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婚約破棄は想定内

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用心し過ぎて、用心するところを間違えてしまった。

あえて明るい口調で、さっきからのヘラヘラ笑いも続けていたのに。アディール様を非難しないことに集中していた私はうっかりと失言してしまった。しかも頭脳明晰なコンラートがそれを見逃してくれることは、ない。

「た、多分!そう、多分なんだけどね……」

「ーーーラーラ。分かってるだろうが素直に話した方がいい」

言い淀む私をコンラートが追求してくる。
うん、そうよね、知ってる。だって12歳の時のコンラートでさえ、自分が知りたいと思った時の追求は容赦がなかった。こんな大人になった彼が、地を這う声で問う彼が怒ってないはずないし。

迷ったのは、瞬間。私はコンラートへの畏怖の前に、アディール様の身の安全を諦めた。だって本当に怖い。

「ーーー正直に言うとね、半年くらい前から噂は知ってたの。アディール様は元々、複数の女性と気軽に遊ぶタイプなのに、最近は一人の女性とばかり会ってるって。その方は私も何度か見かけたことがある人でね、守ってあげたくなるような華奢で可憐で控えめな令嬢でなの。子爵家の御令嬢なのだけど、ふわふわなハニーブロンドと淡い青の瞳が綺麗で」

経営を学び、政にも興味を示す私を「小賢しい」と一蹴する彼はきっと彼女みたいに無垢な女性が好きなんだろう。彼女を守り男性としての優越感を得たのかもしれない。

初めて彼女の存在を知ったときはやっぱりショックだった。沢山の女性と浮名を流されるよりもショックだったのは、アディール様が本気で彼女を愛していて、私は一生誰からも愛されない人生を送るのだと思ったから。
他の女性に愛を誓った人と祭壇で神様に偽りの愛を誓って結婚するのか、そんな愛しか私は手に入れられないのか、と隠れて泣いたこともある。

「私に特別な魅力がないことはとっくに知っていたし、それを指摘されるのは特に辛いことじゃなかったの。勿論、嬉しくはなかったけれど、私に求められているのが別のものだと理解していたもの」

社交界で輝く美しさよりも領地や家を管理する能力。夫を魅了する容姿や色香よりも領民や使用人から信頼される堅実さを感じる容姿。

改めて人に説明するとやっぱり切なくて悲しいかも。どんどん表情が作れなくなって、顔が下を向いていく。
すると、急に隣のコンラートが立ち上がった。

「込み入った話だ、場所を移そう。ここはラーラにそんな悲しい顔をさせる場所であってはならない」
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