30 / 38
30
しおりを挟む
「あのー……どこに行くのかしら?」
私を抱き抱えたまま歩くコンラートの目的地はてっきり私の部屋だと思っていた。だって「部屋で休む」って言ってたし。
でも彼の足は真っ直ぐに玄関に向かっている。
「あの、もしかして王宮だったりするかしら?」
部屋ってコンラートの部屋のことかも。
その可能性を考えて、ちょっと困る。だって状況が状況だったから私はなんの用意もしていない。着ているのだって普段着だ。
コンラートは私が話しかけても笑っているだけでちっとも返事をしてくれない。ずんずんと歩を進めてやっぱり玄関にやってきた。そしてそのまま、彼が乗ってきた王家の馬車に乗り込もうとした。
「コ、コンラート、ちょっと待って。馬車はだめよ!」
私のいつになく強い口調に片足を馬車のステップにかけたまま、彼の動きが止まる。
「だって御者も馬も王宮に向かってる途中で方向転換して、全速力で伯爵家に戻ってきたのでしょう?きっととても疲れているわ。それなのにまた王宮に戻るなんて!」
非難するのを示すように大袈裟に眉をあげると、数秒沈黙した後、コンラートが爆笑した。
「まったく!ラーラってば相変わらずだな。くくっ、本当に変わらない。ラーラらしくって、ふふっ」
ひとしきり笑った後にそのまま馬車に乗り込んで私を膝に乗せる格好で座ったけれど笑いはおさまっていない。
「な、なによ。そんな笑うことじゃないわ。それに御者や馬の負担を考えるのは主人として、」
「ああ、当然だな。だから大丈夫だ。向かう先も王宮よりずっと近いし。今度はゆっくりで構わないから薔薇館に向かってくれ」
私のを引き継いだ言葉はその後半御者への指示になったらしい。
馬車はゆっくりと進み出し、コンラートは一息ついたのか、大きく息を吐いて背もたれにもたれてリラックスする姿勢になったけれど私の疑問は解決していない。なんなら疑問は増えている。
「ねぇ、それでどこに行くの?王宮のコンラートの部屋じゃないの?薔薇館ってどこ?この近くにそんな館はないはずだわ?」
コンラートの襟元に手を置いて一気に詰め寄った。だってさっきはちっとも返事をくれなかったから、逃げられないように聞こうと思ったのだ、けど。
「ラーラって積極的だったんだね。それとも昨夜のキス、そんなに気持ちよかった?」
至近距離で嬉しそうな様子のコンラートはさっきアディール様に対していたのを忘れたよう。ダダ漏れの色気を見せるようにぐっと顔を近づけた。
「ちちちち違うわっ。ちゃんと返事を……」
啄むようなキスで私を黙らせると、満足気な顔で右の口角を上げた。
「答えはお利口さんにして、もう少し待ってからだ」
私を抱き抱えたまま歩くコンラートの目的地はてっきり私の部屋だと思っていた。だって「部屋で休む」って言ってたし。
でも彼の足は真っ直ぐに玄関に向かっている。
「あの、もしかして王宮だったりするかしら?」
部屋ってコンラートの部屋のことかも。
その可能性を考えて、ちょっと困る。だって状況が状況だったから私はなんの用意もしていない。着ているのだって普段着だ。
コンラートは私が話しかけても笑っているだけでちっとも返事をしてくれない。ずんずんと歩を進めてやっぱり玄関にやってきた。そしてそのまま、彼が乗ってきた王家の馬車に乗り込もうとした。
「コ、コンラート、ちょっと待って。馬車はだめよ!」
私のいつになく強い口調に片足を馬車のステップにかけたまま、彼の動きが止まる。
「だって御者も馬も王宮に向かってる途中で方向転換して、全速力で伯爵家に戻ってきたのでしょう?きっととても疲れているわ。それなのにまた王宮に戻るなんて!」
非難するのを示すように大袈裟に眉をあげると、数秒沈黙した後、コンラートが爆笑した。
「まったく!ラーラってば相変わらずだな。くくっ、本当に変わらない。ラーラらしくって、ふふっ」
ひとしきり笑った後にそのまま馬車に乗り込んで私を膝に乗せる格好で座ったけれど笑いはおさまっていない。
「な、なによ。そんな笑うことじゃないわ。それに御者や馬の負担を考えるのは主人として、」
「ああ、当然だな。だから大丈夫だ。向かう先も王宮よりずっと近いし。今度はゆっくりで構わないから薔薇館に向かってくれ」
私のを引き継いだ言葉はその後半御者への指示になったらしい。
