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就活の難しさは予想外

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アルノーは小さな頃から穏やかで、別の言い方をするとのんびりおっとりした子だった。反面、勉強は物凄く出来たから、神童とうたわれる第二王子の学友に推挙されたのだけど。
一個しか歳が違わないのにほとんど喧嘩したこともないし、小さな私が癇癪を起こした時もじっとそばにいてくれた優しい弟。いつもニコニコとしていて、我儘も言わなくて。だから私はちょっと心配してたくらいなのだ。
コンラートとは別の意味で感情が顔に出ない、子供の時から感情を表に出さない子供だったから。

なのに今、目の前で侯爵にアルノーは怒っている?

「姉さんとうちの両親の人の良さに付け込んで、上手く説得しようなんて虫の良い事を考えてはいませんよね?」

流石の物言いにお母様はオロオロとアルノーと侯爵夫妻の間で視線を彷徨わせている。
ええ、そのお気持ちもの凄ーく分かります。だっていつも物足りないくらいに穏やかなアルノーが怒ってるなんて、天変地異の前触れか!?ってレベルですもの。私だってさっきから、あんぐりと開いてしまいそうな口を必死に閉じている。

「ーーー確かに、恥知らずは行動をしているとは思う。だが、私も妻もラーラ嬢を気に入っているし、是非とも息子の嫁として嫁いできて欲しいという気持ちに変わりはないのだよ。確かにアディールは今、他の女性にうつつを抜かしているが、それも一時的なものだ」

アルノーの失礼な態度に怒ることもなく真摯に返事をしてくれる侯爵に、でも彼は大きなため息で答えた。

「僕としてもクラフェス侯爵夫妻に恨みがあるわけではないのです。勿論、もう少し御子息の教育に注意されるべきだったとは思いますが、それは今論じることでもないでしょう。ただ、婚約破棄の件は別です。昨日の今日ですし、姉も僕たち家族も相応なショックを受けている。考える時間が必要なのはご理解頂けるでしょう。今はおかえり頂き願いたい」

きっぱりと言い切って、徐に応接室の扉を開けた。

「誰かあるか。お客様がお帰りになる。お見送りの準備を」

扉の外では間髪入れずにキビキビした返事が返ってきたのをみると、きっとみんな心配してこの部屋の様子を伺っていたのだろう。
いつも良くしてくれる使用人達に心の中で感謝していると、向かいで立ち上がる気配がした。

「確かにラーラ嬢やレイランス伯爵家の御心痛を考えれば、今は退散すべきなのでしょう。また、改めて伺います」

深く一礼した夫妻が帰っていく。
お父様達はお見送りに、と一緒に玄関ホールに行ったけれど、私は席を立たなかった。
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