上 下
6 / 10

第6話「暗黒騎士デュラハン」

しおりを挟む
 一本道の通路を抜けた先に、少々広い広間が見える。
 広いといっても、大人が10人も居れば流石にきゅうくつになりそうな広さではあるが。
 薄暗くて、部屋の全貌が見えないな。

「リア。ちょっと待ってくれ」

「どうしました?」

 そのまま広間に入っていこうとするリアの腕を掴み、一旦止まるように指示する。
 こういう時は、大抵モンスターが物陰に潜んで待ち伏せをしようとしている事が多い。
 ゴブリンやコボルドはたいした知恵を持っていないが、たいしたことない知恵でもそれくらい考えることは出来る。あくまでゲームの中での話しだが。
 初心者が待ち伏せを受けて全滅する事は少なくない。これがゲームなら良いが、現実では全滅=死だ。
 警戒するに越したことはないはずだ。

「モンスターが物陰に隠れて待ち伏せしている可能性がある、灯火トーチカの魔法を使う」

「待ち伏せ? 灯火の魔法?」

「あぁ、光の玉が出て部屋の中を照らす魔法だ。もし物陰にモンスターが潜んでいたらソイツを倒してくれればいい」

「もし居なかったらどうします?」

「楽が出来たと、喜びを分かち合おうか」

 この広さなら隠れれたとしても3,4体。それならリア一人で何とかなるだろう。
 この時俺は、警戒しているつもりで、どこか自分を過信していたのだろう。
 何とかならない場合もあるということを、俺は失念していた。

 灯火で照らした広間には、確かにモンスターが待ち伏せをしていた。
 暗闇に紛れた黒い影があらわになる。 
 漆黒の鎧を身に纏い、真っ赤な剣を携え、身の丈2mはあるかという騎士。
 そして一番の特徴である”頭が無い”事で、こいつが何かわかった。暗黒騎士ダークナイトデュラハンだ。

 ただのデュラハンであったなら、リアでも倒せるだろう。 
 その程度のモンスターなら俺の回復で十分間に合う程度の相手だ。しかし、目の前に居るのは、ボスとして出現する暗黒騎士デュラハン。
 本来はパーティを組み、役割を決めてやっと倒せるほどの強力なモンスターが何故ここに?
 道中があまりに楽すぎたせいで、どうせこの先も雑魚ばかりだろうとタカを括っていた。それが俺の一つ目のミスだ。
 そしてもう一つのミスは。

「たぁあああああああ!!!!!!!」

 勝てない相手だった場合、撤退する事を伝えていなかった事だ。

「おい。ちょっ、待て」

 俺の制止が聞こえていないのか、勇ましくも暗黒騎士デュラハンに斬りかかるリアだが、一合の打ち合いだけで吹き飛ばされてしまう。当然の結果だ。レベルが違いすぎる。
 慌てて駆け寄り、ヒールをかける。吹き飛ばされはしたが大きな怪我はしてないようだ。
 アイツは襲い掛かってくる様子が無い。代わりに俺がヒールを唱えている間に通路側に向かって歩き。俺たちの逃げ道を塞いでくれやがった。
 リアを連れて逃げようにも、通路は使えない。
 じゃあ広間の先にあるドアか?
 いやダメだ。ドアの鍵が開いている保証が無い。それにドアを抜けた先に何が居るのかもわからない。
 それにゲームと違ってこいつもドアを抜けてくるだろう。今しがた油断してコイツとエンカウントしたばかりなのに、これ以上軽はずみな行動で事態を悪化させるわけには行かない

「いざ、尋常に勝負」

「……あんた、喋れるのか?」

「然り」

 会話に応じてくれるということは、それなりに理性があるということか。

「えっと、ちょっと待ってくれる? アンタは万全な状態で戦いたいだろ?」

 俺たちが動くのを待っているということは、こいつなりに騎士道精神みたいなものがあるのだろう。
 このまま有無を言わさず襲い掛かられていたら、終わっていただろう。

「構わん」

 どうやらOKみたいだ。
 何とかこの場は繋げたが、今も尻餅をついているリアに話しかける。

「いけるか?」

 俺の問いかけに、ゆっくりと首を横に振る。
 見開いた目には涙が溜まっており、問いかける俺に見向きもせず、暗黒騎士デュラハンを凝視して体を震わせている。
 ダメだ。完全に心が折れている。

「降参するんで、逃がしてください。ってのはダメかな?」

「降参するならば、今すぐ殺す」

 そう言って一歩を踏み出そうとするのを「ちょっと待った、今の無し」と必死に呼び止める。
 降参するのは無しか。
 しょうがない、本当はあまりやりたくないが、緊急事態だしやるしかないか。
 
「なぁ、それじゃあ二人でアンタと戦う、ってのは有りか?」

「構わん」

「そうか、わかった。じゃあもうちょっとだけ待ってくれ」

 無言だけど、襲い掛かってくる様子は無いからOKと受け取ろう。
 俺はリアの視線から暗黒騎士デュラハンが見えなくなるように移動し、しゃがみ込む。

「リア。今までありがとな」

「えっ」

「このままじゃ二人死ぬだけだ。だから俺がアイツに向かって飛び掛る。そしたらお前は通路から逃げてくれ」

 もしも俺が逃げ切れたとして、この小さな剣士を見捨てて逃げた回復術士なんかをパーティに入れてくれる冒険者なんて居ないだろう。それじゃあ結局、俺が積んでる事には変わりは無い。
 生き残った先で罵倒を受け、惨めに死んでいくくらいなら、せめて格好くらいつけたってバチは当たらないだろう。もしかしたらまた転生させてもらえるかも。なんてのは流石に甘い考えか。

「逃げ切れたら応援を呼んで欲しいんだ。別に俺はこんなところで死ぬ気なんて無いから安心してくれ。あんなやつの攻撃くらい平気で耐えれるが、この通り攻撃手段が無いのでね」

 もちろん嘘だ。
 しばらく持ちこたえることは出来るだろうが、それくらいが限度だ。

「でも」

「お前だけが頼りなんだ。怖いだろうけど頑張ってくれ」

 優しく頭を撫でる。
 少しだけボーっとした様子で俺を見た後、リアは涙をぬぐい力強く頷いてくれた。
 リアの手を引き、ゆっくり立ち上がらせる。
 
「準備は出来たか?」

 俺は自分の装備を確認する。
 ワルキューレシリーズを改良し自分好みの見た目にした鎧、盾、コート。どれも一般プレイヤーからしたら高価な装備だが、それでも暗黒騎士デュラハンを相手にするには心もとない。せめて神器シリーズの一つや二つ持っておくべきだった。
 そんなことを考えて苦笑するしかない。

「いざ尋常に」

「勝負」

 暗黒騎士デュラハンがこちらに向かって走り出すのに合わせ、俺も盾を構えて走り出す。

「リアも、戦う」

「えっ」

 走り出した俺の横を、リアがついて来ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!

鏑木 うりこ
ファンタジー
 幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。 勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた! 「家庭菜園だけかよーー!」  元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?  大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり
ファンタジー
この星は、フロンティ。 そこは新神女神が、色々な世界の特徴を混ぜて創った世界。 禁忌を破り、世界に開けた穴が騒動の元になり、一人の少年が奇跡を起こす。 ある少年の、サクセスストーリーです。 この物語は、演出として、飲酒や喫煙、禁止薬物の使用、暴力行為等書かれていますが、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。またこの物語はフィクションです。実在の人物や団体、事件などとは関係ありません。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

処理中です...