剣も魔術も使えぬ勇者

138ネコ@書籍化&コミカライズしました

文字の大きさ
上 下
127 / 157
第6章「宗教都市イリス」

第21話「アインへ向かって」

しおりを挟む
 アリアが僕に告白して以降、特に変わった様子はない。
 いつも通りの日常を過ごしている。

 (そもそも、告白する前から抱いていた感情だとしたら、変わらないのも当然か)

 逆に僕、サラ、リンがアリアを意識しすぎているかな。
 リンはアリアの前で頭を撫でられると、スッと僕の手の届かない場所に移動するし。
 サラは何かとつけてアリアの隣に僕を立たせようとしたりして、正直ちょっとしつこい。
 そんな中、全くブレないフレイヤさんは大物だな。相変わらず僕に抱きついたり、歩く時に手を握ったりしてくる。

 とはいえ、そんな緊張感がずっと続くわけもなく、10日もしない内にいつも通りになった。
 サラやリンがあの手この手で僕らをくっつけようとしたが、当のアリアは照れる事も恥ずかしがる事もせず、ただいつも通りの反応を示すだけだった。ここまで徹底していたら、さぞやりがいがなかっただろうな。

 だからといって、このまま関係をうやむやにするのも良いとは思えない。
 アインに行って、サラとリンの問題が終わったら、ちゃんと僕の気持ちを伝えよう。
 そう決心して疑問が湧いた。僕は僕の気持ちがわからない。


 ☆ ☆ ☆


 依頼が終わり、宿に戻ってきた。
 帰り道に自分の気持ちを考えてみたけど、何一つわからなかった。
 部屋に入り窓から外を眺める。酒場などの一部の店の灯りが見えるだけで、外はもう真っ暗だ。寒くなるにしたがい、日没までの時間が前よりも早くなった。
 振り返り、アリア達を見る。何もしてないわけじゃないけど、特に何かしているわけでもない。それぞれが適当にすごしている。
 もう少ししたら、アリアが「お腹を空いた」と言い出すんだろうな。

「どうしたのよ。そんな所で黄昏ちゃって」

 サラはきょとんとした表情で僕を見ていた。

「えっと、僕なりにアリアに対しての気持ちを整理していたんだ」

 隠すべきか悩んだけど、正直に言った。
 サラに言っただけなのに、アリア達も言葉に反応し黙って僕をみた。

「へぇ、アンタの事だからアリアが返事を急かさないのを良い事に、先送りにしてるものだと思ってたけど」

 サラが僕を少し感心したような目で見てるけど、実際の所は先送りだったりする。

「実は、僕自身もどう思ってるのかよくわからないんだ」

「はぁあああああ?」

 驚きと呆れが混ざったような声だ。
 そう言われても、僕自身がわからないんだからどうしようもない。

「僕はアリアは可愛いと思うし、大事な仲間だと思ってる」

「なによ、それなら」

「でもサラも同じように可愛いと思ってるし、大事な仲間だと思ってる」

「はぁ?」

「リンとフレイヤさんだって同じだ」

 見ればサラは頭を抱えていた。
 流石に「なんで頭抱えてるんだろう?」などと言うほど、僕は鈍感ではない。
 
「だから僕は皆の事が好きだ。でもこの感情は、多分アリアの好きとは違うと思うと思うんだ」

「そう……言いたい事が山ほどあるけど。その前にアリア、アンタは良いの? エルクが返事は保留って言ってるけど」

 呆れ気味に言うサラの言葉に、頭に「?」を浮かべ首をかしげるアリア。
 その仕草を見て、サラは脱力して壁にもたれかかっている。一々仕草がオーバーだな。
 そこまでされるとムッとなる。

