアも少し揺れる。木製のドアは腕に覚えのあるものなら簡単に蹴破ることが出来るんではないだろうか。
今回のやつらはしぶとくて、いつまでもドアから離れようとしない。
また少しずつ心臓が不穏になってくる。そんな俺に気がついたのかずっと立ちっぱなしでいた吉岡が俺のそばにしゃがみこんだ。絡む視線が穏やかなもので「大丈夫」とでも言われているようだった。そんなことで安心を覚える俺はちょっと情けなかったりする。
ため息を吐くにも吐けず、眼を伏せて小さく息を吐き出した。
暗い準備室内、窓から零れる僅かな光が遮られる。その主は顔を寄せてきた。壁に寄り掛かって膝を抱いていた俺はもう後がない。びたっと壁に張り付くが迫る吉岡は簡単に俺を捕らえた。そもそもすぐそばで鬼がいるというのにこんなところで騒げないし声も出せない。
せめてもの抵抗とばかりに睨んでやると吉岡は俺の顔を挟むように壁に両手を付いた。そしてこんなときだというのに無駄な色気を含んだ笑みで見つめてきた。
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