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第3章

第4話「俺が『隠密』スキルで後ろから斬りかかる」

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 ゆっくりと歩を進めながら洞窟の中を進んでいく。
 洞窟の中を歩くのは初めてだからか、ベル達は挙動不審気味だ。
 足元を確認したりしてるからか、時折「ヒッ!」と小さい悲鳴が漏れたりする。

 ゴブリンにバレるから出来るだけ声を出さないようにして欲しいが、いきなりこんなのに慣れろと言うのも酷な話か。
 人差し指を口の前に当てて「シーッ」と、一応程度に注意はしておく。
 口に手を当てて必死に声を出さないようにしているのだから、その点は評価しておくべきだな。

 今回の依頼で一つの課題が出来た。
 この依頼が終わったら、洞窟に入る依頼をいくつか受けて慣れさせておくべきだな。

「そろそろ暗くなってきたな」

 完全にその外の明かりが届かなくなり、明かりはそこら辺に乱雑置かれて燃えている松明だけだ。
 ゴブリンは夜目が効くため、あまり明かりを必要としない。なのでおいてある松明はごく僅か。
 落ちている松明を持って歩けば多少は楽だろうが、ゴミや汚物まみれだから触りたくない。

「モルガン、杖をこっちに向けて貰って良いか?」

「分かりました」

 俺が小声で話しかけると、モルガンもそれにならい、小声で返事をしてくれた。
 頭に「?」を浮かべながらも、素直にこちらに杖を向けてくれる。

「『灯火トーチ』」

 魔法使い系の生活スキル『灯火』スキルでモルガンの杖の先端を光らせる。
 明るさは松明と同じ程度。指定の場所を光らせる事が出来るので、武器などを光らせればわざわざ松明を持つ必要も無くなるので、結構便利だ。
 剣の先端を光らせれば、鞘にしまうだけで光を消したりも出来る。 

 ゴブリンは夜目が効くから、わざわざ明かりを消す必要もないのでモルガンの杖を光らせた。
 対象をモルガンの杖にした理由は武器や盾を光らせると、戦闘中にまぶしくて目がくらむからだ。
 直接戦闘しない彼女に明かりを持たせるのがベストだろう。

 彼女もその事を理解しているのか、なぜ自分にやったのか聞いてこない。
 それどころか、俺達の邪魔にならない位置に移動しながら歩き出した。本当に聡い子だ。

「それとモルガン。もう一つお願いがあるが良いか?」

「なんでしょうか?」

「『探索《サーチ》』スキルでおおよその地図を作るから、5歩ごとに杖で軽く地面を付いて欲しい。叩くのは壁でも構わない」 

 俺の言葉に頷き、コツンコツンと数歩ごとに小さな音を鳴らせる。
 『探索』スキルで反響を聞きながら、羊紙を片手に地図作成《マッピング》を開始する。

 反響からして、奥はまだまだあるようだ。
 それと少し進んだ先で道が3つに分かれているな。
 真ん中は奥まで続いていて、左右2つは反響音からして行き止まりなので、何かの部屋だろう。

「ベル、クー。いつでも臨戦態勢を整えておけ」

「『プロヴォーク』でこっちまで引き寄せますか?」

「いや、万が一にもバレたら困るから、それは無しだ」 

「はい」

「それと、戦闘になればモルガンが狙われる。『プロヴォーク』無しで守ってくれ」

 ベルのユニークスキル『ヘイトコントロール』は確かに強力なスキルだ。
 だが、タンクをやるのならスキルを使わない戦いも覚えてもらいたい。
 スキルに頼り切りになると、いざという時に動けない事がある。

 俺が説明をしていると、クーが話しかけて来た。
 
「何でモルちゃんが狙われるって分かるんだ?」

「明かりを持ってて目立つからだ」

「あー。なるほど」

 納得したようだ。本当に分かっているかやや不安だが。

「ここからは『聞き耳』スキルで様子をうかがいながら進む」

 壁に張り付き、壁に耳を当てる。クーが真似をしているが、まぁ止める必要はないか。
 もしかしたら『聞き耳』スキルを取得出来る可能性もあるし。

 地面に潜って待ち伏せていたゴブリンが居たと情報もあったし、慎重に慎重を重ねねば。
 『気配感知』スキルは地中や水中に居られると、気づかない場合があるし。

 分かれ道までたどり着いた。左の部屋からは何も反応が無い。
 右の部屋からは反応が4匹。地面や壁に『聞き耳』スキルを使ったが、隠れている様子もないようだ。

 ゴブリン達がキャッキャと楽しそうに騒いでいる声が聞こえて来た。
 俺達の侵入には、まだ気づいていないようだ。

「俺が『隠密』スキルで後ろから斬りかかる。それを合図に飛び出してきてくれ」

 返事代わりにベル達が頷く。

「それとクー。炸裂魔法は音が出るからダメだぞ?」

「分かった!」

 思わず大声で返事しそうになったのを、ベルとモルガンが口を抑えた。
 ゴブリン達は……良かった。気づかれていない。

 クーが眉を下げて申し訳なさそうな顔をしている。ベルやモルガンも少々不安そうだ。
 そうなるのも仕方がない。何もかも初めてなんだ。
 やって慣れるしかない。

 ベル達の心の準備をさせたいが、ここで覚悟が決まるのを待てば、その分だけ危険度が増していく。
 状況は一刻ごとに変わっていくのだから。

「行くぞ」

 軽く合図をして音もなく回り込み、ゴブリン達の背後に近づく。
 どうやら食事中だったようだ。

「フンッ」

 まずはゴブリンの首を刎ねた。
 俺に気づき、手元にあった棒きれのような武器をそれぞれ拾い上げる。

「遅い」

 続けざまにもう1匹の喉をつく。

「たぁ」

「やぁ!」

 俺に注意を向けたゴブリンに、ベルとクーが後ろから襲い掛かる。
 クーの正拳突きがゴブリンの脇腹に綺麗に入ると、腹を抑え呻き声を上げながらその場にうずくまった。
 そのまま顔面目掛けて蹴り上げ、ゴキっという音と共に、ゴブリンが泡を吹いて倒れた。

 ベルももう1匹のゴブリンにこん棒で殴り掛かり、頭部に痛い一撃をくわた。
 倒れるゴブリンに、モルガンが杖で喉を突き、声が出せないようにしてから撲殺した。
 
 『聞き耳』と『気配感知』で、こちらに増援が来る様子がない事を確認した。
 洞窟の中での初戦は、無事大成功を収めることが出来た。

 声を出さないようにして喜び合うベル達。
 上手くいったのだから、これは褒めるべきだな。

 それぞれの頭を撫でて褒めた。モルガンからは頭をはたき返された。
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