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第3章「魔法大会予選 ‐エルクの秘められた力‐」

第14話「アリアとデート 後編」

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 朝食を済ませた僕らは、街をブラブラ歩いていた。
 特にアテも無く、ブラブラしているだけだ。
 おっ、露店でアクセサリーが売ってるぞ。
 しゃがみこんで、何か良い物が無いか見てみる。

「このネックレス、可愛くないですか?」

 真鍮製のハートを象ったアクセサリに、紐を通しただけの簡素なものだ。
 彼女が気に入るなら、買ってあげても良いと思う。

「うん、エルクに似合いそう」

「本当? えへへ嬉しい」

 違う!
 立場が逆だ。冗談で女の子のセリフを言ってみただけのに、アリアは僕に試着させようとして来るし。
 アリアに対してボケてはダメだ。いつも真面目に返されてしまう。

 露店の主もちょっとひきつった笑いをしている、「何だコイツら?」と思われてそうだ。
 アリアは店主の存在など気にせず、ネックレスを両手で持ち、顔を近づけてくる。
 と言うか距離近すぎやしませんか? お互い鼻が当たりそうな位の距離なのですが。
 
 ちょっとでも動けば唇だって触れてしまいそうな距離で、僕は1ミリも動けずにいる。
 文字通り目と鼻の先に居る彼女が、ゆっくりとネックレスをかけてくれている。
 彼女に目を向けると、目と目が合ってしまい恥ずかしさがこみ上げてくる。視線を移動させよう。

 しかし視線を下に移すのはヤバイ。
 彼女は今しゃがんで前かがみになってる状態だ。正直見たいけど、そういう目で見ちゃダメだ。
 チラっとだけ見て、すぐに視線を戻した。
 
「うん、似合ってる」

 満足そうな彼女だが、そのままジーっと僕を見てくる。
 こういう時のアリアは何かして欲しい合図だ。とりあえず頭撫でとく?

 なでなで。満足そうではあるが「違う、そうじゃない」と言いたげだ。
 おや? 彼女の目線がちょっと動いた。
 あっ、なるほど。目線の先を見て納得した。「私にもネックレス選んで?」と言う意思表示か。

 と言っても、今僕が付けているのが彼女に似合うと思った物だからな。
 う~ん、別に同じ物を選んだって良いよね? 猫耳の時だってリンは「一緒は嬉しいです」と言ってたし。
 同じものがないか探して、見つけた!

「僕とお揃いは、どうかな?」 

「うん。良いよ」

 「着けて」と言わんばかりに顔を近づけてくる。
 かけたは良いけど、彼女の後ろ髪が。
 ちょっと失礼して左手でネックレスを抑えながら、右手で彼女の後ろ髪を通す。
 彼女の髪が思ったよりも柔らかく、サラサラとした感触に思わずドキドキしてしまう。
 
「似合う?」

「似合ってますよ」

「うん」

 無表情な彼女だが、微妙な差異で何となく感情が読める。
 今の「うん」は満足な感じの「うん」だ。

「二つで30シルバだけど、アツイ所を見せてくれたお礼だ。 20シルバにまけとくよ」

 そんな関係じゃないって……デートだからそんな関係になるのか? まいいや。
 ニヤニヤした店主に20シルバ支払う。

「まいどあり!」

 僕からお金を受け取り、威勢よくお礼のあいさつをする店主。


 ☆ ☆ ☆


「アリア。ちゃんと前を見ないと危ないよ」

「気配でわかるから大丈夫」

 露店を離れ歩き出すと、彼女は左手で僕のローブの背中を掴み、右手で先ほど買ったネックレスを弄っていた。
 ハートのアクセサリを指でつっついたり、持ってみたりしている。どうやらお気に召したようだ。
 すれ違う人とぶつからないか心配だったが、本当に気配でわかるのか、器用に前から来る人と微妙に当たらない位置に移動しながら歩いている。

 しかしブラブラするのは良いけど、何か目的が無いと、これではアリアを引き連れて歩いているだけだ。
 そうだ! 「女の子は可愛い服が好きだ」とスクール君が言ってた。リンの服を選ぶ時もサラは凄く生き生きしてたし。

