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第一章
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しおりを挟む長かった期末テストも無事終え、本格的に仕事が手につきそうだ。
テスト期間中はあまり記憶がない。北村に勉強を教えてもらうがちょっと時間が足りなくて、後半の教科は勘で解いた。
でもそれも終わり、長い夏休みとともに生徒会の仕事が待っている。
嫌いじゃないし、やりがいもあるから少し楽しみでもある。
テストが終わったころ、前書記と入れ違う形で吉岡が俺の前の部屋に越してきた。前任者達は俺達の1階上の3階、“OB階”へと部屋を引っ越していった。
生徒会だけがいる第4寮棟2階の奥の部屋から会長、副会長、会計、書記と部屋が並び、廊下を挟んでその前の部屋がそれぞれの補佐が住むことになっていた。
会長補佐の青木や金髪美人の二ノ瀬、重量級の田口には度々廊下で出会うことがあったが、吉岡には会うことがなかった。外見は真面目だけど中身は違って不思議なんだろうか。外見と中身のギャップが激しい生徒がいるのはこの学園ではよくあることだったからそれほど気にならないでいた。
吉岡は“よく働く男”。そんな第一印象だった。
寮での生活はよく分からないが、生徒会の仕事があればちゃんと仕事をしに生徒会室に来ていた。口数も少なく、淡々とこなし、そこは外見通りまじめだった。
この前まで俺が座っていたデスクに吉岡が座って文章を作成している。去年の体育祭の競技ルールにプラスで、反省点を反映させたものをお願いした。とりあえず適当でいいからと。
俺は俺で、吉岡が作ったものを確認しながら月1で行われる定例会の議事録を作成していた。定例会から1週間経ってしまっていて、松浦に催促されてようやく気がついたくらいだ。だから吉岡がしっかりものだととても嬉しいのだが、俺の期待を裏切らず、吉岡はとってもしっかりしていた。顔合わせのときに「記憶力はいい」と話していたが、本当にその通りで吉岡は一度言ったことは忘れないやつだった。
だからこっそり連絡先を交換し、俺のスケジュールの管理をお願いした。北村も俺の面倒を見てくれはするが、これから田口を育てていくのに余計な仕事を増やしてもかわいそうだと思って。吉岡はかわいそうじゃないのかと言われればかわいそうだが、俺の補佐なのが運のつき。来年の修行のためだ、我慢してもらおう。
顧問の土屋や松浦にもお前にしてはいいのを選んだなと褒められた。土屋は分かるが松浦はタメだ。上から目線がムカついたが頭や口で勝てるわけもないので黙っておいた。
お盆も過ぎて、そろそろ2学期が見えてくる、そんなときだった。珍しく吉岡がミスを連発していた。変換ミスから記入漏れ、大事なところでは日付を間違えていたり。
1日でこんなにミスがあることが本当に珍しく、これで今日は何度目になるのか吉岡に書類を返した。
「5行目変換ミス。もしかして具合悪いのか? 無理しないで帰ってもいいよ」
無言で書類を受け取った吉岡は目を細め、書類を確認するよう視線を落とす。すぐに「本当だ、すみませんでした」と返ってきたが、俺の質問には答えなかった。
「吉岡、調子悪いんなら帰っていいぞ」
少し離れた席から、会長の松浦が顔も上げずに言った。
俺達の会話はずっと聞こえていたはずだから、今日のミス連発もみんな知っている。いつもと違う吉岡の様子に松浦も声を掛けずにいられなかったようだ。
「もういいよ、あと俺やるし。帰って寝といたほういいよ」
「……すみません」
今度は素直に頭を下げ、席を立ち上がった。
もともと口数が多いほうでもなかったが、今日はしゃべるのも億劫なのか口調が暗かった。きっと何かあったのかもしれないし、体調が悪いだけかもしれない。あれだけミスをしたのだから。
俺の仕事の急ぎのものを片付けてから吉岡のものをやろうと思っていると、パソコンの上から金髪がひょっこりと動いた。
「佐野さん、俺も手伝いましょうか? 吉岡の仕事」
「ああ、ありがとう、でも大丈夫だと思う」
「何かあったら言ってください」
「んーありがとー」
二ノ瀬にふわりと笑顔を向けられ、俺も笑顔で返す。
こんな長身のべっぴんさん、彼女は大変だろうな。
今年の補佐達はみんな一生懸命だ。外見は様々であるが、それぞれ個性を持ちながら自分なりに生徒会の仕事を頑張っている。特に二ノ瀬や田口は雰囲気もよく、美女と野獣ではあるが二人がいるとなんだか和んでしまう。
ただ二ノ瀬は南の軽口だけには厳しかったが。
困ったのは松浦とその補佐、青木の二人だった。時々静かに喧嘩をしているのか険悪なムードを放っているときがあった。そんなとき知らないふりをするのが一番だが、もうちょっと大人になってもらいたいものだと北村は言っていた。
自分の仕事もあらかた片付け、吉岡の席に移動する。PCの画面にある作成途中の文書と机に上がっていた資料を確認する。すると資料の下からスマートフォンが出てきた。
これはさすがに大事だろう。
「田口ー、吉岡がスマホ忘れてるから、帰るとき持っていってよ」
「あ、はい」
顔を上げて目の前にいる田口に上からスマホを渡す。
ごつい手におさめられたスマホがやけに小さく見えた。
「吉岡って部屋にいないこと多いんすよねー。あ、でも今は具合悪いからいるか」
田口がそう言って、俺は顔を上げたが田口は下を向いていた。独り言だったのか、誰の反応を待つわけでもなくキーボードをたたく音が聞こえ、俺もまた、画面に視線を戻した。
部屋にいないってことは友人のところでも行くのか。ああ見えて実は友人が多かったり。ああ見えてって、幼稚舎からいるんじゃ友人の1人2人くらいはいるだろう。俺は吉岡をどう思っていたんだと苦笑した。
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