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第3章

第9話「キミたちが強すぎるからだ。手に余ると言っても良い」

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 寝不足でやや気怠い体を起こし、ギルドまでやって来た。
 道中ベルが心配そうに声をかけてきたが「まだ疲れが取れていない」と言って誤魔化した。
 実際、寝不足だから疲れが取れていないのは本当だが、それ以外にも疲れる原因がある。

 その原因モルガンはというと、極力俺を見ないようにして、クーに構ったりしている。
 まぁ、話しかけられても普段通り対応できる自信がないから、ありがたくはあるのだが。


 ★ ★ ★



「と、報告はこんな感じだ」

「はい。報告完了しました。お疲れ様です」

「それとこれは中の地図だ。どの部屋に何があったか書き足しておいた」

「ありがとうございます。討伐隊が正式に組まれるでしょうから、その際に活用にさせて頂きます」

 俺から手書きの地図を受け取り、ニーナは部屋の奥へ入って行った。
 しばらくすると、ニーナと共に、貴族みたいな白いタキシードスーツを着た男が、にこやかな笑みを浮かべて出てきた。このギルドのギルドマスターだ。

「やぁ、こんにちわ」

 線の細そうな感じで、一見華奢なイメージを受けるが、これでも元Sランクの冒険者だ。
 弱そうな見た目をしているため、優男と勘違いをして喧嘩を売る冒険者は少なくはない。
 そして、その全てが返り討ちにされている。

「そちらのお嬢様方は初めましてだね。私はこのギルドのマスター、ゾルです」

 ゾルが頭を下げると、ベル達も頭を下げて自己紹介をした。

「キミたちの話は色々聞いてるよ。タイガーベアを駆除してくれたり、この辺り一帯の魔物を一掃してくれたりね」

「恐縮です」

 うんうんと頷きながら、俺達をじっと見つめ、人懐こい笑みを浮かべる。
 わざわざギルドマスターから出張って来たのだ。ちょっと顔を見に来ただけではないだろう。
 
「少し話がしたいんだ。良かったら奥の部屋に来てもらえるかい?」

 出来れば行きたくないが、そうもいかないのだろうな。
 行くしかないか、とりあえずベル達にも確認だけは取っておこう。
 もしベル達が嫌なら、代表として俺だけが行く形でも納得させられるだろう。

「そうそう。丁度良いお茶とお茶菓子も入ったんだ。良ければ食べていくかい?」

「クー行くぞ!」

「えっと、それじゃあボクも」

 食い物につられたクーが元気に返事をすると、ベルが釣られたように返事をする。
 しっぽが少し揺れてるのを見ると、お茶菓子に興味はあるようだ。
 モルガンはどうするか聞こうとして、目が合った。

