107 / 157
第6章「宗教都市イリス」
第1話「西へ」
しおりを挟む
僕の名はエルク。15歳。
元引きこもりで、今は冒険者をやっている。
剣も魔術も使えず、戦う能力の無い僕は、パーティの雑用係ともいうべき『勇者』になった。
冒険者になって、僕は色々変わった。
剣も魔法も才能が無い僕だけど、『混沌』という身体能力が向上し、魔法を無効化する力を手に入れ。
かつて、イジメに負けて逃げ出した学園を、卒業する事が出来た。
そして気が付けば、人族とエルフ族の友好関係を結ぶ橋渡しまでしていた。
☆ ☆ ☆
魔法都市ヴェルに戻った僕らは、数日置いた後にジャイルズ先生、ギルドマスター、学園長に連れられ領主の住む館まで来た。
こんな所まで呼び出された理由。それは今回のエルフの件で話をするためだ。
元Sランク冒険者になれば、領主と謁見くらいは出来ると聞いていたが、こんなにも簡単に出来る物なのかと驚いた。
だけど謁見出来る理由は実際はちょっと違った。
応接間の扉を開けると、椅子にドカッと座り、何故か全身鎧を着用している男。この男が領主だった。
座っているから分からないけど、多分身長は僕よりも二回り以上高いだろう。少しこけた頬からはやや痩せ気味な印象を受ける。
「あぁ、この格好は気にしないでくれたまえ」
そう言われても、気になるものは気になってしまう。
領主が着ている鎧には古代の技術が使われているようで、見た目と違い羽のように軽いのだとか。イルナちゃんも重そうな鎧を着てた割りには、身軽に動き回ってたし同じような物なのかな?
だけど気になるのはそこじゃない、着ている理由だ。そんな僕らの様子に気づいたのか、理由を語り出した。
「何故全身鎧を着ているか? それはいつ命を狙われるか、分からぬからだ」
なるほど。
この領主の基本的な考えは、まずは身の安全だった。
なので身の安全の為に、エルフに危害を加えるつもりは一切ないと話してくれた。
エルフを捕まえ奴隷にして売れば確かに金になる。だけど取り逃したエルフから恨みを買えば、命を狙われかねない。
また、エルフの奴隷を欲しがる貴族からだって命を狙われる可能性がある。だから捕まえるつもりはない、と。
保護をすれば感謝されど、命を狙われることは無い。その上、貴重なシルクも手に入る。
エルフが保護されているとウワサが流れれば、ヴェルに人が流れてくる。人が増えればは経済が活発になる。
「最小限のリスクで益を取る。これが私の考え方だ」
多分、本当はもっと難しい事情があるのだろうけど、今回は僕たちにもわかるように、わかりやすく話してくれたのだろう。
他にも色々と話してくれていた気がするが、あまり覚えていない。
緊張もしていたのもあるけど、アリアとダンディさんが粗相をしないか不安でそれどころじゃなかったからだ。
二人とも慣れていないのか、そわそわと落ち着かない様子だけど、今の所問題は無い。
「ところで、キミ達は今後の予定というのは決まっているかね?」
「はい。レスト共和国の宗教都市イリスへ向かい、そこから工業国家アイン行こうと思っております」
領主の質問に答えたのはサラだった。
「そうか。エルフの件はキミ達にお願いしようと思っていたのだが、仕方がない」
そう言って領主は、フレイヤさんの姿を見た。
「ならば私が一筆書いてあげよう。ここからレスト共和国の国境までは私の名前が使える。何かあった時の役に立つだろう」
フレイヤさんがエルフである事で、面倒ごとが生じた際に、自分の名前を使ってくれと言う事なのだろう。
こうして謁見は無事終了した。
☆ ☆ ☆
数日後、僕らはお世話になった人達に挨拶をしてヴェルの街を出発した。
ダンディさんはフレイヤさんと仲直りしており、今度はちゃんと別れの挨拶が出来たようで何より。
領主の好意により、国境までの馬車と旅に必要な物を用意してもらえた。
