上 下
23 / 50
第3章

第1話「実は、緊急依頼が来ているのですが」

しおりを挟む
 ベル達と正式にパーティを結成してから3日が経った。

「アンリさぁん。助けてくださいぃぃぃぃ」

「だから『プロヴォーク』は弱めに打てと言っただろ」

 涙目のベルが、こちらに走ってくるのが見えた。モンスターの集団を引き連れて、今日も大量だな。  
 『罠設置《トラップ》』スキルを使い、その場にロープやトラバサミで簡易罠をいくつか設置する。
 
「罠を設置した。引っかからないように飛べ!」

「はい。ってあれえええええええええええ!!!」 

 脚力を上げるための補助バフ魔法をかけたが、効果があり過ぎたようで、ベルは俺達のはるか後方に飛んでいき、ベチっと着地している。
 どこか打ってケガをしていないか心配だが、回復はとりあえずはモルガンに任せておけば良いだろう。
 
「アンちゃん、今日もドカーンって魔法使うの?」

 多分『上級雷魔法ダンシングクレイジーズ』の事だろう。

「いや、それだと楽に倒せるが討伐証明部位ごと焼き払って金にならない」

「分かった。じゃあクーの出番だな」

「あぁ、罠にかかっているモンスターは俺が倒すから、近づいてきたモンスターを頼む」

 勇者の俺が遠距離の敵を仕留め、魔導士のクーが近づいてきた敵を倒す。
 うん。見事に役割が逆だ。

 というのも、クーが頑なに遠距離から魔法を使いたがらないからだ。
 魔法は使えるが、『魔力伝導』を使い、体内に魔法を仕込んで爆発させる近距離戦闘に拘るのだから仕方がない。

 だが、それで上手くやれているのだから、特に文句はない。
 後衛職だからと言って守る必要が無い分、俺としては楽が出来るわけだし。

 罠にかかったモンスターを『投刃』スキルで次々と倒し、罠をすり抜けたモンスターをクーが倒す。
 危な気なく狩り続け、気づけば100体以上はゆうに狩っていたのではないだろうか。

 毎回こんなことをしていたら、生態系が崩れると注意を受けそうだ。
 倒したモンスターの素材を剥ぎながら、そんな事を考えて俺は苦笑した。


 ★ ★ ★



「今日も凄い事になっていますね」

 ギルドの受付係のニーナが頬をひくつかせた。
 彼女の前には、これでもかと言わんばかりの素材の山が築かれているからだ。

「他にもまだあるぞ」

「ちょ、ちょっと待っててくださいね」

 ニーナがヘルプを求めると、奥から数人のギルド職員が出て来て、手早く素材を運んでいく。
 ここ数日で見慣れた光景になっているせいで、手慣れた物だ。

 すべて精算してもらい、依頼料と討伐報酬の金がこんもりと入った革袋を受け取る。
 ベル達のランクに合わせた依頼だが、いかんせん討伐の数が多い。EランクどころかCかBランク相当の稼ぎを叩きだしている。
 財布が潤うのは良いが、「あいつらのせいでモンスターが減って狩りにならない」と苦情が来なければ良いが。

