「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう
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第1章
第10話「なんでそれを先に言わなかったんだ」
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「ベルはもう、今晩の宿は決まっているのか?」
「?」
笑顔のまま首を傾げられてしまった。
今何か変な事聞いたか?
「一緒の宿じゃないんですか?」
「質問に質問で返すようで悪いが、なんで一緒だと思った?」
「えっ? だってボクとアンリさんはパーティですよね?」
「そうだな」
「ニーナさんが、『パーティは、いつも一緒に居るものだ』って言ってました」
「あー……」
それは半分正解で、半分間違いだな。
確かにパーティは基本的にいつも一緒だが、宿は別々の場合がある。
そう、例えば男女混合パーティの時だ!
信頼できる仲間とは言え、男と女。何かの間違いが起きる可能性だってある。それが原因でパーティ解散なんて腐る程聞く。
実際に俺もドーガ達と一緒にいた時は、野宿する時以外は男女で分かれて宿を取っていた。
両者合意ならまだしも、強姦のような事だって起こりうるのだ。
だから、出来れば男女別々で宿を取った方が良いのだが。
「どうしました?」
純粋な目で俺を見るベル。
コイツを一人にして、大丈夫だろうかという不安が頭をよぎる。
「一人で宿を取って、宿泊した事とかはあるか?」
「無いです。いつも家で家族と一緒に寝てますし」
だよな。
仕方がない。今日の所は一緒の宿を取るとするか。
俺が手を出さなければ良いだけの話だ。
「んじゃ宿探しに行くか」
「うん。実はボク、宿に泊まるの初めてなんです」
耳をぴょこぴょこと動き、しっぽがファサファサと動いている。
どうやら宿に泊まるのが楽しみのようだ。
いきなり雑魚寝の安宿や馬小屋に泊まるのはベルに負担をかけそうだが、あまり高い宿に泊まるのは財布に負担がかかる。
冒険者割引が効いて、個室の部屋があるそこそこの宿を選んだ。
「2人か、じゃあこの部屋だ」
不愛想な宿屋の主に案内された部屋は、大きめのベッドが1つと、湯あみをするための大きな桶が置いてある部屋だった。
「お、おい」
「兄ちゃん。頑張れよ」
そう言って背中を叩かれた。
完全に誤解されているな。
「アンリさん、何を頑張るんですか?」
「さぁな」
変に説明して意識されても困る。
他の宿を探そうにも、どこも空いていなかったし、ここは我慢をするか。
俺が手を出さなければ良いだけの話だ。(二度目)
ベルは初めての宿で色々気になるのか、部屋の中を見回って歩いている。
「アンリさん。桶があるけど、これって水を入れて体洗うためですよね?」
「あぁ、そうだ」
「水はどこから持ってこれば良いですか? ボク、体を洗いたいんですけど」
今日一日、走り回ったり、返り血を浴びたりで汚れたからな。
せっかく桶があるのだから、俺も体を洗いたい。
「ちょっと待ってろ」
俺は桶に手を突っ込み、『お湯を出す』スキルを発動させた。
魔法使い系のスキルで、名前の通りお湯が出るだけの最も簡単なスキルの一つだ。温度調整も出来るので今は湯あみに最適な温度にしてある。
他にも『水を出す』スキルがある。これらは攻撃には使えず、生活が便利になるスキルなので生活スキルとも呼ばれている。
桶に張った湯から、湯気が立ち込める。
あまり入れすぎると、お湯が溢れて宿屋の主に怒られるので桶の半分くらいでとどめている。
「よし。準備できたぞ」
触ってみると、お湯は丁度良い温度だ。
男の俺が入った後では嫌だろうし、先に入ってもらうか。
「アンリさん。ボク、アンリさんの背中流しますね!」
振り向くと、ベルは既に服を脱ぎ始めていた。
「よくお父さんの背中を洗ったりしてたので、得意なんですよ」
慌てて部屋の外に出て、戸を閉めた。
「アンリさん?」
「ほら、何かあった時の為に見張ってないといけないから。俺が入る時はベルが見張りを頼むよ」
「あっ、はい。分かりました」
ガキっぽく感じていたが、体は立派な大人だったな。
……違う! そうじゃない!