「なぁに、お礼はいらぬ。ドワーフの街に行ったら、是非ヴェルの宣伝をしておいてくれたまえ。ここにエルフが居ると知ればドワーフも交易に来るかもしれんからな」
とは領主の言らしい。
多少のお金を払ったとしても、僕らが早くドワーフの国でヴェルの事を宣伝してくれる方が利益が出るとふんだのだろう。
アリアが綱を引き、ガタガタと心地よく揺れる馬車に乗って僕らは西へ移動している。
魔法都市ヴェルを出て、ヴェル平原を渡る。いくつか宿場町を経由して、このまま進めば僕らが今いるガルズ王国の関門につくだろう。
関所は国境沿いに設置されており、そこを抜ければレスト共和国の領土だ。目的地はそのずっと先にある宗教都市イリスだ。
宗教都市イリスは、イリス教という宗教の総本山を構える都市で、世界でも数少ないドワーフと交易をしている都市の一つだ。
イリス教の歴史は古く、アンリの英雄譚でもこの都市の名前は出てくる。
イリス教が崇める神の一人、女神イリスは宗教都市イリスを護る際に虹の橋を渡ったという逸話がある。
もしかしたらドワーフ達はその話とかけて、空飛ぶ船で交易にこの街を選んだのかもしれない。
「工業国家アインか」
正直、不安が無いわけじゃない。
「アインの首都アルヴなら、どんな種族も平等に暮らせると聞いたわ」
ミド大陸では、どこに行っても獣人への迫害や偏見があるからね。
だけど他の土地に行っても、あまり変わらない。
「もし獣人も平等に暮らせる街なら、私はリンとそこに永住しようと思っているわ」
サラはそう言って、旅の目的を話してくれた。
リンの戦闘力なら、ミド大陸でもやっていけるだろう。
だが結婚し、子供を作るとなると、リンだけではなくその子供の安全も確保しなければならない。
なので、アルヴへ安寧を求めてか。
もしアルヴが、サラの言うような安全な土地だったら、僕らの旅はそこが終着地点という事になるな……。
それは、僕らの別れも意味する事になる。
リンは俯き、黙ったままだ。
彼女の体には痛ましい傷が多数ある。奴隷時代の物だ。
そんなリンにとって、この話は喜ぶ内容だと思うのに、俯いたまま何も言わない。
「行くわ。絶対に」
サラは真っ直ぐ前だけを見据えて、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
「じゃあ、じゃあ。皆で一緒に暮らそうよ!」
フレイヤさんの底抜けに明るい声で、湿っぽかった空気が一瞬で吹き飛んだ。
僕も、サラも、リンもポカーンと口を開け、声を揃えて「は?」と言う言葉が出た。
「なんかエルク君達暗くなってるけど。離れるのが嫌なら皆で一緒に暮らせば解決じゃない?」
「一緒に暮らすって簡単に言いますけど、パーティで一緒に居るのと違うんですよ?」
「今も一緒に寝泊まりしてるけど、何が違うの?」
何がって……何が違うんだろ?
サラに視線を向けてみる。
「違うわよ。ほら、その、色々と」
「色々って何?」
そんなサラの言葉に、今度はアリアが反応した。
って、前! 前見て!
「アリア。前! 前! 良い子だから、ちゃんと前を見て運転してね」
アリアはぐるんと真後ろを向いて、もうよそ見ってレベルじゃない。
「うん」
頷き、前を見て操縦を再開するアリア。
「それで、色々って?」
「それは……別に後で考えれば良いでしょ!」
逆ギレによる力技でごまかそうとしているけど、アリアもフレイヤさんも「えー?」と言って引く様子はない。
「モンスターが近づいてるです」
グッドタイミング!
じゃない、モンスターが来てるんだからお話はここで一旦止めないといけないよね。うん。
「モンスターが来てるみたいだよ。ほら馬車を止めて迎撃しようか」
馬車を止め、降りると遠くから走ってくる物体が見える。
しばらくして、その姿がはっきりと映った。ブラウンジャッカルだ。
全身茶色の毛に覆われて、群れで狩りをするモンスターだ。
先頭を走るブラウンジャッカルに続くように、何匹も居るのが見える。
