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第一章
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しおりを挟むそれほど運動も好きではなかったが、運動神経がよかったために内申を稼ごうとして運動部に入ったのがきっかけだった。
バレーでもバスケでもサッカーでも何でもよかった。
単純にバレー部に知っている先輩がいたから入っただけで、別に入らなくても良かったのが本音。
今年から生徒会のメインでやることになって放課後の時間が取れなくなってしまい、部活に顔を出すこともなくなった。部活よりも生徒会のほうがきっと心象はいい。だから書記長になったときすぐに部活を辞めた。遠慮は一切なかった。顧問には泣いてすがられたが、人の足りないときは助っ人しますのでと妥協案を出せばちょっとしつこさがなくなった。
俺には何足も履く草鞋も足もっていないからしょうがない。
体育祭に向けて生徒会の仕事が忙しくなっていると、みんな無口になってくる。ひたすらキーボードのたたく音や紙のめくる音しか聞こえてこない。
最近の吉岡はまた調子が上がってきたようでミスもなくなった。夏ばてかなんかでもしていたのだろう。
そんなことを考えているとコピー機がピーピー音をたてた。
「A4のコピー用紙切れてたのか」
南が出来たばかりの書類でも印刷したかったのだろう。顔を上げてコピー機を睨んでいる。
こういった雑用は書記や会計がやっていたから、俺は手を止めてコピー機に近づいた。
確かにA4サイズの用紙がなくなっていたし、隣の棚にストックもなかった。ついでに全部のサイズも確認するとA3やB5も残りが少ない。
備品は教務室に取りにいかなければないが、大量の紙は重いから持ちたくないと思ってしまって。
面倒くせーなー北村が取りに行ってくんないかなー。
そんな思いで顔だけ振り返って北村を見るが、やつは下を向いて何かを書いている途中だった。
当然俺の視線なんか気づくはずもなく、俺はむなしくコピー機に視線を戻した。
どうせだったら他の備品の在庫も見よう。
諦めて、俺が教務室に行くことにしてボールペンや付箋なども確認したが大丈夫だった。
「これから教務室に用紙取りに行くけど、他になんかいるものある?」
「蛍光マーカー5色セット頼む」
全員に聞こえるように言えば松浦がすぐに反応した。
「了解~」と声を掛けて部屋を出る。「カフェオレー!」と南の声が聞こえたが無視をしてドアを閉めた。
人のいない中庭を見下ろしながら廊下を歩いていると、バタバタと走る音が後ろから聞こえた。この棟の2階に生徒会以外の人がいることは珍しいので誰だろうと振り返った。
「吉岡」
きっちり分けられた髪の毛が揺れ、俺の横に並んだときには少し乱れていた。眼鏡の奥にある切れ長の眼だけで俺を確認して。
すぐに視線は前に向けられたが、やけに冷たい、それでいて色っぽい眼をしていた。本当に一つ下なんだろうか。
吉岡が歩き出したから俺も歩いた。トイレは反対側だしどこへゆくのか。
「どうしたんだ?」
「会長に手伝えと言われました」
「俺を?」
「そう」
もしかしてコピー用紙がほとんどのサイズが少なくなっていることに気がついていたのだろうか。まぁ、どの道手伝ってもらえるなら負担が減っていい。
「副会長がコピー用紙必要だったんじゃないですか?」
「ん?」
「佐野さんが使ったわけでもないのに」
「ああ。こういった雑用は書記や会計がやってたんだ。まだ吉岡に伝えていなかったんだな、すまん」
「そうだったんですか。じゃあ次から俺や田口がやりますよ」
「ありがとうな」
珍しく、吉岡が話しかけてくるものだからちょっと嬉しかったりした。
冷たい眼をするくせにちゃんと俺に気を使っているのも分かってなお嬉しい。
そのせいか俺は自然と笑顔になっていて、横目で見られているとは分からずにずっとニコニコ顔だった。
教務室での備品のやり取りの仕方も教え、先生から備品を受け取った。
すると教務室を出たところで俺からコピー用紙全部を奪い、俺に蛍光マーカーセットだけを渡した。
俺よりも身長も体つきもいいかもしれないが、そんなにか弱くない。
「半分持つし」
「大丈夫です」
「いや、それA3も入ってるし、A4だけでも4束あるし」
確かに1人でも持てる量だが、せっかく今は2人いるんだ。だからよこせと上側の4束に手を伸ばすが、すぐにスッと後ろに体を引かれた。
「大丈夫なんで。重くないし」
「でもせっかく2人いるんだし、俺も持つって」
吉岡は床に視線を一瞬落としたあと、俺に向き直った。
「なんか持たせちゃ悪いよーなオーラを出してるんですよね、佐野さん」
「は? どういう意味だ?」
「さぁ、俺にもよく分かりませんけど」
吉岡がわけの分からないことを言ったくせに、面倒くさそうな顔をして歩き出した。
なんだよ、そのオーラって。俺はわがままな人間にでも見えるんだろうか。
仲のいい北村やごつい田口にならともかく、吉岡に対してはそんなつもりは微塵もない。ちょっとショックを受けるあたり、俺は小心者だ。
今日の仕事ぶりをみてもう大丈夫なのは分かっていたが、「体調はもういいのか?」と訊いてみたかった。しかし目の前にいる吉岡の背中が話しかけるなとでも言っているようだった。
行きはあんなに話しかけてくれたのに、帰りはすたすたと吉岡は俺を気にすることなく先を行く。俺達は終始無言で廊下を歩いた。
生徒会室についたとき、俺が蛍光マーカーしか持っていないことを知った南が「うわーお姫様~」なんて冷やかしやがってムっとした。
「しょうがないですよ、佐野さんですもん」
俺をフォローしたのかそうじゃないのか、二ノ瀬が言った。
俺だって男子高校生の平均身長よりも2センチ高いんだし、中等部からずっと部活も入っていたから筋肉もある。なんだか面白くない。
「おら、松浦」
面白くないついでに入り口から一番奥にいる松浦に蛍光マーカーを投げた。完全に八つ当たりだ。
結構勢いをつけて投げてやったのに、危なげもなく涼しい顔してキャッチするあたり、本当ムカつくやつだと思う。
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