「アリアは可愛い服とか欲しくないですか?」

「これがある」

 そう言って彼女は服の胸元を摘む。
 ちょっとはしたない。
 
「エルクは新しい服欲しいの?」

「いえ、僕もこれがありますし」

 そう言って僕も自分のローブを摘む。 

 おニューだけどお古の服を貰ってるし、わざわざ買いに行く必要はないか。
 街で着る服は一張羅で十分だ。
 別に見るだけでも良いけど、彼女の反応を見ると衣類にそこまで興味無さそう。
 
 そもそも僕は、彼女の好きな物を知らない。
 よし、それじゃあ何が好きか知るために片っ端から色んなお店に入ってやろう。

 本屋、マジックショップ、武器屋、楽器屋。
 色んなお店に入ったが、興味ある程度の反応しか見れなかった。
 結局、お店よりも出店の料理を食べてばかりだった。

 フルーツとクリームを卵生地で包んだもの、小麦粉と卵の生地に肉や野菜を乗せて焼いた物、変わった魚料理。
 食べた事無い料理がおいしそうな匂いをさせているのだから仕方ない。
 食後はお店の横で作り方を見てメモを取っておいた。彼女が気にいった料理を。今度僕が作る用にだ。


 ☆ ☆ ☆


 お昼になった。
 あれだけ食べ歩いたというのに、彼女は胃袋に余裕があるらしく、お昼ごはんも美味しそうに食べている。
 僕はと言うと、流石にキツイのでスープだけだ。
 隣同士に座りながら、時折彼女が気を利かせて「あーん」と言いながら僕に一口くれたりする。
 本当はお腹が限界だけど。

 授業が午前中だけなので、学園から帰る生徒の姿も、チラホラ見えるようになってきた。
 そして3人の女生徒が、アリアの姿を見て駆け寄ってきた。
 
「あの、試合見ました! 凄かったです」

 メガネをかけた女生徒は興奮した様子だ。
 試合のここが凄かった、感動したと次々に語っている。

 対してアリアは僕の背中に隠れるようにしながら、うんうんと相槌だけを打っているだけだ。
 アリアは怯えている。この後に「ガッカリしました」とか言われないか不安なのだろう、そんな事言われるわけがないのに。
 そんな僕らを見かねて、メガネをかけた女生徒の友達2人が彼女を脇に抱えて連行する。

「ごめんね、アリアさんの試合見て、コレがファンになっちゃったのよ」

「好きになると一直線な所があって。話したくってウズウズしてたみたいでさ」

「雰囲気壊してごめんね! また見かけたらコレが話しかけたりすると思うけど」

「次会うときにはコレも落ち着いてると思うから。それじゃまたね~」

 『コレ』と呼ばれたメガネの少女が抗議の声をあげるが、二人の女生徒の手によりズルズルと引きずられていく。

「また学校で会おうね~」

「あ、勿論アタシらもアリアさんのファンだから。マジファンなんでよろしく」

 そう言って親指を立てる女生徒。
 もしかして、その言い方流行ってるの? 


 ☆ ☆ ☆


 その後も色んな学生に会った。誰もが彼女を褒めこそすれど貶すことは無かった。
 それでも彼女は、終始僕の背中に隠れがちだったけど。
 学園の生徒に会うたびにおどおどしていた彼女も、段々慣れてきたようだ。
 と言っても、どちらかの手は僕の背中をキープしてるけど。

「この時間なら、近くでイルナさん達が勇者ごっこしていますが、見に行きませんか?」

「勇者ごっこ?」

「はい、勇者と魔王になりきる遊びです。行きます?」

「うん」


 ☆ ☆ ☆


 街の南東にある公園、というよりも空き地っぽい場所に、今日もイルナさん達は居た。
 この前よりも、子供たちの数が増えている。

「ハッハッハッハッハ。我が名は韋駄天のリン、魔王様が四天王の一人です」

 空き地に可愛らしい声が響き渡る。

「あそこ」

 アリアが指さした先には、2メートル位の高さのある木の枝の上で、バランスよくポーズを決めているリンの姿があった。
 しかし服装がいつもと違う。

 ゴスロリのような服装ではなく、普段アリアが着ている服だ。
 ショートパンツはベルトで無理やりサイズを合わせ、服の上から肩当てと手甲とスネ当てを、グリーブは流石に履いていなかった。サイズの合わない靴を履くのは流石に危険だと判断したのだろう。
 マントをバサッと翻すと同時にジャンプ。そのままくるりと縦に一回転をしてポーズを決めながら着地を決めた。