「数は8匹です」
数は多いが、個体での戦闘力は野良犬と大差がない。
この程度のモンスターなら、僕らにとっては障害でも何でもないな。
「剣の練習の成果を試したいから、先頭の一匹は僕がやっても良いかな?」
「ふぅん。言うようになったじゃない」
サラは僕を見てニヤニヤしている。
茶化してる感じではあるが、不快感はない。
「良いわ。邪魔が入らないようにしてあげるから頑張りなさい」
彼女達にお礼を言って、僕は先頭を走るブラウンジャッカルへ向かっていく。
先頭のブラウンジャッカルも標的を僕に決めたようだ。速度を上げ、僕に向かって飛びかかってきた。
速い。けど動きが視える。
飛び込んできたブラウンジャッカルに合わせ、左足を前に出し、体をひねりながら全身を使っての横薙ぎ。
両手で握った剣に重みがかかる。剣先でブラウンジャッカルを捕らえた感触だ。
外した時の事も考えて、そこまで力を入れたつもりはなかったが、ブラウンジャッカルは思った以上に吹き飛んだ。
吹き飛んだものの、空中でくるりと一回転を決めて華麗に着地をした。
思ったよりもダメージが無いかと思ったけど、よく見れば腹部が割け腸がはみ出ている。
着地をしたもののよろよろと動けずにいるブラウンジャッカルの元まで走り、僕はトドメを刺した。
サラ達の方を見ると、とっくに戦闘は終わっていたようで、皆が僕を見ていた。
「えっと。えへへ」
何といえば良いか分からず、思わず愛想笑いを浮かべてしまった。
何が「えへへ」だよ。そう思うと余計に恥ずかしい。
そんな僕に対し、アリアは無表情で頷き、サラは満足そうに手を腰に当てている。
「エルク。今のは、ちょっと大振りだったです」
「そうかな? 一応空ぶりをした時の為に、そこまで力を入れたつもりはなかったけど」
今のは例え外れていても、すぐに2撃目が出せる位の力にしていた。
その証拠と言わんばかりに、僕はリンの前で先ほどと同じ横薙ぎを見せ、即座に腕を引き2撃目の突きをしてみせた。
「なるほど。エルクは日頃からちゃんと頑張ってたみたいです。その証拠に結構筋肉が付いてるです」
僕の二の腕を触り、リンが褒めてくれた。
触られると、ちょっとこそばゆい。
「これからも頑張れば、エルク君もダンディみたいになれるかもね!」
ははっ。それはごめんだ。
道中のモンスターは、問題が無い限りは、僕も剣で戦闘に参加しながら旅をつづけた。
元引きこもりで、今は冒険者をやっている。
剣も魔術も使えず、戦う能力の無い僕は、パーティの雑用係ともいうべき『勇者』になった。
冒険者になって、僕は色々変わった。
剣も魔法も才能が無い僕だけど、『混沌』という身体能力が向上し、魔法を無効化する力を手に入れ。
かつて、イジメに負けて逃げ出した学園を、卒業する事が出来た。
そして気が付けば、人族とエルフ族の友好関係を結ぶ橋渡しまでしていた。
☆ ☆ ☆
魔法都市ヴェルに戻った僕らは、数日置いた後にジャイルズ先生、ギルドマスター、学園長に連れられ領主の住む館まで来た。
こんな所まで呼び出された理由。それは今回のエルフの件で話をするためだ。
元Sランク冒険者になれば、領主と謁見くらいは出来ると聞いていたが、こんなにも簡単に出来る物なのかと驚いた。
だけど謁見出来る理由は実際はちょっと違った。
応接間の扉を開けると、椅子にドカッと座り、何故か全身鎧を着用している男。この男が領主だった。
座っているから分からないけど、多分身長は僕よりも二回り以上高いだろう。少しこけた頬からはやや痩せ気味な印象を受ける。
「あぁ、この格好は気にしないでくれたまえ」
そう言われても、気になるものは気になってしまう。
領主が着ている鎧には古代の技術が使われているようで、見た目と違い羽のように軽いのだとか。イルナちゃんも重そうな鎧を着てた割りには、身軽に動き回ってたし同じような物なのかな?