平常心だ。平常心を保つんだ。
大丈夫。俺が手を出さなければ良いだけの話だ。(三度目)
しかし、パンツを見られると取り乱すくせに、裸は平気とか。よく分からんな。
「そういえば、昼間の戦闘でモンスターが大量に釣れたが、何か思い当たる節はあるか?」
たまたまなら良いが、もし何か理由があるなら次回以降気を付けないといけない。
何か知っているかもと思い、扉越しにベルに聞いてみた。
「えっと、ニーナさんにユニークスキルの『ヘイトコントロール』があるって言われてたけど、それかな?」
「なんで……」
なんでそれを先に言わなかったんだ。そう言おうとして、俺は言葉を止めた。
ベルが言おうとしたのを「他の冒険者に聞かれても言わない方が良い」と言って止めたのは俺だった。
「いや、そうか。分かった」
俺の『鑑定』で見えないスキルがあったが、よりにもよってユニークスキルかよ。
レアスキルかと思っていたが、とんでもない思い違いだった。
ユニークスキルの『ヘイトコントロール』は、本来なら一瞬だけ自分にヘイトが向く『プロヴォーク』を、長時間自分にヘイトが向くようになるスキルだ。
効果範囲も劇的に広がるので、タンク職にとっては喉から手が出るほど欲しいスキルの一つだ。
それを知らずに俺は補助をかけ、効果範囲や効果をさらに上昇させてしまったわけか。
「ん?」
「どうしました?」
「いや、何でもない」
そうなると、ニーナはモンスターの大群についても原因は予想が付いていたはずなのだが……
いや。だからこそ、あの反応をしてたわけか。
ベルがユニークスキル持ちという事を周りに知られれば、また問題になりかねない。
あえて知らないふりをしていたのだろう。
★ ★ ★
ベルが上がった後に、俺も湯あみを済ませた。
「こんな大きいベッド初めてです」
「そうか。実は俺も初めてだ」
「そうなんですか」
いわゆる、深い関係の人達用のベッドだからな。
ベルはベッドの上ではしゃぎながら大の字になったり、寝転がったりしている。
その姿があまりに子供っぽくて、思わず苦笑してしまう。
「そろそろ寝るぞ」
「はぁい」
ベッドに入ると、ベルはすぐに寝息を立てて寝始めた。
初めて冒険者になって、いきなりの狩り。分からない事だらけで精神的に相当疲労が溜まっていたのだろう。
もしかしたら、元々寝つきが良いだけなのかもしれないが。
「俺も寝るか」
分からない事だらけで精神的に疲れたのは、俺もだ。
唐突にパーティから追い出され、パーティメンバーにボコボコにされて……いや、これ以上考えるとまた泣いてしまいそうだ。
もう寝よう。
ピトッ。
「……ベル?」
むぎゅっと、抱きしめられた。
「スー、スー」
寝ているから、無意識的に抱き着いてしまったのだろう。
起こしても可哀そうだ。
女性特有の柔らかさを背中に感じる。
全く。無防備な奴だ。もしこれが俺以外の男だったら、襲われても文句は言えないぞ。
まぁ、俺が手を出さなければ良いだけの話だ。(四度目)
★ ★ ★
「おはようございます。アンリさん、まだ明け方なのに起きてるなんて、早起きなんですね」
「あぁ、おはよう。ところでベル、相談があるのだが」
「どうしました?」
「まだ昨日の疲れが取れないんだ。今日は休みにしよう」
「そうなんだ。実はボクもなんですよ」
2人してそれなら丁度良いと笑い合った。
それぞれベッドが別の宿を取り直し、翌日には俺の寝不足は解消された。
ここまで『万能勇者』読んで頂き、誠にありがとうございます!