「そういうサラこそ、アリアのように本気で好きだって言える相手は居るの?」

「え? 私?」

 イラっとして口走ったけど、よくよく考えてみればそんな出会い無いのだから、居るわけがないか。

「うん。サラは誰か居るの?」

 苦笑いを浮かべたサラの目線が宙を漂って居る。
 僕はサラの前まで歩いて、もう一度問い詰める。

「むぅ」

「ほら、居ないじゃないか」

 ちょっと言い過ぎたかもしれない。けれど、たまには僕だって言い返すさ。
 確かに優柔不断で気持ちはブレブレさ。それでも僕なりに悩んで考えてたんだ。いや、アリアもアリアなりに考えてそう結論付けているんだ。
 それを小馬鹿にしてさ。

 後ろからクイっと裾を引っ張られた。
 振り返り、引っ張った主を見る。引っ張った主はリンだ。
 リンは神妙な表情で僕を見上げた。。

「エルク。サラはエルクの心配をして言ってただけです」

「えっ」

「サラとリンは、もしかしたらアインでお別れになるかもしれないです。だから『自分達がいる間に、あの2人の関係はなんとかしてあげたいわね』とサラは言ってたです」

「……そうなんだ」

「確かに今のサラの態度は良くなかったです。でもエルク達の事を考えての事なのです、出来ればあまりサラを責めないでやってほしいです」

「うん。そっか。……サラ、ごめん」

「私も言いすぎたから……その、ごめんなさい」

 サラに頭を下げられ、いたたまれない気持ちになった。
 アリアのことを考えて、自分の気持ちがわからずモヤモヤしていた。だからいつものサラの行動にカチンときてしまい、サラに当たるような物言いになってしまった。
 
 微妙な空気が流れた。
 何か言おうにも、何も言い出せない。

「私はエルク君も、サラちゃんも好きだよ」

 唐突にフレイヤさんが僕とサラを両手で抱きしめてきた。
 アリアとリンを見て「もちろんリンちゃんもアリアちゃんも好きだよ」と付け足して。

「お腹が空くとイライラっとしちゃうんだよ。ご飯食べに行こう」

 全く、空気がここまで読めないのは逆に尊敬する。今回はそれが有難いわけだけど。

「うん。そうだね。ご飯食べに行こうか」

「ええ。そうね」

 一度ネガティブになると、イライラしてしまい、衝突して、またイライラの悪循環に陥ってしまう。
 ここは美味しいものを食べて、笑いあって、反省をして、そしてなかったことにしよう。

「行こうか」

「あっ……」

 そう言って僕はフレイヤさんの手を取った。その時のフレイヤさんの手は、小さく震えていた。
 もしかしてフレイヤさんは空気を読めなかったんじゃなく、空気を読んだ上であんな行動に出たのか。僕とサラのために。

「フレイヤさん」

 ごめんと言おうとして、言葉を必死に飲み込む。

「ありがとう」

「えへへ。どういたしまして」

「エルク。早く行くです」

 アリアとサラは先に出たようで、ドアの前でリンが呼んでいた。

「行こうか」

「あの、エルク君。ひとつ良いかな?」

 なんだろう?
 もじもじしながら、僕を見上げている。

「フレイヤって呼んで欲しいの。ダメかな?」

 確かにアリア達は呼び捨てに対し、フレイヤさんだけさん付けは余所余所しく感じるか。
 フレイヤさんが。いや、フレイヤがそう言うなら。

「フレイヤ。行こうか」

「うん」


 ☆ ☆ ☆


 さらに寒くなり、雪が降り出し、そして暖かくなり始めた。
 ついにアインに行く日が来た。

 街から少し離れただだっ広い平原の真っ只中に、高い塀で囲まれた場所。
 その塀に囲まれた場所に一つ、関所を思わせるような大きな入り口がある。
 僕たちは入り口から入る。中も関所と変わらないような作りだ。

「乗船券の確認をさせて頂きます」

 カウンターのような場所で女性の職員さんに僕ら5人分の乗船券を確認してもらい、荷物のチェックを受け、問題がなかったのだろう。「素敵な旅を」と言われ、出口の方向を指差しで案内された。
 
