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2年生編

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 番契約申請書を提出後、あれやこれやとまた書類を書かされ、無事、番契約が済んだ。
 学校が親に直接書類を届けに行った日、母から電話がきた。
 どういうことかと母に喚かれたが、ただ契約しただけでまだ番ではないことを伝えると、「なんだ、そうだったの。まだおばあちゃんになる心構えが出来ていなくてびっくりしたわ」と拍子抜けしたように言われた。
 いやいや、飛躍の仕方がもう酷い。まさか学校側も「妊娠した」など説明はしなかっただろうに。
 その後、電話を代わった父の声からは、
すは喜んでくれているのが分かった。

「はぁ~とうとうこの日が来たのかと思ったよ。オメガと聞いてどうなるかと思っていたし、さすがにまだ未成年だから早いなーとは思うけど。ちゃんと自分のことを大事にしてくれる人を選んだのかい?」
「もちろん。すごく優しい」
「相手の名前や顔、その他経歴を見せてもらったよ。優しくて賢い、いい人を捕まえたんじゃないか。さすが俺の息子だ」
「え?」

 写真や個人情報でいい人がどうか分かるんだろうか。賢いのは分かると思うけど。写真の中の朝永はそんなに印象が良かったのかな。俺も見てみたい。

「お父さんは夜詩人が幸せになってくれたらそれでいいよ。そのうち2人で遊びに来てくれたら嬉しいな」
「うん。卒業後になっちゃうけど、絶対行く。待っててよ」
「北原君と仲良くな。ケンカしても、いや、ケンカにならなそうだけど、北原君の言う事をよく聞くように」
「う、うん」

 なぜか俺が子供扱いされている。いや、子供だけども。そしてどうしてケンカにならないと分かるのだろう。
 父親との会話は少しふに落ちない点もあるが、喜んでもらえてなによりだった。

 購買前にて、親とのやりとりを朝永に教えると、朝永は「俺1人でもご両親に挨拶に行くべきか」と真剣に悩み始めた。さすがにそれは俺がはずかしくて、2人で行きたいから、1人では絶対にやめてくれと頼み込んだ。2人で行きたい、と言うのが効いたらしく、朝永も了承してくれた。

 そして気になったのが朝永の両親だ。
 朝永からそれほど家族の話を聞いたことがないし、唯一知っている家族が永匡くんだ。2人のあの感じからしてそれほどおかしな家族ではないとは思っているけど、実際のところどうかは分からない。家族間であるとはいえ、大きい金額の借金を許し、それを返却させるため休みはすべて返上だ。きっちりした家なんだろうか。家の格が違いすぎるだろうから、その辺の想像はできないな。

「朝永は何か言われた?」
「何も言われないよ。『そうか』と一言だけ。母親は祝福してくれたけどね」
「え、えー……。朝永のお父さんってアルファだっけ」
「そう。母はオメガで」
「なんか素っ気ない……。まさか俺が相手だからあまり喜ばれてない、とか……」
「あはは。そんな心配するだけ無駄だよ。初めの頃こそある程度はうるさく言われたけど、今では俺が選んだ人ならと任せてくれているよ。最近は下の妹が小学生になってさらに可愛くて仕方ないみたいで、俺や永匡の事なんてどうでも良さそうだけどね。まぁ、唯一の女の子だし」
「そうなんだ。ならよかったけど。俺は一人っ子だからあまりよく分からないや。でも唯一の女の子が末っ子ならきっと可愛さは倍増だろうね」
「まあね」

 ほのぼのとした空気の中、その雰囲気に溶け込むように甘い朝永の笑顔。
 ああ、ここが購買前でなければ抱きつきたいのになあなどとぼんやり思って朝永を見た。

「俺はきみにそっくりな子供なら、性別はどちらでもかまわないな。アルファだったらきっと3歳くらいから可愛くなくなるから、ベータであると嬉しい」

 な、なんの話だ。
 明るい家族計画は、まだちょっと早いと思います。

「……朝永まだ16歳……」
「現実にもどさないでよ」

 時々人が行き交う中、朝永はそんな人達を気にせずに顔の赤い俺にキスをした。びっくりして朝永の顔を押しやるが、その手首を掴まれてベンチに押し倒された。

「ん、ちょ、」
「はあ、つらい」
「何言って」
「ごめん、こんな所だというのに」
「ほ、ほんとだよっ」

 今度は反対に手首を引っ張られて起こされた。

「早く卒業したい」

 卒業までまだ1年以上ある。
 確かにどこにも出られない環境は苦痛だ。朝永の言葉には同意しかなかったのでゆっくりと頷いた。



 *



 契約からほどなくし、俺のネームには継直と同じく赤いラインが刻まれた。そして認識票には朝永の名前が。これでようやく朝永と番になる一歩を踏み出したと実感した。朝永が俺の手の中にいるようだ。眼で見える形とは、なんと心強いことか。

 自分に赤ラインが入ると他のオメガのネームなんかも気になっちゃって、その日の夕食時の食堂で、こっそりとネームプレートに注目してみた。
 3年オメガは赤いラインが入っている人がほとんどだったし、同級生も継直の他に2人が赤いラインが入っていた。同じ教室にいるにも関わらず、なぜ今まで気がつかなかったのか。そんなに朝永に夢中だっただろうか。確かにそれほど仲良くも無かったし、向こうも俺が赤ライン持ちだとは気が付かなとは思うけど。
 そして驚くべきことに1年オメガにも赤ライン持ちがいた。入って半年ほどしかたっていないから、騙されてはいないのかと不安になるな。