第1章はここで終わりになり、次回からは第2章になります。
第2章では、新たなヒロインが2人登場します!
「?」
笑顔のまま首を傾げられてしまった。
今何か変な事聞いたか?
「一緒の宿じゃないんですか?」
「質問に質問で返すようで悪いが、なんで一緒だと思った?」
「えっ? だってボクとアンリさんはパーティですよね?」
「そうだな」
「ニーナさんが、『パーティは、いつも一緒に居るものだ』って言ってました」
「あー……」
それは半分正解で、半分間違いだな。
確かにパーティは基本的にいつも一緒だが、宿は別々の場合がある。
そう、例えば男女混合パーティの時だ!
信頼できる仲間とは言え、男と女。何かの間違いが起きる可能性だってある。それが原因でパーティ解散なんて腐る程聞く。
実際に俺もドーガ達と一緒にいた時は、野宿する時以外は男女で分かれて宿を取っていた。
両者合意ならまだしも、強姦のような事だって起こりうるのだ。
だから、出来れば男女別々で宿を取った方が良いのだが。
「どうしました?」
純粋な目で俺を見るベル。
コイツを一人にして、大丈夫だろうかという不安が頭をよぎる。
「一人で宿を取って、宿泊した事とかはあるか?」
「無いです。いつも家で家族と一緒に寝てますし」
だよな。
仕方がない。今日の所は一緒の宿を取るとするか。
俺が手を出さなければ良いだけの話だ。
「んじゃ宿探しに行くか」
「うん。実はボク、宿に泊まるの初めてなんです」
耳をぴょこぴょこと動き、しっぽがファサファサと動いている。
どうやら宿に泊まるのが楽しみのようだ。
いきなり雑魚寝の安宿や馬小屋に泊まるのはベルに負担をかけそうだが、あまり高い宿に泊まるのは財布に負担がかかる。
冒険者割引が効いて、個室の部屋があるそこそこの宿を選んだ。
「2人か、じゃあこの部屋だ」
不愛想な宿屋の主に案内された部屋は、大きめのベッドが1つと、湯あみをするための大きな桶が置いてある部屋だった。
「お、おい」
「兄ちゃん。頑張れよ」
そう言って背中を叩かれた。
完全に誤解されているな。
「アンリさん、何を頑張るんですか?」
「さぁな」
変に説明して意識されても困る。
他の宿を探そうにも、どこも空いていなかったし、ここは我慢をするか。
俺が手を出さなければ良いだけの話だ。(二度目)
ベルは初めての宿で色々気になるのか、部屋の中を見回って歩いている。
「アンリさん。桶があるけど、これって水を入れて体洗うためですよね?」
「あぁ、そうだ」
「水はどこから持ってこれば良いですか? ボク、体を洗いたいんですけど」
今日一日、走り回ったり、返り血を浴びたりで汚れたからな。
せっかく桶があるのだから、俺も体を洗いたい。
「ちょっと待ってろ」
俺は桶に手を突っ込み、『お湯を出す』スキルを発動させた。
魔法使い系のスキルで、名前の通りお湯が出るだけの最も簡単なスキルの一つだ。温度調整も出来るので今は湯あみに最適な温度にしてある。
他にも『水を出す』スキルがある。これらは攻撃には使えず、生活が便利になるスキルなので生活スキルとも呼ばれている。
桶に張った湯から、湯気が立ち込める。
あまり入れすぎると、お湯が溢れて宿屋の主に怒られるので桶の半分くらいでとどめている。
「よし。準備できたぞ」
触ってみると、お湯は丁度良い温度だ。
男の俺が入った後では嫌だろうし、先に入ってもらうか。
「アンリさん。ボク、アンリさんの背中流しますね!」
振り向くと、ベルは既に服を脱ぎ始めていた。
「よくお父さんの背中を洗ったりしてたので、得意なんですよ」
慌てて部屋の外に出て、戸を閉めた。
「アンリさん?」
「ほら、何かあった時の為に見張ってないといけないから。俺が入る時はベルが見張りを頼むよ」
「あっ、はい。分かりました」
ガキっぽく感じていたが、体は立派な大人だったな。
……違う! そうじゃない!
平常心だ。平常心を保つんだ。
大丈夫。俺が手を出さなければ良いだけの話だ。(三度目)
しかし、パンツを見られると取り乱すくせに、裸は平気とか。よく分からんな。
「そういえば、昼間の戦闘でモンスターが大量に釣れたが、何か思い当たる節はあるか?」
たまたまなら良いが、もし何か理由があるなら次回以降気を付けないといけない。
何か知っているかもと思い、扉越しにベルに聞いてみた。
「えっと、ニーナさんにユニークスキルの『ヘイトコントロール』があるって言われてたけど、それかな?」
「なんで……」
なんでそれを先に言わなかったんだ。そう言おうとして、俺は言葉を止めた。
ベルが言おうとしたのを「他の冒険者に聞かれても言わない方が良い」と言って止めたのは俺だった。
「いや、そうか。分かった」
俺の『鑑定』で見えないスキルがあったが、よりにもよってユニークスキルかよ。
レアスキルかと思っていたが、とんでもない思い違いだった。
ユニークスキルの『ヘイトコントロール』は、本来なら一瞬だけ自分にヘイトが向く『プロヴォーク』を、長時間自分にヘイトが向くようになるスキルだ。
効果範囲も劇的に広がるので、タンク職にとっては喉から手が出るほど欲しいスキルの一つだ。
それを知らずに俺は補助をかけ、効果範囲や効果をさらに上昇させてしまったわけか。
「ん?」
「どうしました?」
「いや、何でもない」
そうなると、ニーナはモンスターの大群についても原因は予想が付いていたはずなのだが……
いや。だからこそ、あの反応をしてたわけか。
ベルがユニークスキル持ちという事を周りに知られれば、また問題になりかねない。
あえて知らないふりをしていたのだろう。
★ ★ ★
ベルが上がった後に、俺も湯あみを済ませた。
「こんな大きいベッド初めてです」
「そうか。実は俺も初めてだ」
「そうなんですか」
いわゆる、深い関係の人達用のベッドだからな。
ベルはベッドの上ではしゃぎながら大の字になったり、寝転がったりしている。
その姿があまりに子供っぽくて、思わず苦笑してしまう。
「そろそろ寝るぞ」
「はぁい」
ベッドに入ると、ベルはすぐに寝息を立てて寝始めた。
初めて冒険者になって、いきなりの狩り。分からない事だらけで精神的に相当疲労が溜まっていたのだろう。
もしかしたら、元々寝つきが良いだけなのかもしれないが。
「俺も寝るか」
分からない事だらけで精神的に疲れたのは、俺もだ。
唐突にパーティから追い出され、パーティメンバーにボコボコにされて……いや、これ以上考えるとまた泣いてしまいそうだ。
もう寝よう。
ピトッ。
「……ベル?」
むぎゅっと、抱きしめられた。
「スー、スー」
寝ているから、無意識的に抱き着いてしまったのだろう。
起こしても可哀そうだ。
女性特有の柔らかさを背中に感じる。
全く。無防備な奴だ。もしこれが俺以外の男だったら、襲われても文句は言えないぞ。
まぁ、俺が手を出さなければ良いだけの話だ。(四度目)
★ ★ ★
「おはようございます。アンリさん、まだ明け方なのに起きてるなんて、早起きなんですね」
「あぁ、おはよう。ところでベル、相談があるのだが」
「どうしました?」
「まだ昨日の疲れが取れないんだ。今日は休みにしよう」
「そうなんだ。実はボクもなんですよ」
2人してそれなら丁度良いと笑い合った。
それぞれベッドが別の宿を取り直し、翌日には俺の寝不足は解消された。
ここまで『万能勇者』読んで頂き、誠にありがとうございます!
第1章はここで終わりになり、次回からは第2章になります。
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