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しおりを挟む次の日にはヴィネの言ったとおり、家令から「魔術師様達はすべてのことが自由である。そのため使用人、奴隷は一切の事に咎めなし」というものがおりた。
額に黒くて小さいやけどのようなものを負っているビーマが眉を下げながら伝えにきたのだった。
「しかしヨリ、魔術師様とどこで出会ったんだよ」
今日の昼食のパンにはリンゴの皮を甘く煮たものがはさんであった。ヨリはオレンジの皮よりもリンゴの皮のほうが好みであったため、ゆっくりと味わって食べた。
だからゴゴの質問には「俺は井戸にいただけだよ」と素っ気無く伝えた。それは本当のことでもあった。
「侯爵様にも自分の意思通りにできるなんて、魔術師様ってすごいんだな。それに見たか? ビーマさんがひっくり返るとこ!」
鼻息も荒く、興奮したようにゴゴは昨日のことをべらべらと話しかけてくる。珍しい。
地面に額をこすりつけていたヨリはそんな場面など見ていたはずもない。ひっそりと息を吐いた。
今まで魔術師なんて人種はもちろん関わったことなどなかった。話だけは聞こえてきたが自分にとっては昔話でも聞いているかのようだったし、遠い国の話のようでもあった。
ならず者も簡単に殺し、人を人とも思わない連中である、とさえ聞こえてきたこともあった。しかしこの数日間でであった魔術師2人は、とても酷い人たちには見えなかった。
老人魔術師は痛いことや気持ち悪いこともしてきたが、理由はよく分からなかったがどうやら自分のためであるようだったし。
ヴィネは手を癒してくれ、さらに魔術師と接触した自分の咎めをなくしてくれた。
魔術師とは言うものの、魔力だけが規格外で案外話しやすい人たちなのではないだろうか。
パンを食べ終え、両手を叩いてパンくずを落とす。屋敷の奥の林に入っていく緑のローブの魔術師2人を見ながら仕事を再開した。
それから数日間、せっかく魔術師との接触が解禁になったというのにアレからヴィネに会うことも老人魔術師に会うこともなかった。そもそも魔術師達は忙しそうにしていたし、出会っていたのがきっと珍しいくらいだったのだろう。
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