だけど気になるのはそこじゃない、着ている理由だ。そんな僕らの様子に気づいたのか、理由を語り出した。
「何故全身鎧を着ているか? それはいつ命を狙われるか、分からぬからだ」
なるほど。
この領主の基本的な考えは、まずは身の安全だった。
なので身の安全の為に、エルフに危害を加えるつもりは一切ないと話してくれた。
エルフを捕まえ奴隷にして売れば確かに金になる。だけど取り逃したエルフから恨みを買えば、命を狙われかねない。
また、エルフの奴隷を欲しがる貴族からだって命を狙われる可能性がある。だから捕まえるつもりはない、と。
保護をすれば感謝されど、命を狙われることは無い。その上、貴重なシルクも手に入る。
エルフが保護されているとウワサが流れれば、ヴェルに人が流れてくる。人が増えればは経済が活発になる。
「最小限のリスクで益を取る。これが私の考え方だ」
多分、本当はもっと難しい事情があるのだろうけど、今回は僕たちにもわかるように、わかりやすく話してくれたのだろう。
他にも色々と話してくれていた気がするが、あまり覚えていない。
緊張もしていたのもあるけど、アリアとダンディさんが粗相をしないか不安でそれどころじゃなかったからだ。
二人とも慣れていないのか、そわそわと落ち着かない様子だけど、今の所問題は無い。
「ところで、キミ達は今後の予定というのは決まっているかね?」
「はい。レスト共和国の宗教都市イリスへ向かい、そこから工業国家アイン行こうと思っております」
領主の質問に答えたのはサラだった。
「そうか。エルフの件はキミ達にお願いしようと思っていたのだが、仕方がない」
そう言って領主は、フレイヤさんの姿を見た。
「ならば私が一筆書いてあげよう。ここからレスト共和国の国境までは私の名前が使える。何かあった時の役に立つだろう」
フレイヤさんがエルフである事で、面倒ごとが生じた際に、自分の名前を使ってくれと言う事なのだろう。
こうして謁見は無事終了した。
☆ ☆ ☆
数日後、僕らはお世話になった人達に挨拶をしてヴェルの街を出発した。
ダンディさんはフレイヤさんと仲直りしており、今度はちゃんと別れの挨拶が出来たようで何より。
領主の好意により、国境までの馬車と旅に必要な物を用意してもらえた。
「なぁに、お礼はいらぬ。ドワーフの街に行ったら、是非ヴェルの宣伝をしておいてくれたまえ。ここにエルフが居ると知ればドワーフも交易に来るかもしれんからな」
とは領主の言らしい。
多少のお金を払ったとしても、僕らが早くドワーフの国でヴェルの事を宣伝してくれる方が利益が出るとふんだのだろう。
アリアが綱を引き、ガタガタと心地よく揺れる馬車に乗って僕らは西へ移動している。
魔法都市ヴェルを出て、ヴェル平原を渡る。いくつか宿場町を経由して、このまま進めば僕らが今いるガルズ王国の関門につくだろう。
関所は国境沿いに設置されており、そこを抜ければレスト共和国の領土だ。目的地はそのずっと先にある宗教都市イリスだ。
宗教都市イリスは、イリス教という宗教の総本山を構える都市で、世界でも数少ないドワーフと交易をしている都市の一つだ。
イリス教の歴史は古く、アンリの英雄譚でもこの都市の名前は出てくる。
イリス教が崇める神の一人、女神イリスは宗教都市イリスを護る際に虹の橋を渡ったという逸話がある。
もしかしたらドワーフ達はその話とかけて、空飛ぶ船で交易にこの街を選んだのかもしれない。
「工業国家アインか」
正直、不安が無いわけじゃない。
「アインの首都アルヴなら、どんな種族も平等に暮らせると聞いたわ」
ミド大陸では、どこに行っても獣人への迫害や偏見があるからね。
だけど他の土地に行っても、あまり変わらない。
「もし獣人も平等に暮らせる街なら、私はリンとそこに永住しようと思っているわ」
サラはそう言って、旅の目的を話してくれた。
リンの戦闘力なら、ミド大陸でもやっていけるだろう。
だが結婚し、子供を作るとなると、リンだけではなくその子供の安全も確保しなければならない。
なので、アルヴへ安寧を求めてか。
もしアルヴが、サラの言うような安全な土地だったら、僕らの旅はそこが終着地点という事になるな……。
それは、僕らの別れも意味する事になる。
リンは俯き、黙ったままだ。
彼女の体には痛ましい傷が多数ある。奴隷時代の物だ。
そんなリンにとって、この話は喜ぶ内容だと思うのに、俯いたまま何も言わない。
「行くわ。絶対に」
サラは真っ直ぐ前だけを見据えて、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
「じゃあ、じゃあ。皆で一緒に暮らそうよ!」
フレイヤさんの底抜けに明るい声で、湿っぽかった空気が一瞬で吹き飛んだ。
僕も、サラも、リンもポカーンと口を開け、声を揃えて「は?」と言う言葉が出た。
「なんかエルク君達暗くなってるけど。離れるのが嫌なら皆で一緒に暮らせば解決じゃない?」
「一緒に暮らすって簡単に言いますけど、パーティで一緒に居るのと違うんですよ?」
「今も一緒に寝泊まりしてるけど、何が違うの?」
何がって……何が違うんだろ?
サラに視線を向けてみる。
「違うわよ。ほら、その、色々と」
「色々って何?」
そんなサラの言葉に、今度はアリアが反応した。
って、前! 前見て!
「アリア。前! 前! 良い子だから、ちゃんと前を見て運転してね」
アリアはぐるんと真後ろを向いて、もうよそ見ってレベルじゃない。
「うん」
頷き、前を見て操縦を再開するアリア。
「それで、色々って?」
「それは……別に後で考えれば良いでしょ!」
逆ギレによる力技でごまかそうとしているけど、アリアもフレイヤさんも「えー?」と言って引く様子はない。
「モンスターが近づいてるです」
グッドタイミング!
