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「あのー……どこに行くのかしら?」

私を抱き抱えたまま歩くコンラートの目的地はてっきり私の部屋だと思っていた。だって「部屋で休む」って言ってたし。
でも彼の足は真っ直ぐに玄関に向かっている。

「あの、もしかして王宮だったりするかしら?」

部屋・・ってコンラートの部屋のことかも。
その可能性を考えて、ちょっと困る。だって状況が状況だったから私はなんの用意もしていない。着ているのだって普段着だ。

コンラートは私が話しかけても笑っているだけでちっとも返事をしてくれない。ずんずんと歩を進めてやっぱり玄関にやってきた。そしてそのまま、彼が乗ってきた王家の馬車に乗り込もうとした。

「コ、コンラート、ちょっと待って。馬車はだめよ!」

私のいつになく強い口調に片足を馬車のステップにかけたまま、彼の動きが止まる。

「だって御者も馬も王宮に向かってる途中で方向転換して、全速力で伯爵家うちに戻ってきたのでしょう?きっととても疲れているわ。それなのにまた王宮に戻るなんて!」

非難するのを示すように大袈裟に眉をあげると、数秒沈黙した後、コンラートが爆笑した。

「まったく!ラーラってば相変わらずだな。くくっ、本当に変わらない。ラーラらしくって、ふふっ」

ひとしきり笑った後にそのまま馬車に乗り込んで私を膝に乗せる格好で座ったけれど笑いはおさまっていない。

「な、なによ。そんな笑うことじゃないわ。それに御者や馬の負担を考えるのは主人として、」

「ああ、当然だな。だから大丈夫だ。向かう先も王宮よりずっと近いし。今度はゆっくりで構わないから薔薇館に向かってくれ」

私のを引き継いだ言葉はその後半御者への指示になったらしい。
馬車はゆっくりと進み出し、コンラートは一息ついたのか、大きく息を吐いて背もたれにもたれてリラックスする姿勢になったけれど私の疑問は解決していない。なんなら疑問は増えている。

「ねぇ、それでどこに行くの?王宮のコンラートの部屋じゃないの?薔薇館ってどこ?この近くにそんな館はないはずだわ?」

コンラートの襟元に手を置いて一気に詰め寄った。だってさっきはちっとも返事をくれなかったから、逃げられないように聞こうと思ったのだ、けど。

「ラーラって積極的だったんだね。それとも昨夜のキス、そんなに気持ちよかった?」

至近距離で嬉しそうな様子のコンラートはさっきアディール様に対していたのを忘れたよう。ダダ漏れの色気を見せるようにぐっと顔を近づけた。

「ちちちち違うわっ。ちゃんと返事を……」

啄むようなキスで私を黙らせると、満足気な顔で右の口角を上げた。

「答えはお利口さんにして、もう少し待ってからだ」

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