馬車はゆっくりと進み出し、コンラートは一息ついたのか、大きく息を吐いて背もたれにもたれてリラックスする姿勢になったけれど私の疑問は解決していない。なんなら疑問は増えている。
「ねぇ、それでどこに行くの?王宮のコンラートの部屋じゃないの?薔薇館ってどこ?この近くにそんな館はないはずだわ?」
コンラートの襟元に手を置いて一気に詰め寄った。だってさっきはちっとも返事をくれなかったから、逃げられないように聞こうと思ったのだ、けど。
「ラーラって積極的だったんだね。それとも昨夜のキス、そんなに気持ちよかった?」
至近距離で嬉しそうな様子のコンラートはさっきアディール様に対していたのを忘れたよう。ダダ漏れの色気を見せるようにぐっと顔を近づけた。
「ちちちち違うわっ。ちゃんと返事を……」
啄むようなキスで私を黙らせると、満足気な顔で右の口角を上げた。
「答えはお利口さんにして、もう少し待ってからだ」
6
お気に入りに追加
542
あなたにおすすめの小説
王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。
みゅー
恋愛
王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。
いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。
聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。
王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。
ちょっと切ないお話です。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
不要なモノを全て切り捨てた節約令嬢は、冷徹宰相に溺愛される~NTRもモラハラいりません~
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
皆様のお陰で、ホットランク一位を獲得しましたーーーーー。御礼申し上げます。
我が家はいつでも妹が中心に回っていた。ふわふわブロンドの髪に、青い瞳。まるでお人形さんのような妹シーラを溺愛する両親。
ブラウンの髪に緑の瞳で、特に平凡で地味な私。両親はいつでも妹優先であり、そして妹はなぜか私のものばかりを欲しがった。
大好きだった人形。誕生日に買ってもらったアクセサリー。そして今度は私の婚約者。
幼い頃より家との繋がりで婚約していたアレン様を妹が寝取り、私との結婚を次の秋に控えていたのにも関わらず、アレン様の子を身ごもった。
勝ち誇ったようなシーラは、いつものように婚約者を譲るように迫る。
事態が事態だけに、アレン様の両親も婚約者の差し替えにすぐ同意。
ただ妹たちは知らない。アレン様がご自身の領地運営管理を全て私に任せていたことを。
そしてその領地が私が運営し、ギリギリもっていただけで破綻寸前だったことも。
そう。彼の持つ資産も、その性格も全てにおいて不良債権でしかなかった。
今更いらないと言われても、モラハラ不良債権なんてお断りいたします♡
さぁ、自由自適な生活を領地でこっそり行うぞーと思っていたのに、なぜか冷徹と呼ばれる幼馴染の宰相に婚約を申し込まれて? あれ、私の計画はどうなるの……
※この物語はフィクションであり、ご都合主義な部分もあるかもしれません。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
【本編完結】番って便利な言葉ね
朝山みどり
恋愛
番だと言われて異世界に召喚されたわたしは、番との永遠の愛に胸躍らせたが、番は迎えに来なかった。
召喚者が持つ能力もなく。番の家も冷たかった。
しかし、能力があることが分かり、わたしは一人で生きて行こうと思った・・・・
本編完結しましたが、ときおり番外編をあげます。
ぜひ読んで下さい。
「第17回恋愛小説大賞」 で奨励賞をいただきました。 ありがとうございます
短編から長編へ変更しました。
62話で完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる