上 下
114 / 157
第6章「宗教都市イリス」

第8話「動機」

しおりを挟む
 枯れたヤドリギウツボを見上げながら、ゾフィさんは苦笑いを浮かべる。
 スキールさんとケリィさんはその隣でポカーンと口を開けて、ゾフィさんと同じようにヤドリギウツボを見ている。

「おいおい。これは一体どうやったんだい?」

 僕の方を見ずに、相変わらず苦笑いを浮かべたゾフィさんが言った。

「えっと。ごめんなさい。どうやったかは説明することができません」

「あー。企業秘密って奴か」

「えっと。はい。そうなります」

 イルナちゃんに教え広めないように言われてるから、おいそれと教えるわけにはいかない。

「そうか。なら良い。それより、討伐証明として持って帰れる部位がないか探すよ」

 どうやって言いくるめようか考えていたのだが、ゾフィさんはすんなりと詮索するのを諦めてくれた。

「どうしたんだい? 変な顔して」

「いえ。あれこれ聞かれるかと思っていたので」

「あぁ。いわゆる『ワケあり』な連中も、冒険者には少なくないからね。無理に詮索しないってのは、冒険者の中で暗黙の了解になっているんだ。ギルド側もそういった連中を見て見ぬ振りをするために、素性はあえて聞かないようにしているしね」

 どんな経歴を持った人物であろうと、依頼をこなして問題を起こさなければギルドは何も干渉しない。どうやらそういうものらしい。
 彼女達は冒険者をやって長いらしく、ヤドリギウツボの討伐証明部位を探す間に、冒険者間で暗黙のルールになっていることを色々と教えてくれた。

「あったあった。コイツがヤドリギウツボの雄しべ。いわゆるチ●コだね」

 言い方!
 何がおかしいのかゲラゲラ笑いながら、僕の腕の長さ位はあるだろう雄しべをブラブラさせている。先程まで色々教えてくれて、好印象だった彼女に対する考えを改めさせられた。
 顔を真っ赤にして「すみません」と連呼しながら、ゾフィさんをやめさせようとするケリィさんだが、軽くいなされている。多分このパーティで一番苦労している人なんだろうな。 
 
「そんな事よりも、そろそろ良いかしら?」

 サラは不機嫌ですと言わんばかりに、腕を組み、いつものチンピラのような表情をしながら低い声で言った。
 いつ不満が爆発するか不安だったが、律儀にも依頼が終わるまで待っていてくれた。
 