 翌朝の朝食時、さすがに継直には見つけられて「オメデトー!」と頭を叩かれた。それ以外は特に何も反応がなかったため、いつも通り過ごした。

 しかし1時間目の終わりに教科書を片づけていると、手元に影が差した。見上げると、2番がぱっちりとした眼を俺に向けていた。俺と2番の関係は、ある意味このクラスでは有名だ。2番の朝永への分かりやすい想いと、朝永と俺の関係のせいで。

「もしかして、それ」

 スッと手が伸びてきて、俺のネームプレートを指した。こんなに早く突っ込まれるとも思っておらず、返答に困って曖昧に笑って視線を落とした。俺と番契約するなら朝永しかいないとは分かっていると思うが、事実確認ということか。

「おい、次選択だし行くぞ」

 継直が俺に振り返り、俺に声を掛けてきた。
 2番が朝永を諦めていないのか、どうなのかよく分からないが、もう俺と契約したのだ。俺はもっと堂々としてもいいはず。朝永の番契約者です、と。

「朝永と番契約したよ。……じゃあ」

 2番の顔は見られなくて、急いでその場から離れた。周りの眼も気になって早く教室から出たかった。継直はすぐに追ってきてくれて、口笛を吹いていた。

「2番ってばすげー顔してたな」
「……見なかったわ」
「あそう。いや、たいした顔してなかったから気にスンナ」
「どっちだよ」
「あはは、ただ泣きそうに見えただけだから」

 泣きそう。そうか、悲しさが出たのか。
 他にもいい人がいるかもしれない、とも言えない。俺は朝永以上の人がいないと思っているから。もともと良好な関係でもないため、慰めもいい訳も2番は望んでいないだろう。俺から、自分の好きな人と番契約した人からの話なんて何も聞きたくないはずだ。
 時間が早く解決してくれることだけを願った。

「殴るよりこっちの方が効果があるみたいだったから殴るのやめるわ」
「殴る予定あったの!?」
「去年の夏からずっと狙ってたけど。お前も殴るみたいなこと言ってなかったっけ。まあ、あの顔見たから良しとする」

 継直もなかなかに執念深い。それだけの事はされたし、2番の態度も酷いものだったが。でもこれで継直はスッキリしてくれてるみたいだし良かった事にしたい。



 選択授業が終わり、渡り廊下を抜けて階段を上ろうとしたときに一瞬寒気がした。なんだと思う間もなく、腕を取られた。瞬間、全身に回る悪寒。咄嗟に腕を振り払い、距離を取った。

「あー、もう、やんなっちゃうよね。本当に契約してやんの」
「あ、おい、古渓さん。マジでそいつ古渓さんアレルギーだからやめてくんない」
「敏感すぎも考え物だね。その点13番は何されても感じなくってすごいよ。不感症もここまでくると才能だ」
「本当に性格悪いですねぇっ!」
「それはお互い様」

 継直が古渓とやり取りをしてくれている間に、壁にピッタリと背中をつけて気持ちを落ち着かせた。

「あのさー、俺らも番契約済みで、フリーの古渓さんの相手なんてしてらんないんですよね」
「いいじゃん。話くらい。……で、何で番契約しちゃったの。北原はまだ16だろ。ガキよ、あいつ。もう少し一緒にいたらあいつの粗が見つかって気持ちがなえちゃうかもしれないのに。早まったことしちゃってさ」
「そーゆーの、大きなお世話って言うんですよ。人の恋路に口挟むやつぁ馬に蹴られて野たれ死んでしまえってね」
「あら、13番はおりこうさんだね。そんなおりこうさんにはこれをあげよう。はい」

 内ポケットから取り出したのは透明の小さなパッケージ。中には緑色のフィルムに覆われたカプセル剤。継直はハッとしてそれを古渓の手から奪い取った。

「あんたつくづく腹立つな」
「ははっ。素直で大変よろしい」

 ああ、継直が古渓にいいように遊ばれている、と思いつつも助けることが出来ない。古渓はわざと俺にいやなものを出してくる。
 これ以上はもうムリと思ったところで古渓が俺に向き直った。寄らないでくれと念じ、必要以上に肩に力が入った。

「あーあ、バカだね、お前。北原に関わることになるなんて。しかもアレは独占欲の塊だろうに。知らない間に息苦しくて窒息死しちゃうかも。ははっ」

 捨て台詞のように吐いて、古渓は去っていった。その後姿が少しずつ遠くなることで漸く肩の力が抜けていった。
 独占欲の塊なんてどんと来い。大歓迎してやる。古渓なんかの思いなんて吹き飛ぶくらい朝永と楽しい生活を送るのだ。
 敵がいなくなってから威勢のよくなる俺。

 錠剤をポケットに入れる継直に、先輩と相談しなよと勝手に口から出た。

「お前が発情期突入したら俺もこれ飲むわ。先輩には言うし」
「一緒の発情期ってこと?」
「そう。お前発情期のとき俺暇だし」
「ああ、なるほど」

 確かに被れば俺も1人でいることがなくなる。

 ここ最近周期がズレまくってるけど、発情始めのあの重だるい感じにも慣れてきたから、発情期がきたら連絡することにした。

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