 出口から出ると、そこには大きな船がそびえ立っていた。
 船の上には細長いボールのようなものが浮いている。まさか、あれで船を持ち上げて空を飛ぶのだろうか?
 船のいたるところに巨大な棒が十字に付いている。
 本気でこんな物が空を飛ぶのだろうか?今から不安になって来た。

 振り返ると、アリア達も少々顔色が悪い。そりゃあこんな物に乗って空を飛んでいきましょうと言われたらそうなるよね。
 でも街からこの船が飛んでいる姿は何度か見たし、多分大丈夫なのだろうとは思うけど……

 不安に駆られながらも僕らは船に乗り込んだ。

「アイン行き飛空船、ただいま発進いたします。離陸時には大変揺れますので、お気をつけください」

 どこからともなく、そんな声が聞こえて来た。
 ヴェル魔法大会で使われたマイクの魔道具のようなもので、周りに聞こえるようにしているのだろう。
 直後、一瞬激しく揺れたと思ったら、窓から見える景色が下に落ちていった。
 本当に空に浮かび出した証拠だ。

「部屋から出ても良いんだって! 外の様子見にに行こう!」

 フレイヤが勢いよくドアを開けて出て行く。

「全く、はしゃいじゃって恥ずかしく」

 サラが何か言ってるけど、ここは無視だ。
 僕だって空からの景色が見てみたい!
 アリアとリンも同じ考えなのだろう。僕らは我先にと走り出した。
 後ろからサラが叫ぶ声が聞こえるけど、今はそんなものどうでも良い。

「凄い」

 甲板に出て外を見渡す。
 船はゆっくりと、僕らを乗せて空高く登って行く。
 イリスの街が段々と小さくなって、そして見えなくなった。

 しばらく上昇を続けた後、甲高い音が鳴り響いたと思ったら、船についてる十字の棒が次々と回り出し、船は真っ直ぐに進み出した。
 アインに向かい、僕らの旅は続く。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

神様の願いを叶えて世界最強!! ~職業無職を極めて天下無双する~

波 七海
ファンタジー
※毎週土曜日更新です。よろしくお願い致します。  アウステリア王国の平民の子、レヴィンは、12才の誕生日を迎えたその日に前世の記憶を思い出した。  自分が本当は、藤堂貴正と言う名前で24歳だったという事に……。  天界で上司に結果を出す事を求められている、自称神様に出会った貴正は、異世界に革新を起こし、より進化・深化させてほしいとお願いされる事となる。  その対価はなんと、貴正の願いを叶えてくれる事!?  初めての異世界で、足掻きながらも自分の信じる道を進もうとする貴正。  最強の職業、無職(ニート)となり、混乱する世界を駆け抜ける!!  果たして、彼を待っているものは天国か、地獄か、はたまた……!?  目指すは、神様の願いを叶えて世界最強! 立身出世!

【完結】ゲーム転生、死んだ彼女がそこにいた〜死亡フラグから救えるのは俺しかいない〜

たけのこ
ファンタジー
恋人だったミナエが死んでしまった。葬式から部屋に戻ると、俺はすぐにシミュレーションRPG「ハッピーロード」の電源を入れた。このゲーム、なぜかヒロインのローラ姫が絶対に死ぬストーリーになっている。世界中のゲーマーがローラ姫の死なない道を見つけようとしているが、未だそれを達成したものはいない。そんなゲームに、気がつけば俺は転生していた。しかも、生まれ変わった俺の姿は、盗賊団の下っ端ゴブリンだった。俺は、ゲームの運命に抗いながら、なんとかこの世界で生き延び、死の運命にあるローラ姫を救おうとする。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」  パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。  彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。  彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。  あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。  元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。  孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。 「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」  アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。  しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。  誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。  そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。  モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。  拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。  ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。  どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。  彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。 ※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。 ※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。 ※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...