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2年生編
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しおりを挟む食堂には慣れ親しんだ顔ぶれに、それに新しい顔ぶれが。
早めに食堂へ来ていたため、チキンカツを頬張りながら出入り口を眺めていた。
1年生アルファとオメガ、体格や雰囲気を見てもまったく違うため分かりやすい。オメガはやはり単独行動はせずに、複数人でやってくる。そして視線が定まっていなかった。もしかして俺も去年はこんな風に見られていたのだろうか。確かに眠っている肉食動物の前を通り過ぎる草食動物のような態度だ。古渓なんかにしたらきっといい鴨だったのも分かる。
「あー、1年もこんなところに軟禁されていると頭おかしくなるわー」
ラーメンのチャーシューを箸でつまみながら、継直は大きなため息と共に呟いた。全文同感だ。
「確かに。昔は親と一緒にスーパーの買い物すら行きたくなかったけど、近所の八百屋ですら買い物行きたい」
「俺駄菓子屋行きたい」
「ゲーセンも行きたい」
「靴屋行きたい」
「バット振りたい」
「キャンプしたい」
「雪でかまくら作りたい」
「今日の会話は聞いてると切なくなるね」
「えっ」
「北原っ! 座って座ってー」
小さな、それでいてあと2年は我慢しなければいけない欲望をさらけ出していると、朝永がお膳を持ってやってきた。椋地も。
継直は先輩がいるけど、朝永は別物らしい。
アルファ相手の初恋だそうで、継直は先輩もいないことだし癒しと潤いを安パイで補いたいそうだ。俺の相手だからこそこうやって自由にできるのかも、ありがとうとまで言われた。あまり意味は理解できなかった。
この4人であつまるとだいたい2:2になる。朝永と継直、椋地と俺。いつも通り、椋地と食べている料理について、それもどうでもいいことをポツポツと話しした。
すると珍しく椋地から話題を変えてきた。
「キミのクラスの人。何番だったか忘れたけど、最近よく話しかけられるんだけど」
「え、誰だろ」
「顔もよく覚えてない」
「それ本当によく話しかけられてんの? 番号は?」
「番号は忘れたんだって。ここ2週間、どこかで会えばだいたい声をかけられる」
「番号くらい覚えててあげたら……」
誰かは不明だが、かわいそうに。椋地を気に入ったのだろうか。一筋縄ではいかないこの男を好きになるとはなんとも難儀な……っ。
「キミが何かしたわけじゃないんだね?」
「え、俺は何も」
「そう。ならいいんだ。忘れて」
椋地はそれを最後に、静かに蕎麦をすすり始めた。
なんだろう。俺がけしかけたとか、嫌がらせしてるとか、そんなことを思っていたのかな。
忘れてというが、忘れられるわけがない。そんな気になることを言われておいて。
「単純に椋地がその人に気に入られたんじゃない?」
思ったことをそのまま言ってみたが、椋地は否定した。
「気に入ったとか、そんな感じじゃないね。むしろ俺を使う気満々」
「んー。よく分かんないや」
「うん。キミでなければもういいよ」
「なんで俺と思ったのか……」
「別にキミが何かしたとも思ってなかったけど、何か知っていたら教えてもらおうと思って」
「じゃー番号くらい覚えてなよ」
「それもそうだね」
呆れる俺に、「ははっ」とこれまた珍しく声を上げて笑った椋地。
俺以外の2人も目をでっかくして椋地を見た。分かる。分かります。
スッと表情を戻した椋地は何事もなかったかのように蕎麦を食べ始めた。
椋地ってばこんな感じでいつも分かりにくいけど、俺のことを絶対に番号で呼ばないし、本当にいい人なんだろうな。だからこそ椋地にも幸せになってもらいたいとまたお節介が頭を過ぎる。
しかし椋地を使う気満々だというオメガの生徒は誰なんだろう。ちょっとだけ興味があるから注意してみるか。
しかし普段から椋地を注意して見ているわけではないので誰が椋地に近寄っているのかサッパリ分からなかった。
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