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第7章「旅の終わり」

第12話「アインを発つ」

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 サラ達が居なくなってから数日後。
 僕らは今、飛空船に乗ってミド大陸へ向かっている。
 メンバーは僕、アリア、フレイヤ、そしてレッドさんだ。
 飛空船の一室で座り込む僕らに対し、フレイヤさんは窓から外を眺めていた。

「レッドさんは飛空船に乗るのは初めて?」

「ううん。ボクは授業で何度か飛空船に乗った事があるよ。将来飛空船の乗組員かどうかの適性があるかどうか調べるためにね」

「へぇ、そうなんだ」

 ドワーフやホビットは、とにかく色んな仕事を体験させ、自分にあった仕事を探すという教育方針か。
 嫌々仕事をするよりも、自分が好きな事を仕事にした方がやり甲斐もあるだろうし、仕事に対する意欲も湧くよね。
 現に、僕らがアインに滞在していた間は、嫌そうに仕事をしている人は見なかったし。

「でもまぁ、乗ったと言っても周りを少し飛んで終わりだったから、ちゃんと乗るのは初めてかな」

「ねぇねぇ。じゃあその時も、こんな感じの子は居た?」

 フレイヤは一緒に住む内にレッドさんに慣れたようで、僕らに話しかけるような馴れ馴れしい口調で尋ねている。

「ううっ……」

 フレイヤが指さすこんな感じの子アリアは、絶賛高所恐怖症中だ。
 ペタンと座り込み、僕の腕にしがみ付いて離れようとしない。

「うん。何人か居たよ。泣き出す子やおもらしをする子、ガッチガチに固まって動けなくなる子とかね」

 いまだにブルブル震えるアリアの様子を見て、「誰にでも向き不向きがあるよ」とレッドさんは苦笑気味にフォローの言葉を付け足す。

「アリアちゃんは、外の様子が見えなくても怖いの?」

 フレイヤの問いに、アリアが頷く。
 行きでも似たような質問をした気がするけど、そういえばフレイヤとリンは、飛空船の船内を探検ばかりしていたから知らないか。

「揺れで一瞬、フワッとする感覚がダメなんじゃないかな」

 先程から揺れるたびに、アリアはビクッとしてるし。
 僕の腕にしがみ付いているから、どのタイミングでビクついてるのかがよくわかる。

「ねぇねぇ、レッドちゃん。高所恐怖症を治す方法ってないの?」

「高所恐怖症を治す方法ねぇ……ごめん、ちょっと聞いた事ないや」

「やっぱり無いですか」

 期待して顔を上げたアリアだったが、無いと聞いてガッカリとうなだれている。
 そんな都合の良い話なんて、そうそう無いよね。

 可哀想ではあるけど、大人しくしてくれるから、面倒ごとが起きなくて助かると思ってしまう自分がいる。
 面倒ごとか、面倒ごとと言うとレッドさんが僕らに付いて行くと言い出した時もかなり面倒な事になってたな。


 ☆ ☆ ☆


 彼女の保護者代理であるストロングさんが顔を真っ赤にしてダメだと言うのに対し、付いて行くと言って譲らないレッドさんと何時間も口論が続いた。
 口論の末、折れたのはストロングさんだった。

「大事な家族が殺されたり、攫われた時に、黙って他人任せにするのがストロング家の矜持なの?」

 レッドさんが放った、この一言が決定打だった。
 ストロングさんからは全身の毛が逆立つかと思えるくらいの気迫を感じる。それは、アリアが無意識的に剣に手をかけるほどの。
 ドワーフやホビット族にとって、ファミリーネームは命よりも重い。それを乏すような事を言ったのだから、当然といえば当然か。

 そんな視線を真っ向から受けても引こうとしないレッドさん。その姿を見てストロングさんが大きなため息をついて勝敗が決した。
 出来ればもうちょっと穏便に事を済ませて欲しい。心臓に悪すぎる。
 僕達と旅立つレッドさんに、ストロングさんはせめて自衛できるようにと武器を渡し、レッドさんは素直に受け取る。

「これは?」

 武器、と言うにはあまりに小さく、刃は無く、そのまま叩けば壊れてしまいそうだ。
 レッドさんも初めて見るようで、どう使うかわからないようだ。

「飛空船で使われている武器を手軽に使えるように簡易化した物じゃ」
 
 飛空戦で使われている武器って、ワイバーンを次々と倒したあれ!?
 形は違うけど、確かに先っぽの筒状になってる部分は似ている。簡易化と言うだけあってサイズは手のひらに収まるくらい小さい。

「これでワイバーンを倒すことは出来ますか?」

「流石にそれは無理じゃが、至近距離で撃てば人を殺す位は出来る」

 本当にこんな小さい物で人を殺す事が出来るのかと思うけど、多分出来るんだろうな。飛空船の戦闘を見ていなかったら信じられなかっただろうけど。

「でも、そんな代物をレッドさんに預けて、国外に持ち出しても大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃないから、アインに帰ってくる時はどこかに捨ててから帰って来てくれ」

 大丈夫じゃないのかよ。
 アインから出る時の持ち物検査は、ごまかせるように手配してくれると言ってるけど、本当に大丈夫だろうか。少し心配だ。
 まぁ、そんな心配は杞憂に終わって、何とかイリス共和国まで戻って来ることが出来た。


 ☆ ☆ ☆


 イリスに到着した。
 レッドさんが物珍しそうに周りを見ている。悪いけど今は観光案内をしている暇がないので先を急ぐ。
 まずは冒険者ギルドに行き、父とスクール君に伝言を伝えてもらうように頼んだ。冒険者ギルドは他の冒険者ギルドに伝言を伝えることが出来るので、有料で依頼出来るシステムがある。
 今までにも何度か使ったことがあるが、料金はかなり高いため、普通に連絡するだけなら手紙の輸送を依頼するので、このシステムの使用頻度は少ない。
 アインに行って、全く依頼を受けれなかったから財布が寂しい状況だけど、急を要する事態だから仕方がない。

『サラが居なくなりました。実家の事で問題が起きたそうです。追いかけたいのですが場所がわからないので、知っていたら情報をください。まずはヴェルに向かいます』

 本当はレッドさんの事やアインの事件を伝えたいけど、ギルド職員が内容を見て、伝えるのは問題があると判断してしまったら伝えてもらえない可能性もある。
 伝言を伝えるための利用料金を支払い、ギルドを出たら街の入り口まで向かい、その途中で国境までの馬車を借りた。

 最低限の食料を買い込み、出発してから自分の考えの甘さを実感する。
 今まではリンが居たから『気配察知』でモンスターの奇襲を事前に察知し、先制を取れたのだが、今は居ない。
 モンスターが現れてから対応になるため、普段よりも何テンポも対応が遅れてしまう。
 それに、例えどれだけの数が来ようとも、サラが広範囲の魔法で蹴散らしてくれていたのだが、今は遠距離から魔法を打てるのはフレイヤしかいない。サラのように無詠唱で次々と打てるわけじゃないから仕留めきれない事が多い。
 銃を持ったレッドさんも戦ってはくれるが、戦闘に慣れていない彼女にとっては相当な負担になっているだろう。

 夜になってからもモンスターの奇襲を気をつけないといけない。いや、日の明かりが無い分夜の方が気をつけないといけないか。これも普段はリンが『気配察知』で気をつけてくれていたおかげで僕らは安心して眠れていた。
 だけど今はリンが居ない。なので夜は僕とフレイヤが交代で火の番をしながら辺りを警戒している。アリアには馬車の御者をしてもらわないといけないので、夜の見張りはさせていない。

 寝不足と、いつモンスターに遭遇するかの緊張で疲弊しているのだろう。会話が段々と減ってきた。
 2人にどれだけ助けてもらっていたのか、痛いほど実感する。
 もしかしたら、普通の冒険者パーティはこんな感じなのかもしれない。
 国境からイリスまでは行くのに10日もかからなかったのが、3日以上も遅れて、やっとの思いで国境まで戻ってきた。

 国境の関所付近で借りていた馬車を返却する。
 関所は相変わらず通行人の行列が出来ている。ここで素直に待つと数日は足止めを食らってしまうので移動をする。

「あっ、すみません」

 行列をすり抜け、見知った男性に声をかける。
 声をかけられた役人は「はぁ?」みたいな顔をした後に、僕らを、正しくはフレイヤを見て青ざめた。彼は前に僕らと揉めた役人だ。僕らの顔は覚えていないみたいだったけど、フレイヤの仮面は覚えていたようだ。

「ちょっと急な用事でここを通りたいのですが、宜しいでしょうか?」

 にこやかに笑いながら、手紙を取り出してヒラヒラさせた。

「しょ、少々お待ちくださいッ!!!」

 別に脅してるつもりはなかったんだけどね。なんかごめん。
 彼は上擦った声で返事をして、走り去り、すぐに中年男性をつれてもどってきた。前にこの役人と揉めた時に仲裁をしてくれた人だ。

「お前達か。早急な用でここを通りたいそうだな」

「はい」

 中年男性は僕らを見た。見たなんてもんじゃない、めちゃくちゃ見てる。
 そりゃあサラとリンが居ない上に、知らない人が1人増えてるからな。怪しいと思う方が普通か。

「許可しよう。所長には後で私から話しておこう」

 ダメかと思ったけど、意外にもすんなりと許可が下りた。
 こうして国境を超え、レスト共和国からガルズ王国に出た。
 旅を続け、僕らはなんとか魔法都市ヴェルまで辿り着いた。
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