「あぁ。そうだった。アタシ達が先に出発した理由だったね」
 
「それについては、俺が説明しよう」

 ゾフィさんに代わり、スキールさんが出てきた。

「俺達が先に出た理由は、正義のためだ」

 得意気に語るスキールさんを見て、サラの中で、ブチンと何かが切れる音がしたのが聞こえた気がした。

「あぁん?」

 サラが動くよりも早く、僕はサラを後ろから羽交い締めにして止める。

「何よ。エルク離しなさい! アンタあのバカの肩を持つつもりなの!?」

「違うよ! 落ち着いて! 最後まで話を聞いてからにしよ? ね?」

 必死に宥めようとするも、サラは聞き入れてくれない。
 こうなったら、流石に僕だけじゃ抑えきれない。

「二人とも、落ち着くです」

 僕らの服をクイっと引き、リンが言った。
 サラもリンの言葉は素直に聞いてくれる、少しだけ大人しくなってくれた。

「エルク。もう手遅れです」

 リンが指差す。そこには既に殴り倒されたスキールさんが。
 アリアか、僕らに向かって親指を立てている。いつも通り無表情だけど、どこか自慢気に見える。

「アリア。アンタやるじゃない」

 嬉しそうな声を上げ、サラはアリアに親指を立てて返している。
 僕はため息をつき、サラを解放した。


 ☆ ☆ ☆


「すみません。大丈夫ですか」

「イテテテ。あぁ、大丈夫。慣れてるからね」

 僕は手を差し出し、スキールさんを起こした。

「慣れているって、いつもこんな事をしているんですか?」

「いや、いつもというわけではないけど。まぁ良くあるかな」

 良くあるのに懲りないのか。流石にそれはどうかと思う。

「でも大抵は怒ってそのまま帰っていくんだけど、残ったのはキミ達が初めてかな」

「ええ。理由が気になるので」

「理由? だから正義のために」

 ちょっとイラっとしたが、ここは我慢だ。

「なぜ早く出発する事が正義のためになるのですか?」

「緊急性が高い依頼だからさ。急を要する依頼なのに、わざわざ待っていたら被害が大きくなる一方だろ?」

「ですが、それで他の冒険者を待たずに出発したら、今度はスキールさん達が危険な目に会う可能性だってありますよ?」

 先走った結果、仲間がケガをしたり死ぬ危険性だってある。
 それくらい、わからないでもないはずなのに。
 そんな僕の言葉に対して、スキールさんは首を横に降る。

「エルク。確かにキミが言いたいことはよくわかる」

「じゃあ。どうして」

「武器を持った俺達が危険な目に合うということは、戦うすべをを持たない村人達は、もっと危険に晒されてるんだ」 

 返す言葉がなかった。
 彼が言っていることは、ただの綺麗事で、理想論で、純粋すぎるが故に幼稚とも取られる正義感だ。
 そして、それは僕の抱いている理想でもある。だから何も言い返せなかった。
 
「……笑わないのか?」

「笑いませんよ」

 もし僕が彼を笑ったら、それは僕の中の何かが壊れてしまうだろう。

「キミは、お人好しだな」

  そう言ったスキールさんの声は、心なしか嬉しそうだ。

「とまぁ、偉そうな事を言ってはみたけど、俺自身は対して実力も無い勇者だから、ゾフィとケリィに頼ってばかりなんだがな」

 そう言って、スキールさんは後頭部をさすりながら、苦笑気味に笑った。
 その姿に、少し前の僕がダブって見えた。

「あのさ。サラちょっと相談があるんだけど、良いかな?」

「良いわよ」

 彼の手伝いがしたい。それが僕の今の考えだ。
 だけど僕一人ならともかく、パーティだから勝手に決める事は出来ない。
 出来ればサラ達に納得してもらいたい。
 相談があると言っておきながら、なんと切り出すべきか、言葉に詰まった。

「だから、良いわよ」

 ん?

「どうせアンタの事だから『彼等の手助けがしたいです』とか言いたいんでしょ」

「あ、はい」

 ズバリそうです。

「アインに行くまでの間で、ちゃんと報酬が出る依頼でやる分には私は構わないわ。もちろん何も言わずに、また勝手に行ったりしたら殴るけど」

 サラは「リンもそれなら良いわよね?」と言って、リンからも了承を得てくれた。

「アリアやフレイヤも、アンタの意見なら従うでしょ」

「あっ、うん。ありがとう。でも僕が言いたい事、良くわかったね」

 わかった事よりも、理解を示し賛成してくれたことの方が驚きだけど、その事は口に出さない方が良いだろうな。それを口にしたら、きっと不機嫌になりそうだし。

「短い付き合いってわけじゃないんだし、アンタの言いそうな事くらいわかるわよ」  

 そう言うとため息をついて、両手を上げやれやれといった感じに首を振っている。

「という感じでまとまったので、同じような依頼があった場合、僕らも手伝いたいと思うのですが、どうでしょうか?」

 振り返ってスキールさんを見る。
 僕らの様子を見ていたスキールさんは、少しだけ驚いた表情をしていた

「本当かい!? 助かるよ! 是非お願いしたい」

 お互いうなづき、握手を交わした。


 ☆ ☆ ☆


「一緒に行かなくて良いんですか?」

 村の外まで出た僕らは、馬にまたがっていた。
 行きの時と同様に僕はサラの、フレイヤさんはアリアの後ろに乗せてもらいながら。

「あぁ、僕らは歩きだし、村の人たちの誤解を解いてから行こうと思う」

 誤解、あぁ僕らが遅刻したと思われている事か。
 討伐が終わった後の、村人の塩対応はちょっと厳しいものがあったな。
 それを見かねたスキールさん達が色々と説明をしてくれたんだけど、どうにも納得した様子ではなかったし。

「村の方で誤解が解けたら急いで街に戻るよ。困ってる人はまだまだ沢山いるはずだからな」

 そう言って手を振るスキールさん達と別れ、僕らは街に戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

処理中です...