「ところでアンリさん。お話があるのですが」

 と思った手前、ニーナが真剣な顔で話を持ち掛けてきた。
 そうなるか。そうなるよなぁ。

「実は、緊急依頼が来ているのですが」

 ニーナの口から出た言葉は、俺の予想とは全く違っていた。
 どうやら俺達の狩り方を叱責する内容ではないみたいだ。

「緊急依頼?」

「はい。受けられるのがBランク相当なのですが、あいにく当ギルドにはBランクはアンリさんしか居ませんので」

 この辺り一帯は弱い魔物が多い、だからこの街で依頼を受けていてもBランク止まりだ。
 Cランクになったあたりから、上を目指し、皆他の町へ行ってしまう。

「だが、ベル達はまだEランクだから受けられないのでは?」

「その点については、ギルドマスターから特別に許可を頂いております。彼女たちの実力についてはギルドが保証しますので」

「そうか」

 ギルド側は彼女たちのユニークスキルは把握している。
 なので、この処遇をして貰えたのだろう。

「とりあえず、内容を聞いてからだ」

「はい。実は森の奥でゴブリンの巣が発見されまして」

 ニーナが依頼書を差し出す。
 ベル達も俺の脇からひょいと顔を出して、依頼書に目を向ける。

 内容はこうだ。
 街でゴブリンによる被害と思われる作物や畜産への被害が出ていた。
 だがその内駆除すれば良いと思っていたのだろう。近隣の村で女性がゴブリンに攫われたと情報を得てやっと重い腰を上げたようだ。

 ゴブリンの巣は森の奥で発見された。
 最初にDランク冒険者パーティを駆除に向かわせたが、3日間経っても帰って来る様子がない。
 ゴブリンの巣が大型化している可能性があるため、Cランクの冒険者に調査へ向かわせたが、こちらも音信不通になった。

 なのでベテラン冒険者による駆除が必要と判断し、緊急依頼を発動した。という感じだった。
 場所はここから歩きで1日もかからない距離か。

「アンリさん達には調査、及び生存者の確認をお願いしたいのですが」

「ふむ。とりあえず一旦こいつらと相談して決めさせてくれないか?」

 Bランク相当の依頼となれば、危険度は今までの比ではない。
 流石にこんな危険な橋を渡りたいとは思わないが。

「あ、あの」

 ベルが俺とニーナの会話に口を挟んだ。

「この依頼って、成功したらボクたちのランクを上げてもらう事は出来ますか?」

「そうですね。それは私からはなんとも……ギルドマスターに一度掛け合ってみましょうか?」

「お願いします!」

「分かりました。今すぐに、というわけには行かないので、また明日お願いします」

「はい!」

 何を言い出すんだと思ったが、ベルが俺に対し気を使っての事だろう。
 俺の昔話を聞いて、早く会わせてやりたい。その為には自分たちのランクを早く上げないと。そんな風に思っているのだろう。
 だが、そんな風に焦っては足元を取られる危険性もある。ゆっくり確実に行くべきだ。

「もしランクが上がるのでしたら、やらないわけには行きませんよね」

「クー頑張る!」

 むぅ。ベルに注意をしようとするまえに、モルガンやクー達がやる気を見せた。
 微妙に言い出しづらいな。一応リーダーが俺とは言え、3対1では分が悪い。モルガン辺りに言い包められそうだな。

「分かった。その代わり少しでも危険だと感じたら失敗になったとしても、すぐに依頼は破棄するからな」

 ため息をついて、踵を返す。

「アンリさん。実は音信不通のCランク冒険者なのですが……ドーガさん達のパーティです」

「……そうか」

 ニーナは「それでも助けに行ってくれますか?」と言いたいのだろう。
 俺の中では、もうあいつらとは終わった話で気にもしていない。どちらかというと、いつの間にCランクに落ちたのだろう程度だ。

 俺はベル達を連れてギルドを出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の価値って0円なのか?〜最強の矛を携え、ステータスにある『最強』のスキルがまさかのチートだったので最弱からダンジョンを蹂躙し無双する〜

カレーハンバーグ
ファンタジー
空から降ってきた一本の刀は、斬れぬ物は無いと謳われている最強の矛だった。時を同じくして出現したダンジョンとモンスターに、世界は一瞬にして地獄と化す。 その十数年後、スキルが当たり前になった世界では、誰もが価値100円で産まれてくる。しかし、ある一人の男の子が価値0円で産まれた。名は神竜貴史《しんりゅうたかし》。10歳にならないと保有出来ないスキルを産まれた時に保有していた超逸材? スキル名は『最強』。 職業を決定する10歳の儀式では、儀式前に『神』という職業が決定されていた。 価値が0円でスキル『最強』、職業が『神』というあり得ない、というか馬鹿げたステータスに貴史《たかし》は悩んでしまう。 人に忌み嫌われながらも、チートだと判明したまさかのスキル『最強』と最強の矛を携え、現代を生き抜きながら駆け上がり、やがて無双していく。 現代ドラマ仕立ファンタジー。 この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。 カクヨムにて先行公開中です。 https://kakuyomu.jp/works/16817330658740889100

