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第3章

第1話「実は、緊急依頼が来ているのですが」

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 ベル達と正式にパーティを結成してから3日が経った。

「アンリさぁん。助けてくださいぃぃぃぃ」

「だから『プロヴォーク』は弱めに打てと言っただろ」

 涙目のベルが、こちらに走ってくるのが見えた。モンスターの集団を引き連れて、今日も大量だな。  
 『罠設置《トラップ》』スキルを使い、その場にロープやトラバサミで簡易罠をいくつか設置する。
 
「罠を設置した。引っかからないように飛べ!」

「はい。ってあれえええええええええええ!!!」 

 脚力を上げるための補助バフ魔法をかけたが、効果があり過ぎたようで、ベルは俺達のはるか後方に飛んでいき、ベチっと着地している。
 どこか打ってケガをしていないか心配だが、回復はとりあえずはモルガンに任せておけば良いだろう。
 
「アンちゃん、今日もドカーンって魔法使うの?」

 多分『上級雷魔法ダンシングクレイジーズ』の事だろう。

「いや、それだと楽に倒せるが討伐証明部位ごと焼き払って金にならない」

「分かった。じゃあクーの出番だな」

「あぁ、罠にかかっているモンスターは俺が倒すから、近づいてきたモンスターを頼む」

 勇者の俺が遠距離の敵を仕留め、魔導士のクーが近づいてきた敵を倒す。
 うん。見事に役割が逆だ。

 というのも、クーが頑なに遠距離から魔法を使いたがらないからだ。
 魔法は使えるが、『魔力伝導』を使い、体内に魔法を仕込んで爆発させる近距離戦闘に拘るのだから仕方がない。

 だが、それで上手くやれているのだから、特に文句はない。
 後衛職だからと言って守る必要が無い分、俺としては楽が出来るわけだし。

 罠にかかったモンスターを『投刃』スキルで次々と倒し、罠をすり抜けたモンスターをクーが倒す。
 危な気なく狩り続け、気づけば100体以上はゆうに狩っていたのではないだろうか。

 毎回こんなことをしていたら、生態系が崩れると注意を受けそうだ。
 倒したモンスターの素材を剥ぎながら、そんな事を考えて俺は苦笑した。


 ★ ★ ★



「今日も凄い事になっていますね」

 ギルドの受付係のニーナが頬をひくつかせた。
 彼女の前には、これでもかと言わんばかりの素材の山が築かれているからだ。

「他にもまだあるぞ」

「ちょ、ちょっと待っててくださいね」

 ニーナがヘルプを求めると、奥から数人のギルド職員が出て来て、手早く素材を運んでいく。
 ここ数日で見慣れた光景になっているせいで、手慣れた物だ。

 すべて精算してもらい、依頼料と討伐報酬の金がこんもりと入った革袋を受け取る。
 ベル達のランクに合わせた依頼だが、いかんせん討伐の数が多い。EランクどころかCかBランク相当の稼ぎを叩きだしている。
 財布が潤うのは良いが、「あいつらのせいでモンスターが減って狩りにならない」と苦情が来なければ良いが。

「ところでアンリさん。お話があるのですが」

 と思った手前、ニーナが真剣な顔で話を持ち掛けてきた。
 そうなるか。そうなるよなぁ。

「実は、緊急依頼が来ているのですが」

 ニーナの口から出た言葉は、俺の予想とは全く違っていた。
 どうやら俺達の狩り方を叱責する内容ではないみたいだ。

「緊急依頼?」

「はい。受けられるのがBランク相当なのですが、あいにく当ギルドにはBランクはアンリさんしか居ませんので」

 この辺り一帯は弱い魔物が多い、だからこの街で依頼を受けていてもBランク止まりだ。
 Cランクになったあたりから、上を目指し、皆他の町へ行ってしまう。

「だが、ベル達はまだEランクだから受けられないのでは?」

「その点については、ギルドマスターから特別に許可を頂いております。彼女たちの実力についてはギルドが保証しますので」

「そうか」

 ギルド側は彼女たちのユニークスキルは把握している。
 なので、この処遇をして貰えたのだろう。

「とりあえず、内容を聞いてからだ」

「はい。実は森の奥でゴブリンの巣が発見されまして」

 ニーナが依頼書を差し出す。
 ベル達も俺の脇からひょいと顔を出して、依頼書に目を向ける。

 内容はこうだ。
 街でゴブリンによる被害と思われる作物や畜産への被害が出ていた。
 だがその内駆除すれば良いと思っていたのだろう。近隣の村で女性がゴブリンに攫われたと情報を得てやっと重い腰を上げたようだ。

 ゴブリンの巣は森の奥で発見された。
 最初にDランク冒険者パーティを駆除に向かわせたが、3日間経っても帰って来る様子がない。
 ゴブリンの巣が大型化している可能性があるため、Cランクの冒険者に調査へ向かわせたが、こちらも音信不通になった。

 なのでベテラン冒険者による駆除が必要と判断し、緊急依頼を発動した。という感じだった。
 場所はここから歩きで1日もかからない距離か。

「アンリさん達には調査、及び生存者の確認をお願いしたいのですが」

「ふむ。とりあえず一旦こいつらと相談して決めさせてくれないか?」

 Bランク相当の依頼となれば、危険度は今までの比ではない。
 流石にこんな危険な橋を渡りたいとは思わないが。

「あ、あの」

 ベルが俺とニーナの会話に口を挟んだ。

「この依頼って、成功したらボクたちのランクを上げてもらう事は出来ますか?」

「そうですね。それは私からはなんとも……ギルドマスターに一度掛け合ってみましょうか?」

「お願いします!」

「分かりました。今すぐに、というわけには行かないので、また明日お願いします」

「はい!」

 何を言い出すんだと思ったが、ベルが俺に対し気を使っての事だろう。
 俺の昔話を聞いて、早く会わせてやりたい。その為には自分たちのランクを早く上げないと。そんな風に思っているのだろう。
 だが、そんな風に焦っては足元を取られる危険性もある。ゆっくり確実に行くべきだ。

「もしランクが上がるのでしたら、やらないわけには行きませんよね」

「クー頑張る!」

 むぅ。ベルに注意をしようとするまえに、モルガンやクー達がやる気を見せた。
 微妙に言い出しづらいな。一応リーダーが俺とは言え、3対1では分が悪い。モルガン辺りに言い包められそうだな。

「分かった。その代わり少しでも危険だと感じたら失敗になったとしても、すぐに依頼は破棄するからな」

 ため息をついて、踵を返す。

「アンリさん。実は音信不通のCランク冒険者なのですが……ドーガさん達のパーティです」

「……そうか」

 ニーナは「それでも助けに行ってくれますか?」と言いたいのだろう。
 俺の中では、もうあいつらとは終わった話で気にもしていない。どちらかというと、いつの間にCランクに落ちたのだろう程度だ。

 俺はベル達を連れてギルドを出た。
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