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婚約破棄は想定内

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どうしようも無い事ってある。
そう思わないとやってられないし、きっとそれが真理だもの。

でも、と思う。
社交界で人気の侯爵令息から婚約破棄された私には今後、有る事無い事噂が出回るのは確実だろう。沢山の人がそれを面白おかしく話す状況で私にまともな縁談が来るとも思われない。来たとして歳の離れた人か寡夫の再婚相手くらいだろうし、それは介護や子育ての役割を期待してだ。
我がレイランス伯爵家は控えめで堅実な家風だと評判だから問題を起こしそうにはないだろうし、とそこまで考えてふふっと笑ってしまった。

「婚約破棄されておいて問題を起こしそうにない、はないわね」

良い縁談に恵まれずに結婚出来ない貴族令嬢は生涯実家で厄介になるか修道女になるかの二択が一般的だけど、王宮で宮女として働くって道もある。私は王宮にツテもあるし、その道もアリじゃない?うん、ここはちょっと落ち着いて考えよう。

そうと決まれば行く先変更だ。王宮の出口に向かっていた私は曲がれ右をして、とっておきの場所を目指した。

そこは私が子供の時に発見して、ずっと秘密の場所として使っている場所。結構な頻度で王宮に来ていた子供時代に辛いことがあった時もサボりたい時も私を隠してくれた。
王宮の西の端、薬草や新種の野菜を少しだけ栽培している研究用の畑には興味を持つ人も見に来る人もほどんどいない。だから大きく茂った薬草の影でじっと考え事をしても昼寝しても見つからずに済むし、事実そこで人に会ったことはほぼない。子供時代、その場所にどれくらい助けられたか分からないくらいお世話になった私の避難場所。

でも、久しぶりにやってきた秘密基地には先客がいた。

遠くから見る背中は大きくて、背も高そうだ。漆黒の髪は長くて、後ろで無造作に一つに縛っている。長い手足をシンプルな洋服に包んで薬草畑をじっと見ているその人は、どうやら早々に立ち去ってはくれなさそうだ。

残念だけど今日は秘密基地で癒されるのは難しそうだと立ち去ろうとした時、急に大きな背中が振り返った。

「ラーラ?」

不意に名前を呼ばれてそちらを見たが、その男性の顔に見覚えはない。見知らぬ人に名前を呼ばれるなんて……っと思った時、その右眉が皮肉気に上がるのが見えた。

「コンラート?」

5年前、12歳の時に見送ったその人は、私が名前を呼んだ瞬間嬉しそうに笑った。
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