「≪最悪の迷宮≫? いいえ、≪至高の楽園≫です!!」~元皇女は引き籠り生活を満喫しつつ、無自覚ざまぁもしていたようです。~

ファンタジー
ありがちな悪役令嬢っぽい断罪シーンでの記憶の覚醒、追放された少女が国を去り、祖国は窮地にさらされる……そんなよくある、だけどあまりないタイプの展開。追放された先で異国の王子様と愛を育んだり……は、しません。困難に立ち向かいながら周囲と絆を築いたり……も、しません。これは一人の少女が転生前の記憶を思い出し、迷宮という引き籠り空間で最高のヒッキー生活をエンジョイする、そんな休暇万歳!自由万歳!!な軽いノリのお話しです。一話はかなり短めなのでサクッとお暇つぶしにどうぞ。【本編完結済】

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

錬金術師として召喚されたけど、錬成対象が食べ物限定だったので王宮を追い出されました。

茜カナコ
ファンタジー
キッチンカーでクレープ屋を営んでいた川崎あおいは、ある日異世界に召喚された。 錬金術師として扱われたが、錬成対象が食べ物だけだったため、王宮を追い出されたあおい。 あおいは、町外れの一軒家で、クレープ屋を始めることにした。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

運命のαを揶揄う人妻Ωをわからせセックスで種付け♡

山海 光
BL
※オメガバース 【独身α×βの夫を持つ人妻Ω】 βの夫を持つ人妻の亮(りょう)は生粋のΩ。フェロモン制御剤で本能を押えつけ、平凡なβの男と結婚した。 幸せな結婚生活の中、同じマンションに住むαの彰(しょう)を運命の番と知らずからかっていると、彰は我慢の限界に達してしまう。 ※前戯なし無理やり性行為からの快楽堕ち ※最初受けが助けてって喘ぐので無理やり表現が苦手な方はオススメしない

「霊感がある」

やなぎ怜
ホラー
「わたし霊感があるんだ」――中学時代についたささいな嘘がきっかけとなり、元同級生からオカルトな相談を受けたフリーターの主人公。霊感なんてないし、オカルトなんて信じてない。それでもどこかで見たお祓いの真似ごとをしたところ、元同級生の悩みを解決してしまう。以来、ぽつぽつとその手の相談ごとを持ち込まれるようになり、いつの間にやら霊能力者として知られるように。謝礼金に目がくらみ、霊能力者の真似ごとをし続けていた主人公だったが、ある依頼でひと目見て「ヤバイ」と感じる事態に直面し――。 ※性的表現あり。習作。荒唐無稽なエロ小説です。潮吹き、小スカ/失禁、淫語あり(その他の要素はタグをご覧ください)。なぜか丸く収まってハピエン(主人公視点)に着地します。 ※他投稿サイトにも掲載。

電光石火の雷術師~聖剣で貫かれ奈落で覚醒しましたが、それはそれとして勇者は自首して下さい~

にゃーにゃ
ファンタジー
「ありとあらゆる魔獣の動きを完全に停止させることしかできない無能は追放だッ!」 クロノは魔獣のからだに流れる電気を支配するユニークスキル雷術を使いこなす冒険者。  そんなクロノを勇者はカッとなった勢いで聖剣で刺し貫き、奈落の底に放り投げた。 「いきなり殺しとか、正気か?」死の淵で雷術が覚醒、体内の電気をあやつり身体を超強化する最強スキルに覚醒する。  覚醒した雷術で魔獣をケチらし奈落最深部へ。 そこで死にかけの吸血姫の少女を救い、びっくりするほどホレられる。一方、勇者パーティーは雷術師クロノを失ったことでドンドン迷走していくのであった。 ※本作は主人公の尽力で最終的には『勇者サイド』も救いのある物語となっております。

処理中です...