「では私もご相伴にあずかります」

 そのままプイっと目を逸らされた。 
 そんなあからさまに意識されると、俺まで意識してしまうのだが……

「おや? おやおやおや?」

 うるさい黙れ。

「確認させてもらいますが、話というのは勿論”仕事”の話ですよね?」

「それ以外の話はだめかい?」

「プライベートな話題は、避けて貰えると助かります」

「やれやれ。仕方がありませんね」

 そう言って、奥の部屋へ入って行く。


 ★ ★ ★


 連れて来られたのはギルドマスターの部屋だ。
 部屋の入り口には女が控えている。

「彼女は秘書のようなものでね。気にしないで好きな所に座ってくれ」

 机を挟んで大き目のソファが4つある。
 俺はギルドマスターの対面に座り、その両脇のソファにベル達が座った。

 俺達が座ると、女がそれぞれの机の前にカップが置き、コップに紅茶が注ぐ。
 全員に注ぎ終わると、一礼し部屋の外へ出て行った。

 カップの横には、先ほど言っていたお茶菓子が並べられている。
 クーとベルは話そっちのけで、既にお茶菓子をガン見だ。

「キミたちに話というのは3つある」

 お茶菓子に手を付けようとしたベル達の動きが止まったのを見て、「食べながら聞いてくれていい」と苦笑している。

「まず1つ目、彼女達の冒険者ランクを上げて欲しいとの事だが、今回の依頼で十分すぎる程の成果を上げている。Dランクへの昇格を認めよう」

「ふぉんふぉふぇすか!?」

「しゃべるなら食い終わってからにしろ」 

「ふぁい」

 返事をして、ベルはそのままお茶菓子を食べる事を再開した。
 流石にギルドマスターも苦笑を浮かべているが、まぁいい。

「それで、2つ目は?」

「そうだね。2つ目なんだけど、ドーガ達の処遇についてだ」

「ドーガ達の処遇?」

 それが俺達に何の関係があるのだろうか?

「彼らは以前、キミに対し酷い事をして悪いウワサを流したようだね」

「えぇ、まぁ……」

「パーティ内の不和でもあるし、その時は証拠不十分だからギルドとしては何も言えなかった。正直すまない」

「いや、パーティの問題だ。ギルド側が気にする必要はない」

「そう言ってもらえると助かるよ。ただ今回の件でミーシャが『ドーガ達にハメられた』『囮にされた』と言ってるそうなんだ」

「はぁ」

 その辺りの話は俺達も直接ミーシャ本人から聞いている。
 ただ、それも証拠になりえないだろうな。囮を買って出たが、その辛さに耐えきれず仲間を恨んでいる可能性もあると取られる。

「だが、申し訳ない事に彼女の虚言である可能性も捨てきれない」

「でしょうね。そもそも、危険な状況下なら、もしその通りでも仕方ないと思われるでしょうし」

 誰か一人を犠牲にすれば助かる。そんな状況になったのなら仕方がない。
 結局の所、それもパーティ内の不和でしかない。
 
「まぁそれ以外にも彼女に酷い仕打ちをしていたらしくてね。どこまで真実かどうかは分からないけど、捨て置くことは出来ない。なので彼らがもし、また何か悪さをしたと情報が入ったら、冒険者資格のはく奪を考えている」

「そうですか。分かりました」

 頭を下げる。
 ドーガ達の事はどうでも良いが、俺の事を気にして考えてくれていた事には感謝している。

「そして3つ目なんだが……」

 一つ咳払いをして、言いにくそうにしている。

「他の街のギルドへ出向いて欲しい」

 それはつまり。

「それは、ここから出て行って欲しいという事ですか?」
  
「単刀直入に言うとそうなるね」

 モルガンが口を挟む。

「どうしてか、理由をお尋ねしても宜しいでしょうか?」

「そうだね」

 笑みを消し、ギルドマスターは真剣な顔になった。

「キミたちが強すぎるからだ。手に余ると言っても良い」

 近隣の魔物を狩りつくす勢いで討伐し、なんならタイガーベアといった魔物まで討伐している。
 最近では俺達の真似をして無茶な狩りをしようとしたり、タイガーベアに挑んで負傷した者まで出たとか。
 Eランクの彼女たちと、噂では役立たずの俺がやれたのだから、自分たちでも出来る。そう思い込む連中が少なくはないらしい。

「それに、キミたちが留まったとしても、ここいら一帯の魔物はたいして強くない。ランクを上げるには不便だろうしね」
  
 このまま居座られたら、他の冒険者に悪影響が出る。
 冒険者ランクを上げてやるから出て行ってくれという事だろう。

 実際、ランクを上げるのに不便というのは、ギルドマスターの言う通りでもあるしな。
 良くてC、頑張ってもBまでしか上がらない。

 ここで変に妬みを買いながらランクを上げるよりも、適性ランクの仕事が多い場所に行けばランクも上げやすい。
 ランクが上げやすい場所なら同じランクの冒険者が多いから、妬みを買う事もない。
 
「分かりました」

「街を出るときは教えてもらえるかい。せめて私から一筆書かせて欲しい」

「ありがとうございます」

 その後は少し世間話をしてから、俺達は部屋を出た。
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