じゃない、モンスターが来てるんだからお話はここで一旦止めないといけないよね。うん。
「モンスターが来てるみたいだよ。ほら馬車を止めて迎撃しようか」
馬車を止め、降りると遠くから走ってくる物体が見える。
しばらくして、その姿がはっきりと映った。ブラウンジャッカルだ。
全身茶色の毛に覆われて、群れで狩りをするモンスターだ。
先頭を走るブラウンジャッカルに続くように、何匹も居るのが見える。
「数は8匹です」
数は多いが、個体での戦闘力は野良犬と大差がない。
この程度のモンスターなら、僕らにとっては障害でも何でもないな。
「剣の練習の成果を試したいから、先頭の一匹は僕がやっても良いかな?」
「ふぅん。言うようになったじゃない」
サラは僕を見てニヤニヤしている。
茶化してる感じではあるが、不快感はない。
「良いわ。邪魔が入らないようにしてあげるから頑張りなさい」
彼女達にお礼を言って、僕は先頭を走るブラウンジャッカルへ向かっていく。
先頭のブラウンジャッカルも標的を僕に決めたようだ。速度を上げ、僕に向かって飛びかかってきた。
速い。けど動きが視える。
飛び込んできたブラウンジャッカルに合わせ、左足を前に出し、体をひねりながら全身を使っての横薙ぎ。
両手で握った剣に重みがかかる。剣先でブラウンジャッカルを捕らえた感触だ。
外した時の事も考えて、そこまで力を入れたつもりはなかったが、ブラウンジャッカルは思った以上に吹き飛んだ。
吹き飛んだものの、空中でくるりと一回転を決めて華麗に着地をした。
思ったよりもダメージが無いかと思ったけど、よく見れば腹部が割け腸がはみ出ている。
着地をしたもののよろよろと動けずにいるブラウンジャッカルの元まで走り、僕はトドメを刺した。
サラ達の方を見ると、とっくに戦闘は終わっていたようで、皆が僕を見ていた。
「えっと。えへへ」
何といえば良いか分からず、思わず愛想笑いを浮かべてしまった。
何が「えへへ」だよ。そう思うと余計に恥ずかしい。
そんな僕に対し、アリアは無表情で頷き、サラは満足そうに手を腰に当てている。
「エルク。今のは、ちょっと大振りだったです」
「そうかな? 一応空ぶりをした時の為に、そこまで力を入れたつもりはなかったけど」
今のは例え外れていても、すぐに2撃目が出せる位の力にしていた。
その証拠と言わんばかりに、僕はリンの前で先ほどと同じ横薙ぎを見せ、即座に腕を引き2撃目の突きをしてみせた。
「なるほど。エルクは日頃からちゃんと頑張ってたみたいです。その証拠に結構筋肉が付いてるです」
僕の二の腕を触り、リンが褒めてくれた。
触られると、ちょっとこそばゆい。
「これからも頑張れば、エルク君もダンディみたいになれるかもね!」
ははっ。それはごめんだ。
道中のモンスターは、問題が無い限りは、僕も剣で戦闘に参加しながら旅をつづけた。
0
お気に入りに追加
530
あなたにおすすめの小説
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
落ちこぼれの無能だと貴族家から追放された俺が、外れスキル【キメラ作成】を極めて英雄になるまで
狐火いりす@商業作家
ファンタジー
「貴様のような落ちこぼれの無能は必要ない」
神からスキルを授かる『祝福の儀』。ハイリッヒ侯爵家の長男であるクロムが授かったのは、【キメラ作成】のスキルただ一つだけだった。
弟がエキストラスキルの【剣聖】を授かったことで、無能の烙印を捺されたクロムは家から追い出される。
失意の中、偶然立ち寄った村では盗賊に襲われてしまう。
しかし、それをきっかけにクロムは知ることとなった。
外れスキルだと思っていた【キメラ作成】に、規格外の力が秘められていることを。
もう一度強くなると決意したクロムは、【キメラ作成】を使って仲間を生み出していく……のだが。
狼っ娘にドラゴン少女、悪魔メイド、未来兵器少女。出来上がったのはなぜかみんな美少女で──。
これは、落ちこぼれの無能だと蔑まれて追放されたクロムが、頼れる仲間と共に誰もが認める英雄にまで登り詰めるお話。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜
黒城白爵
ファンタジー
とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。
死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。
自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。
黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。
使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。
※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。
※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる