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婚約破棄は想定内

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馬車が我が家に着いた時、あまりの安心感と安堵感に脱力してしまった。とは言え、まだ気を抜く訳にはいかない。

「ラーラ。降りられないなら抱いて移動するか?」

だって一足先に馬車を降りたコンラートがエスコートするための手を差し出して待っているから。

「だだだだだ抱き上げてって!そ、そんなの、必要ないわよ。大丈夫だから、ちゃんと降りて自分の足で歩けるもの」

「そうか。せっかく鍛えた身体を身をもって体感してもらいたかったのに残念だな」

クスクスと笑う姿が格好良くてタチが悪い。だってなんだか視線も優しいし。
文句は飲み込んで力を振り絞って立ち上がったけれど、本当はもう座り込んでしまいたいくらい疲れてる。

王宮の園遊会に行くのだってその準備から大変だ。しかも今日はその場で婚約破棄の宣言をされて、一人で落ち着こうと立ち寄った秘密基地では別人レベルで大人になったコンラートに会い、その後は場所を変えてしっかりと事情聴取をされた。
それはもう念入りで、根負けした私はアディール様の過去のオイタの数々まで残らず吐き出してしまった。だってエピソードが増えるたびにコンラートが纏う空気がどんどん温度を下げていくから、最後は泣きそうになってしまうレベルで怖かったのだ。

そんな恐怖の事情聴取を終えて、私はやっと帰宅したのだ。ただ今日は珍しくアディール様にエスコートされて一緒の馬車で王宮に行ったので帰りの馬車がなくて、コンラートに送ってもらったのだけど。

「急な訪問ですまないが、ラーラはとても疲れているのですぐに休ませてやってくれ」

王家の馬車で帰宅した私達を驚きながら出迎えてくれた執事や侍女にそれだけ告げて、コンラートはまた馬車に乗り込んだ。

「ラーラ、今日はゆっくり休むんだ。今後の話はまた次の機会に」

爽やかな笑顔は12歳の皮肉屋のコンラートのものでも、さっきまで私に尋問していた怖いコンラートのものでもなく、その場にいる老若男女全てを虜にするような極上の笑みで。
勿論私も心臓に物凄い衝撃をくらったのでした。


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