 リンの着地と同時に、子供たちから歓声の声が上がる。
 勇者ごっこの様子を見ていると、リンが子供たちに一番懐かれているように思える。
 見た目的には一番年齢が近そうだからかな。
 
「ふわぁ」

 緊張が解けたのか、一気に眠気が襲ってきた。
 デートと思って気を張っていたけど、段々と慣れていつもの調子に戻ればなんという事は無い。

「エルク眠いの?」

「はい、緊張で昨日は一睡も出来なくて」

「それなら、ちょっと寝た方が良い」

 そう言って、彼女は座って自分の膝をポンポンと叩く。
 これは「膝枕してあげるよ」と言う事だよね?
 でも流石に膝枕なんてしてもらったら、緊張で寝れなくなるんじゃないかな。
 考え方を変えよう。眠れればそれで良し、緊張で眠れない間は彼女の膝枕の感触を楽しめる。

 なんて考えてる間に僕は眠ってしまったようだ。そこで意識が一旦途切れた。


 ☆ ☆ ☆


 目が覚めたら、辺りは既に夕暮れだった。
 影が伸びてきて、寝るには少し肌寒い。

 だめじゃん!
 せっかくのデートなのに寝てたって、どう考えても大失敗じゃないか。
 明日スクール君にデートを失敗した場合の埋め合わせ方法を聞くかな。理由を説明したら指をさして笑われそうだけど。
 とりあえず、今は彼女の機嫌を取る事からか、怒っていなければ良いけど。

「えっと、アリアさん」

「なに?」

「ごめんなさい」

「なんで?」

「せっかくのデートなのに寝てました」

 彼女の膝枕で、気づけばこんな時間まで寝てしまった。
 そして今も膝枕をしてもらったままだ。

「大丈夫、楽しかった」

「本当に?」

「うん」

 良かった、怒ってなかったならセーフかな?
 無表情で僕の顔をジーッと見てくる彼女。

「あのさ」

「なに?」

「アリアも、笑ったら可愛いと思うんだ」

 普段から無表情だけど、最近はその無表情にも細かな変化があり、そこから感情がなんとなくわかるようにはなってきた。
 それでも嬉しい時は笑ってほしい、なんて思ってしまう。

「笑う?」

「うん、嬉しい時は、こんな風にさ」

 ニコっと彼女に笑いかけてみる。

「こう?」

 ちょっとぎこちなく、少しはにかんだような彼女の笑顔。
 そんな彼女に、僕は見とれていた。

「どうしたの?」

 気づけばいつもの無表情に戻っていた。

「あっ、えっと……何でもない。そろそろ帰ろうか」

 立ち上がって、お互い草や土埃を払い歩き出す。
 不意にむぎゅ、っと彼女が僕の腕にしがみついてきた。
 その、腕に当たっているのですが……

「えっ?」

「この服装で、こうするとエルクが喜ぶって。サラが言ってた」

「あ、はい」

 なるほど、サラが朝耳打ちしてたのはこういう事か。
 何かニヤニヤしてたから嫌な予感はしてたけど、この借りは絶対に返させてもらう!

 具体的に言うと、今度彼女が覚えてみたいと言ってたビーフシチューの作り方を、優しく丁寧に教えながら一緒に作ってやるからな!


 ☆ ☆ ☆


 僕の腕にしがみつくアリアを振り払うのは色々と忍びないので、そのまま宿に戻るとサラがニヤニヤしながら絡んできた。
 その隣でリンもニヤニヤしながら僕らを見ている。

「あらあら、お二人さんはアツアツなご様子でご帰宅ですか。ところでアリアさんはもう学園に行けるかしら? オホホホホ」

「うん」

 変なテンションのサラに対して、アリアは頷いた。笑顔で、ニコッっと。
 そして時が止まった。

「ヒィィィィィ、アンタ何したのよ? アリアに何したのよ!?」

「アリアが、アリアが壊れたです!」

 二人とも流石にその反応は酷くない?
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